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2024/09/27

 光。
 窓の外を小さな眷属達の影がよぎる。
 そんな時刻かと思いながら身を起こそうとして、目の前にある物――今の今まで縋るようにして抱きついていた男の腕に気付いた。
 ああそうか、と納得し、寝直そうとして視線を落としたところで違和感にふと眉を顰める。
 調度が違うのだ。
 どう見ても居城のそれと、目の前の腕。
 悔しいことに一瞬理解が及ばず、慌てて起こそうとしたその体を鈍痛が襲った。
 小さく呻いてついた腕を折る。折ったそのまま突っ伏すと、その布に埋めた顔を覗き込まれた。
「……大丈夫か?ちょっと無理させたな」
「…何が『ちょっと』だ」
 言う間に背に手を回されて引き寄せられる。緩やかに頭を抱かれて、メルキオールは大人しく褐色の胸に顔を埋めて鼓動を聴き―――唐突に顔を上げ、自らを見下ろすと、耳の辺りを擽っていた髭を引っ張る。
「コラ、何すんだ」
「何じゃないだろう。こんなに痕をつけてしまって、どうしてくれる」
 本気なのか演技なのか、不機嫌そうな色を表情に滲ませた恋人に肩をすくめて、バルバトスは応える。
「どうせ見えねぇだろ」
「私からでは隠せるところしか確認できない」
「全部隠れるから安心しろ。それに見えたところで何を悪いことがあるんだ」
 言い草に呆れて、メルキオールは処置無しとばかりに天井を仰ぐ。けれど離れることはせずに、ことりと広い胸に頭を預けた。
「……何故お前みたいな奴に惚れているんだろうか」
「お前が悪趣味だからだろう」
「お前も人のことは言えないだろう?」
「違いねぇ」

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 神羅

 なにか奇妙な違和感を感じて振り返ったそこには、剣を抜いて立つ王の姿。
 息を飲んだ。
 血の色でも銅の色でもない、奇妙なほど赫い刃と、燃え立つような波打つ刀身――「炎帝の剣」。それは代々飛天王のみに受け継がれるそれは王位の証でもあり、故に王はその地位と正当性の証明のために、公式の場では必ず佩刀することになっている。
 しかし――否、だからこそ炎帝の剣は軽々しく抜いてはならない。それを持つ者は飛天王とその継承者だけ。それをぬき、特徴的な刀身を曝すということは己が王であると宣言するに等しい。戦場で抜けば狙われる。
 いくら王の血筋には強大な魔力が宿っていると言っても、所詮人の身に授かることが出来る力は限られている。攻撃が集中すれば全てを防ぎきれるとは限らない。だから、炎帝の剣は戦場では使わない――使ってはならない。今のような、敵味方入り乱れての乱戦で抜くのは自殺行為にさえなる。
 ―――何を考えている。
 劣勢に業を煮やしたか。あるいは敵勢に恐れでもなしたか。
 いずれにしろ危険すぎる。
 ――止めなければ。
 声を荒げようとした瞬間、剣戟の音でも聞いたのか、はたまた全くの偶然だったのか、真紅の翼を負った者は振り返る。
 黄金色の髪が揺れて、翠の瞳がこちらを捉えた。こちらが何かを言うよりも早く、否、言葉を紡ぐのを制すように、
 確かに、ふと、その人は笑った。

 その奇妙に余裕を含んだ表情に、言葉を奪われる。

 戸惑った一瞬の間に視線は逸れて、王はあっさりと前へと向き直る。
 ―――何をする気なのか。
 問うまでも、待つまでもなかった。

 掲げられた赤い刀身は、目の前で、文字通り燃え上がった。
 次いで突風。
 孤剣を掲げて立つ王を中心として渦巻いた風は、服の裾と土煙を巻き上げて駆けてゆく。魔力の解放によって起こる風だったが、今回は異常なほど強い。
 その間にも剣に宿った炎は光を増してゆく。――否、輝いているのは炎ではない。剣自身が、さながら溶岩のように発光しているのだ。
 剣を媒体とした魔力の発現。
 今更ながら感じ始めた、場に満ちる強い「力」。
 王が高く剣を掲げる。さながら天を突き刺すように。

 そして、声。

「コロナ・ストーム!」

 炎を司る王の声に応えて、100万度の光と大気が、衝撃波となって荒れ狂うっ!

