忍者ブログ
小ネタ投下場所  if内容もあります。
 [PR]
 

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。




2024/09/25
 神羅

 鉄格子のすぐ前で二人分の足音が止まる。常とは異なる響きのそれに、彼は少し顔を傾けるだけで視線を向けた。石の廊下、びくともしない堅牢な鉄格子に手を掛けて不躾に覗き込む者と、その背後の壁に寄りかかるようにして立つ2つの人影を認めて、サファイヤブルーの瞳に驚きの色が宿る。
 黒い一対の翼に、地上にあっても尚異彩を放つその容貌と得物。
 よう、と妙にあっけらかんとした音が暗い牢内に響き渡った。
「……爆熱のアランドラに、斬空のフェルミナ……」
溜息をつくように裏切り者の名を呟いた彼は、何とも複雑そうな形容しがたい表情を浮かべていた。

拍手

PR



 コツ、と小さな音を立てて卓上に置かれたガラスの小瓶を見て、バルバトスは不審げに眼を細める。
「何だそりゃあ」
 片手で握り込めるような大きさの小瓶は、火酒にしても小さすぎる。凝った装飾からは香水かとも思ったが、この小瓶の持ち主――メルキオールはバルバトスにただの香水を持ってくるような類の酔狂さは持ち合わせていない。
 ということはつまり、得体の知れない何かだ。
「媚薬」
 案の定、メルキオールは卓の向こう側のソファに体を預けたまま、事も無げに言い放つ。
 媚薬、とは言ったものの、怪しげな惚れ薬の類ではなく、ただの催淫剤である。繁華街でひっそり取引されているようなシロモノで、その界隈では特に珍しくもない。場所さえ知っていれば誰でも手に入れられるような品である。……もっとも、歴とした王族であるメルキオールがそんなものを所持しているのは大問題なのだろうが。
 へぇ、とバルバトスは片眉を上げる。こういう「誘い」は珍しいことではない。
「で、それを使って何をしようって?」
 媚薬が目の前にあるとして、お互いそれを使いたい相手は目の前である。何ってナニに決まっている。
 挑発と揶揄を込めた笑みを浮かべて言うバルバトスに、メルキオールも隙のない微笑みで応じ、いつの間に取り出したのか、手の中のものを机の上に置いた。
「……おい」
 卓上には、透明な液体の入った小瓶が二つ。瓶の装飾も液量も同じ。
 一見してどちらも差がないように見えるが。
「賭をしないかい?」
 緑翡翠の色をした瞳には、明らかに面白がる色と期待が浮かんでいる。
「どっちかが当たり、ってか」
「その通り」
 勝っても負けても損はないだろう、言われて、バルバトスは頷く。確かに損はないし、このお遊びを受けない手はないが。
「良いのか?下手に効いたら手加減出来ねぇぜ」
 流石に正気を失うほど若いつもりはないが、そもそも獣牙族と飛天族では基礎体力から違う。それを示唆しての言葉だったが、メルキオールは平然と肩を竦める。
「どうせ君には少ししか効かないよ。冗談みたいに代謝がいいくせに」
 メルキオールにしては楽観的すぎる発言に、口を開きかけたバルバトスだが、それを制すように緑の瞳が視線を合わせてくる。物言いたげなその色に、バルバトスは結局、開きかけた口を閉じた。
 楽観、ではない。要するにこれは、遠回しな『構わない』というサインなのだ。
「……後悔すんなよ?」
 言いながら、バルバトスは手を伸ばして小瓶の片方を取る。
「しないさ。流されて狂ってみるには、媚薬なんて丁度いい理由だろう?」
 残った方の小瓶を手元へ引き寄せながら、メルキオールが言う。
 まるで二人で狂ったって良いような口ぶりだ、バルバトスは思いながら瓶の中身を煽った。

