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2024/09/26

「――誓いましょう」
 貴人の手を取り、恭しく甲に口づける。
「私が」
 そのままうっすらと浮いた血管を末端へ向けて唇で辿りながら、言葉を続けた。
「私であり続ける限りは」
 中指の先までを辿り、少し伸びた爪ごと指先の肉に歯をたてる。
 ぴくりと震えて逃げようとする手を強い力で握って引き寄せ、ナルサスは主を見上げた。

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『クイーン!居るんでしょう、開けてください!クイーン!』
 ドアに背中を押しつけて、ずるずると座り込みながら、クイーンは言う。
「RD」
[何です?]
「キャビンのドアをしばらくロックしてくれ。ジョーカー君には悪いけど、鍵だけじゃ心許なくてね」
[……いいんですか?]
 ドン、と強く扉を叩く音に混じって、クイーン、とまた呼ぶ声がした。
 振動として伝わったその衝撃を背中で感じながら、片膝を立てて座り込んだクイーンは苦笑する。
「今この戸が開いたら、私は彼に何をするか解らないよ」
[ですが……]
 ドアの外で、RD、と呼ぶ声がする。
「頼むよ、RD」
[……解りました。ロックします]
 音一つ無く、キャビンのドアにロックがかかる。ドアの感触でジョーカーもそれに気付いたのか、扉を叩く音が強くなった。
『クイーン……ッ』
「入って来ちゃ駄目だよ、ジョーカー君」
『何故ですか』
「今君にあったら、私はきっと君を驚かせるし、失望させるよ」
 それが何だって言うんですか、扉の外の声は言う。
『あなたは常日頃から僕が驚くようなことや、失望するようなことをしているじゃないですか』
 何を今更、という調子の声に、クイーンは苦笑する。
「そうじゃないんだよ。……そうじゃないんだ」
『……何があったんですか?』
 少しだけ感情の滲んだ声に、クイーンは困ったように小さく声を上げて笑う。
「何でもないよ」
 ただ君が愛おしくてしょうがないだけ。

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「旦那ぁー、泊めてくれよー」
 ガチャリ。
 ヴォルフは扉を閉めた。
 ついでに記憶の扉も閉めて、今見たものを全部見なかったことにしてしまいたかった。
 だが、無情にもチャイムはピポピポピンポン、と鳴り続ける。しかも連打だ。
「何で俺が泊めなきゃならないんだ!」
 部屋の外に向かって怒鳴ると、外から困ったような、情けない声が返ってくる。
「探偵卿クビになった所為で、ホテル追い出されちまってさ。行くところ無いんだよー。な、旦那、パートナーの誼で!頼む!このとーり!泊めて!」
 この通り、と言われても、覗き穴の付いていないドアから外が見えるわけもない。仕方なくヴォルフは、ドアチェーンを掛けてから細く扉を開ける。例えチェーンが無くとも、仙太郎がドアをこじ開けようとしたところでそれを阻止する腕力を持っている自信はあるが、どうにもこの若者は油断がならない。

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「ハッピーバレンタイン」
 台詞と共に、ほとんど鼻先にココアパウダー塗れの物体が突き出された。
 見た目こそはつるりと球状に整えられた表面に、芳醇な香りを放つココアをまぶした上品そうな菓子だったが、そのシンプルな外見と表面の苦みは裏腹に、その中身は大層甘ったるいことをナルサスは知っている。

 ……人のことを言えた義理ではないものの。 

 悪い意味で似ている、と彼は思う。
 目の前の人物も見た目こそハートでも飛ばしそうな上機嫌の、いかにも人の良さそうな笑みだったが、その腹の内まで同じように人が良いとは限らない。

「どうした、食べないのかね」

 言って、メルキオールは摘んだトリュフを指先でほんの少し転がす。ごく僅かな量のココアが剥がれて指に残るのを見ながら、ナルサスは深く溜息をついた。
 この距離に差し出すということは、つまり直接口にしろと仰るのですね?