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 call
 神羅

 貴方は気付いているのだろうか。

 役職か、続柄か、あるいは二人称でしか、貴方を呼ばない僕に。

 決して貴方の名前を呼ばない僕に。



 どういう調子音量音程感情で、貴方を呼べばいいのか、解らない。

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2006/05/02

 馬鹿げている、と思うことがないわけではない。

 元から自分は移り気な方だと自覚しているし、一箇所に留まらずにふらふらと飛び回っている方が好きだ。
 こんな身分で言うのも何だが、その方が性に合っている。
 それなのにいざ城を抜け出してみれば、特に用があるわけでもないのに足を――慣用的にそう言うのであって、実際当てはめるとしたら「翼」にでもなるのだろうが――向けるのは大抵がこの男の所で、しかもそんな状態が既にだいぶ長く続いている。
 それほどまでにこの男が気に入っているのかと言ったら、確かに気に入ってはいるが、では何処が気に入っているのかと問われたら、実は少々答えに詰まる。
 何しろこの男は粗野だし無骨だし、力強さはあるが飛天での美徳たる優雅さなどは欠片もない。
 それに、自分は主導権を握る、或いは取り合うのが好きなのであって、握られるのが好きなわけではない。なのにこの男はと言ったら、機微には疎いし、無駄に強気だし、人の都合は無視して好き勝手なことをするし……まあ、それは自分も同じなのだが。
 いずれにしろ、こんな男に執心するなど、馬鹿げていると思うのだけれど。
 本当に、どういうわけなのか。
 包み込むように抱きしめる腕も、安定して響く低めの声も、どういう理由か酷く心地良くて、結局どうしても離れる気にはなれないのだ。


「…重症だな」
「…んー…?」
 独り言に返ってきた眠そうな声に、何でもないと返すと、それなら寝ろとでも言うのか何なのか、太い腕に引き寄せられる。
 横暴な腕の体温を心地良いと思いながら、メルキオールはシーツと広い胸に顔を埋めた。

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 遠雷
 神羅

覚えなさい。
 (剣の技、魔法の性質、それを扱う心構えを)

鍛練なさい。
 (肉体を、精神を。長い戦いにも耐えられるよう)

叶う限りを尽くしなさい。
出来うる全てを伝えるのだから、一つ残さず取り込んで、己の血肉と成しなさい。

覚えなさい、全てを。
精進しなさい、その日まで。

何時私の元を、離れる時が来てもいいように。

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 白亜

「何故鳥に鎖をつけないのか、考えたことはありますか?」
 視線はこちらへ向けられたまま、後ろ手で錠を下ろす音。重く響いた金属音に、知らずびくりと肩が跳ねた。それに小さく笑って、ナルサスは扉から離れる。

 靴音は嘲笑うように、あるいは脅かすように。

「鳥のように華奢な生き物には、鉄の鎖は重すぎる。それにもし絡みでもすれば骨を痛めてしまいます。何より鳥は翼を持つもの、愛でるにしても矢張り羽搏や囀りを聴きたいものです。だから鳥には鎖など無粋な物は付けず、籠に捕らえるわけですが―――」
「っ!」
 伸びてきた手に俯いていた顔を無理矢理上げさせられ、正面から目が合う。幸いにも手はすぐに離されたが、だからといって視線が外せるわけもない。
「……愛でられていることを気にも留めない鳥は、籠が少しでも開いているとそこから逃げてしまいます。籠の中で暮らす鳥には、外の世界は危険だというのに。……そして、戻ってきた鳥を籠へ戻せば、また隙を見て飛んで行ってしまう。不埒な獣に喰われでもしては困るのですが、あなたは何度言っても聞き入れて下さらない。――それとも」

 ぎ、と腰掛けた寝台の軋む音。のしかかる様にして覗き込まれて、メルキオールは小さく息を呑む。

「…こうして捕らえれば、少しは考えていただけるのでしょうか?」

 目と鼻の先、人間離れして整った顔が嫣然と微笑む。

「さあ、出奔の弁明をしていただきましょうか」

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『私から去るなど許さない』

 即位したその式典の直後、言祝ぎと共に突きつけた言葉に、王はそう答えた。

「『私から去るなど許さない』……そう、言われましたね」
「ああ。……今問われてもまったく同じことを答えるよ、私は」
 ふわりと微笑んだ顔は、虫も殺さぬかに見えるのに、
「私から去るくらいなら、今代限りでお前を殺そう」