拍手




 私の腕は、貴方のために
 私の足は、貴方のために
 私の声は、瞳は、心臓は、命は、全て貴方のために

 見返りは要らないから、どうか傍に。

拍手




2009/12/06
 神羅

 軍師というのは超弩級のマゾなんじゃないか、とシェイドは密かに思っている。
 神経質なほどの几帳面さを伺わせる、塵一つ染み一つ無い真っ白な手袋。その中指で、逆光で光る眼鏡をくいと押し上げる様子なんて、どこからどう見てもドエスだというのは、シェイドだって異存はないが。

 けれど、毎日毎日上がってくる数字を睨んで、地形と天候と兵力と兵糧と、些細な報告を頭の中でパズルのように組み上げて。
 相手の考えを、想像して、想像されて、読んで読まれて頭の痛くなるようなスパイラルの果てに導き出した結論には、正解・不正解の評定を理屈で下してくれる存在なんてどこにも居ない。確かめる方法はただ一つ。実際戦場で試してみるだけ。
 正解だったなら、生き延びる。けれど間違いだったなら。
 報告にあった数字は正しいか?自分の考えは正しいか?計画通りに人が動いてくれる保証は?もしも情報が漏れていたら?
 薄氷を踏むような、綱渡りをするような、どこにどうやって足を下ろせば安心なのか。区別の付かないスリルに日夜苛まれながら、それでも正気で生活しているなんて、よっぽど神経が太いか、マゾか、或いはもう狂っているかだ。
 セツナがこのうちどれに当てはまるかと言ったら――


「――どうしました? シェイド」
「いえ、何でも」
 慌てて思考を切り離し、遅れた歩調を少し早めて、シェイドは前を行く少年へと追いつく。赤い鳥に似た翼を負う少年の、柔らかそうな金髪に隠された輪郭と、未だ幼さを残した顔立ちは中性的な雰囲気を醸しだしており、微笑むと少女と勘違いしそうだ。
 王、と名乗るには随分可愛らしいが、気は抜けない。何しろこの少年も、有能な軍師なのだ。見た目のように可愛らしいヒヨコで終わるわけがない。

拍手



 神羅

 娯楽の本質を考えたことがある?

 競うこと? 共感すること? 何かを壊して創ること?
 ある地上の人はこう言った。

 『全ての娯楽は死と生殖の模倣だ』

 私達には寿命がない。
 寿命がないから入れ替わらない。入れ替わらないから血を継ぐ者はいらない。

 ねぇ、だから胸焦がす恋の代わりに、心震わせる戦慄と猛りを。
 死への恐れを呼び覚ます、狂おしいまでの生への執着を。

 奪い奪われる刃の交歓を、はじめましょう、地上の人。

拍手




 三足程で登り切った彼が、岩上の平面に膝を付く。両足ともが岩の上に揃うと、握った掌が緩んだので、おとなしく手を離した。離してしまってから、未練がましくも少し名残惜しい気分になった私を余所に、彼は適当な位置に体をずらして腰を下ろす。ありがとう、と言う声に言葉を返すのもなんだか大袈裟な気がして、うん、とだけ頷いた。
「星、少しだけなら解るよ」
「では、ご教授願うよ」
 ええと、言いながら天を仰ぐ彼は、それでも足りなかったのか、両手を斜め後ろについて体を傾ける。狭い岩上では隣り合うことは出来ず、けれど背中合わせでもない微妙な角度で、少しだけ肩が触れあった。
 あれが大三角、あれが天馬の翼、あれが明るさの変わる鯨の心臓、それから天馬の星を繋いで延ばして、明るい星を探す方法。
 彼は存外星空に詳しくて、私はただそれを感心して聞いている。細かな光の散る空から、いくつかの星を見つけ出してくる鮮やかさは、まるで魔法のようだ。
 柄杓の形をした明るい星々の、2番目は二つの星で出来ているのだと彼が語るので、私も彼の指先に眼をこらす。
 眩しいくらいの星空の中で、目当て星を探すのはなかなか難しい。手伝うように、彼の指先が柄杓の形を追って動く。
「――あそこだよ」
 せせらぎ以外聞こえない静けさに合わせて落とされた声が肩口辺りで聞こえて、一瞬気を散らした私のすぐ傍で、彼がもう一度言った。
「端から、1、2、……見えた?」
 私はといえば、ともすれば彼の方へ傾きそうな意識を彼の指先の示す方へ集中し、目当ての二つ星を見つけるのに精一杯だ。やっと見つけてそう言うと、彼は満足したように、うん、と頷いた。
「それから、あれが北極星。あ、でも北極星っていうのは星の名前じゃなくて、いつでもあの位置にいて動かない星のことなんだ。だからずーっと昔は別の星があの位置にあったんだって」
「ああ、そういう星は羅震獄にもあったよ」
 へえ、と彼は興味深そうに相づちを打ってくれたが、残念ながら私はそれ以上語ることが出来ない。地崩れで舞い上がった埃の舞う空は、星の光をほとんど通さなかった。
 ……そんな崩れかけた世界の様を、彼に話したことはなかったけれど。