 ほら、と急かされてナルサスは渋々口を開く。
 途端に、待っていたように口にトリュフを押し込まれて、ナルサスはぎょっとした。
 唇に一瞬だけ触れた指は、満足げに去ってゆく。
 
 口の中に残った一粒は、ココアパウダーが剥がれてみれば矢張り大層甘ったるく、呑み込んだ後も香りと甘みが濃厚に残った。


「……私は、こういうものは苦手なのですが」

 言えば、メルキオールは指に残ったココアを舐めて、知っているよ、と悪戯っぽく笑った。



 (ああまったく、子供のうちにもう少し怖い目に遭わせておくべきだったのでしょうか!)

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2008/02/16

「ああ、夜が明けますよ」
 溶けない氷と、芯まで凍える大気の支配する、この厳格なる白の大地。
 見渡す限りの雪原が橙色に染まり始める。
 彼は眩しげに眼を細めた。

――極夜の夜が明けてゆく。







「ばぁか。こっちはとっくに明るいっつーの」
 電話口からの声にそう返す。
 雪に降り籠められる町に昼を吹き込む光。
「早く帰ってこいよ。のろのろしてて、また夜になったりしたら承知しねーから」

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2008/02/10
 祝杯
 神羅

「……アレックスはどこにも行かないだろうね?」
 ぽつりと冗談のように呟かれた、けれど案外真剣な調子を含んだ言葉に、アレックスは呆れながら言い返す。
「当たり前です!あまりふざけた女の子扱いすると怒りますよ」
「ああ、私が悪かったよ。……しかし、まだ気にしていたのか」
 良いじゃないか、貶されているわけではないのだから、言う声に、それでもアレックスは不満そうな顔を崩さない。
「悪いですか。男なのに女の子みたいだなんて、一国の王としての威厳が……」
 そこまで言って、ふとアレックスは口を閉ざす。肩の力を抜いて、ふ、と息を吐いた。
「……とにかく、僕だって『男の子』なんです。……解るでしょう」

 
 

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 神羅

 仰角約36°、標的移動速度24km/h.
 発射角度38°、初速は音速の手前。ここまではコンマ1秒以下の判断。
 さあここからが腕の見せ所、計算通りに飛んで頂戴!
 
 Lock-on. Fire!

 ドォン、体の奥まで響く音と共に、掲げた左腕、肩、それから順番に足までを衝撃が駆け抜けるけれど、鋼の体はそんなことじゃ壊れない!
 わずかな弧を描いて飛んだ砲弾は、見事羽根兜にぶち当たった瞬間炸裂して、周りの羽根野郎も巻き込む炎と衝撃波を撒き散らす。

 天使?とんでもない!

 そう言いたくなるような悲鳴を上げて落ちていく奴らを確認したところで、金に染まっていた視界がすっと明度を落とす。
 まったく、撃ち落としても撃ち落としても減りやしない。
 ふっと息を吐いたところで、上からの怒号。(ああ、悲鳴じゃない、って聞きわけられるようになっちゃった!)はっとして振り仰ぐと、降ってくる槍と矢の雨。舌打ちして腕を掲げかけたところで、視界を黒い巨体が塞ぐ。
 風切り音を纏った腕の一振りで凶器の雨が薙ぎ払われ、硬質の音が響く。
 巨躯の薙いだ直後の空間に向けて、私はセットしていた銃弾を撃ち込むっ!鉛弾が装甲を貫通する音と、盛大な地響きとを背景に、鋼の巨躯が降り立った。
 身を起こし、濃い緑の髪をなびかせて、姉さんが振り返る。
「気をつけろ、あいつ等死角を狙ってくるぞ」
「わかってるわよ、ちょっと油断しただけ。第七の将軍は?」
「もうすぐ着くらしい」
「じゃ、それまでに片付けちゃいましょ、あの人の仕事が無くなるくらいに!」
「ああ、遅く来たことを後悔させてやる」
 揃って不敵な笑みを浮かべて、私達は駆け出す。
 
 双子の戦女神、ここに降臨。

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2008/02/03
 神羅

 各々牙を剥け爪を研げ。
 耳を澄ませろ目を光らせろ、持ちうる限りの全てを尽くせ。

 小細工も知恵も何も持たない 本物の獣達のように、
 身を低くし、全身をしならせ、
 稲妻より速く 風よりも身軽に
 さあ駆け抜けろ!