「……貴方はなんて情が深いのでしょうね」

 言葉と共に仰ぎ見た空は抜けるように青い。目の前に広がる自由の前で、飛び立つこともせず抜けそうに緩い拘束にそれでも捕らわれている。

「私のために死ねばいい」

 睦言にも似た囁きにナルサスは笑った。

「私はそう簡単には死にませんよ?」
「ではそれだけの状況を用意しよう」
「国を荒らす貴方など見たくはありません」

「ではお前は私に殺されてくれるのかね?」


「貴方がこの世界から去ろうとするその時になら、喜んで」

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「悠久に比べれば、人の一生など短いものです」

 何時か私は貴方から去るし、何時か貴方は存在ごとこの世から去るのでしょう。

 
 いつもの戯れ言のような調子で言った言葉は、その意味とは裏腹に静かに床へと落ちた。さながら戯れに紡ぐ言葉のように。
 否、おそらくこれは今言うべき言葉ではない。試そうとして放った言葉は、だから多分戯れ言の範疇だ。例えどれほどの深い意味を持っていたとしても。
 試したのはこれが初めてではない。今はもう亡き墓の下の王達に、散々言ってきたことだ。

 戒めと。確認と、
 (ああ、けれどこの永劫の繰り返しが途絶えたなら、)
 ほんの僅かの期待を以て。

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 神羅

 何かを忘れている気がする。
 忘れてはならない何か。
 己には酷く不似合いな、けれど切り離せない、何か。





 上空から、小柄な一人とそれを囲むようにした数人へと魔法を放つ。暗い色をした炎に焦がされる前にその場を飛び退いた、緋の二対の翼を持つ相手の眼前へと降り立てば、少女のように優しげな面差しの少年は眼を瞠り、次いでその面に緊張と敵意を漲らせた。
 彼の親衛隊か何かなのだろう、先ほどの魔法で散らされた騎士達が駆け寄ろうとするが、年若い王はそれを制す。反駁の声にも彼は答えず、その若草色の瞳に強い光を浮かべ、射るような眼差しでこちらを見る。
 知らずその名が口をついて出た。
「…飛天王、アレックス……」
 

タオスベキテキノナ



道を阻む五つの―――――――――――――――
―――――――――厄介な相手

―――目的の障害

敵――――――

―――――――――――その首級を挙げよと

憎き愚か者ども―――――――




―――けれど懐かしい。



「……?」
 唐突に浮かんだ思考に、心中で首をかしげる。



             ――懐かしく、

懐かしい?


             ――愛おしく

一体これは?

             ――大事な、



―――大事な何だというのだ!


唐突に脳裏に浮かぶ言葉を振り払う。
 年若い飛天の王は先ほどの言葉を問いと受けたのか、こちらから視線を離さずに頷く。
「確かに僕が飛天王です。……貴方は何者ですか」
 圧し殺すように出された低い声。その声に呼応するように胸中に広がった名も知らぬ感情に戸惑う。
「貴方は誰です、答えなさい!」
 激しい誰何。
 小柄な少年の纏う、その炎のような気迫に眼を細め、口を開く。
「――我が名は鳳王フルスベルグ」
 握った抜き身の剣の、その切っ先を向ける。
「皇魔族四天王が一人として、その首貰い受けに来た」

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2006/03/23
 Balance
 神羅

 苦しい、と言ったら貴方は愛想を尽かすだろうか。

 人の顔色を伺うだけの愚物に成り下がれたらどんなに楽だろう。
 綺麗事だけを並べる聖人君子になれたらどんなに良いだろう。
 あるいは非情なだけの暴君にさえ、なれたならそれは幸せだろう。

 けれどそのどれにもなれない、賢君でひたすらあろうとする自分。

 ただ貴方に見捨てられたくない一心で、この危うい均衡を保っている、僕。

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2006/03/22
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