拍手




 期待半分、冗談半分で差し出した掌に、一回り小さな掌が載る。

 得難く、ひどく愛おしい気のする、掌。

 何の躊躇いもなく握られた手に驚くより先に、己の手は勝手に彼の手を握り返した。握られた力よりも強く、離れないように。そのまま彼を岩の上へと引き上げる。君の視線が高くなる。距離が近づく。

 胸を埋める感情の名など、今はどうでも良かった。

拍手




2009/11/18

 川面に突き出た岩の一つに腰掛けた人影を認めて、やっぱり、とマキシは小さく笑う。
 川の上の風は速い。もう冬も近いこの時期、風は冷たいだろうに、彼は何でもないように、蒼い髪が揺らされるに任せている。
 そうして星を数えている彼の気配は滑らかにこの場に溶けこんで、まるで景色の一部のようだ。青い容姿も闇の中にとけてしまって、岩上に落ちた袂さえ違和感がない。唯一浮いた色をした紅白の襷だけが、存在を主張していて、マキシはなんだか隠れん坊の鬼にでもなった気分だ。
 水の音にまぎれてか、彼は珍しくこちらに気付かない。いや、気付かないふりをしているだけかも知れない。ずっと黙っていたことを知った後に顔を合わせるのは、少し気まずい。
 もしも名前を呼んで、それでも彼が振り返らなかったら。そんな「もしも」をぼんやりと危惧しながら名を呼ばわると、彼は存外簡単に振り向いたので、マキシはそっと息を吐いた。
 帰ろう、と言うのは簡単だったのだけれど、それもなんとなく後ろめたくて、結局、星、見てたのか、と当たり障りのないことを問うた。そう、気付かないふりだとか振り返らなかったらだとか、そんなことを考えてしまうのは、全部マキシに秘密を知ってしまった後ろめたさがあるからだ。
 あまり意味の無かった台詞の真意も問わず、彼は、来るかい?とマキシに向かって掌をのべる。
「故郷の空とは違うから、星空案内は出来ないが」

拍手




2009/11/10
  煙石

 祝福の声は茫洋と響き、何処か膜一枚隔てたように実感がない。嬉しげに微笑む人達へ向けた己の言葉さえ、よく覚えていない。それが何故なのか彼は知っていた。

けれど彼はそのどちらの人もを好きだったので。
だからそれは嫉妬や嘆きに変わることもなく、ただ、密やかに箱の中に仕舞い込まれた。




「お前、ホントは、」
 あの人のことが好きだったんじゃないのか。

 言葉は言う前に塞がれた。頭ごと抱え込まれて。

「いいんだよ」
 だから耳元で囁いた彼の表情がどんなだったのかは判らない。
「……君まで箱を開くことはない」

拍手




2009/11/10

 軋りをあげる刃の向こうにあるのは、志を同じくした友の顔
 滅びを齎す黒の呪言を唱えるのは、幸せを信じた女の唇


 お前達も呼び起こされたか。700万年の眠りから。

拍手




2009/11/09
prev  home  next
ブログ内検索

忍者ブログ [PR]
  (design by 夜井)