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2008/01/29

 長い指のうち、人差し指から薬指までを、ふっくらした小さな手が握りしめていた。
 ぷくぷくした手の彼女の背丈は、握りしめた指の主の半分もなくて、それでも強がるように時折鼻を鳴らしながら、真っ赤な顔をごしごしこすっている。
 その手を引いて歩く長身の彼は、気を遣っているのか少しだけ女の子の側の肩を下げている。姿勢の良い彼には少し辛いかも知れない。
 人混みの中、ざらついた石畳を歩いていた二人は、やがて小さな建物の前で立ち止まる。
 彼が硝子張りの戸を叩くと、中から制服を着た女性が出てきた。軍服とは違う、ちょっと青みがかった制服。
 婦警さんは彼と二言三言言葉を交わしてから、しゃがみ込んで足下の女の子と目線を合わせた。何事かを女の子に言うのだが、女の子は泣きやまない。握りしめた手に力が加わったのが解る。
 彼が困ったように女の子を見下ろしている。こういう所は気が利かないなぁと思っていると、婦警さんがまた何かを言う。明るく微笑んで、優しげに女の子の手を握った。
 声は聞き取れなかったけれど、それでやっと女の子は口を開いた。ぽつりぽつりと何かを喋る。
 長い指を握った手がほどけて、彼は下げていた肩を元の位置まで戻した。
 婦警さんが女の子の手を引く。まだベソをかきながら交番の中に入っていく女の子は、戸が閉まる前に振り向いて、彼に手を振った。
 彼は相変わらず少し困った顔を無理矢理に笑顔の形にして、手を振り返した。


「――面倒見良いとこあるじゃん」
 後ろから声をかけたら、あからさまに見られた、という顔をされた。
「見てたんですか、君」
「そりゃもうばっちり最初から最後まで」
「替わってくれれば良かったのに」
 君の方がよほど慣れているでしょう、少しだけ不満そうな調子の声は聞き流す。
「子供好きじゃないの?」
「嫌いですよ」
「何で」
「扱いづらいからです」
「の、割にはちゃんと面倒見てたみたいだけどー」
「だから嫌いなんですよ」
「……どういう意味?」
「さて」

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 神羅

 あ、

 と、思った。
 体が動かなかった。こんな時にどうするべきかは知っていたのに。
 自分に向けられた視線ではなかったのに、その暗い目を見た瞬間足が竦んだ。

 時間の流れが突然緩やかになったかのように、
 その誰かは白刃を翳して突き進んでくる。
 滑らかな石で出来た広間の床、
 そのごく目立たない石の継ぎ目を革の靴が踏み越えた瞬間、
 反射的に片足を後ろに踏み出した。
 それでも目が離せない。
 ステンドグラスの弱い光を凶器がきらりと弾いて、
 視界の端で何かが動いた気がした、
 

 次の瞬間、背後から回された腕が肩を拘束して強い力で後ろに引く。
 何が起きたのかを認識する前に、僕の視界は塞がっていた。 
「アレックス」
 酷く優しげな声で父は僕の名前を呼んだ。
「見てはいけないよ」
 掌の暖かさはしっかりと僕の視界を塞いでいた。

 けれど、
 高い金属音が五回。
 四回目はは舌打ちとともに一際高く、そして少し遅れて、床に落ちて跳ね返るように最後の一回。
 それに被って空を切るような鋭い音と、短い呻き声。

 最初に一つ、ぴしゃ、
 次いでびしゃびしゃと大量の水が落ちる音。
 少し遅れて重い何かが床に叩きつけられる音。
 興奮した男の荒い息ももうきこえない。
 人のざわめき。
 ご苦労、と誰かが言った。一拍してから、父の声だと気付いた。

 視界を塞がれても。
 この場で何が起こったのかは明白で。

 鼻先を掠めた鉄錆の匂いに思わず鼻を覆った僕に、お前にはまだ早いんだ、と父の声が囁いた。 

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