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2024/09/23

「もういいの?」
「はい。手入れは終わりましたから」
「家族……じゃ、ないよね。名前、違うし……」
「ええ。仲間、です。……以前は、彼等と一緒に迷宮の底を目指していました」
「こっちの墓地ってことは、エトリアの人だったんだ」
「いえ、彼等は籍を取ったばかりで……でも共同墓地に埋葬される資格はあったので、ギルドの資金で私が場所を用意したんです」
「そっか。……あのさ」
「……はい」
「一緒の所に入れて、そうしてもらえて、この人達はユーディアに感謝してると思うよ」
「…………」
「そう思うんじゃ、楽にならない?」
「……ありがとうございます。でも、彼等は……私を……恨んでいるかも知れません」
「何でそう思うの」
「……私が、彼等を殺したからです」

「私は守りきれなかった。私の盾の内側で、彼等は命を落としたのです」

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2010/07/13

「あんたに話がある」
 およそ人に物を頼むための愛想という物を一切繕わぬ声音に、ルベラはゆるりと戸口を見遣る。
「明日、メンバーに入ってもらいたい」
 白衣を脱いでしまえば、到底治療に携わる者とは思えない派手な出で立ちの男は、軽く扉の縁に手をかけたまま言う。だがその内容とは裏腹に、男の口調は命令するような、有無を言わせぬそれだ。
「随分急な話だな。だが、磁軸を使えるのは五人までだ。私と替わるのは誰だ?君か?」
 ルベラの問いに、男は笑う。知っているくせに。そう言いたげな皮肉な笑み。
「冗談。――ユーディアだ」
「……ほう?」
 ルベラはゆるやかに一つ瞬いた。
「その彼女本人はどうしている」
「よく寝てるぜ。残念だけど自分の部屋で」
「では、これは君の一存というわけか」
「メンバーの状態見て、必要なら無理にでも休ませんのも俺等メディックの仕事なんだよ。建前だけどな」
「彼女が不調だとしても、全力の私が彼女の実力に及ぶとは思えないが」
「そりゃ、確かにあんたじゃ力不足だ」
 あっさりと肯定して扉から手を離し、男は傍らの壁に背を預けた。
「でもユーディアにゃ、こんな仕事は役不足なんだよ。あいつはこんな、汚れた仕事をする必要はない。相応しいのは俺や、」
 そこで一度言葉を切って、男は、く、とその面に挑発するような笑みを浮かべる。
「――あんたみたいな人間だ。こんな汚れ役に、あいつを使うなんざ勿体ない。あいつはな、ああいう高潔な騎士様みたいな、お綺麗な役をやってりゃいいんだよ」
 言葉の端々に滲む皮肉と、その台詞に似合わぬ強い視線を、真正面から無表情にルベラは受け止め、見つめ返す。
「もし私が無理だ、と言えば」
「その時はお前の代わりにガキ連れてくまでだ」
「――……まるで脅しだな」
「まるで、じゃねぇ、脅しだよ。言ったろ?汚れ役が似合いだって」

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 狩った命の爪を、皮を、肉を、内臓を、剥いで残った骨と血を、地面に吸わせて土へと還す。
 それが当たり前の営みだった。営みの、はずだった。

 目の前には小さな塚がある。
 土を盛って、その辺りから拾ってきた石を立てただけの簡素な物だ。下には何も埋まっていない。この手が放った矢が射抜いたモリビトの数は、こんな小さな塚一つの下にはきっと納まらない。
 ――きっと、なんて曖昧な言い方をするのは、殺した数を覚えていないからだ。数える暇さえなかった。或いは故意に目を逸らしたのかも知れない。
 いずれにしろ、自分達はモリビトを埋めることさえ出来なかった。それすら惜しんで、4階層を駆け抜けた。

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2010/07/08

「それが容認できないと言っているのです!」

 苛烈なアクアブルーの眼を至近で見つめ、グロッシュは唐突に、笑いたくなった。
 自嘲ではない。ただ、その、眼の烈しさと一途さが。
 可愛い、なんて言ったら怒るのだろうけれど。
 それも面白いかな、と思いながらグロッシュはふ、と肩の力を抜く。痛覚刺激は断じて受け容れられないが、まあ、沸騰しそうな彼女の気が済むなら、一発くらいは。
「かわいーなぁ、あんた」
 ふと漏れた呟きに、襟首を掴んだ手が、一瞬緩んだ。瞳の苛烈な色が僅かに薄れて、思い切り寄った眉が少しだけ開く。それを見たら本当に変に浮かれた気分になって、するすると妙に素直に言葉が漏れた。
「そういうトコ、嫌いじゃない」
「なっ……!」
 今度はいきなりぎゅ、と襟が閉まる。げ、と思ったのも束の間、いきなり突き放すように開放されて、グロッシュは一瞬よろめく、が別にさほど長く締まっていたわけでもないし、押されたときの力も強くはなかった。一瞬足下をふらつかせたものの、転ぶには至らない。
「そんな……そんな誤魔化しは聞きたくありません」
「本気だぜ?」
「ふ……っ」
 巫山戯るな、と続く怒声を覚悟していたのだが、声はそれ以上続かなかった。
 ともすれば吹きだしそうになる感情を飲み込むように、彼女は拳を握り、俯いて口を引き結ぶ。少し時間が掛かったが、怒らせていた肩がすとんと落ちた。
「貴方がそんなやり方をする人だとは思いませんでした」
 それ以上は何も言いたくない聞きたくないというように、グロッシュの返答は待たず、ユーディアは踵を返して戻ってゆく。


 その後ろ姿がすっかり小さくなってから、グロッシュは大きく息を吐いて、空を仰いだ。
「……あー」
 無意味に声を出す。
 揶揄われた、と思ったのだろうか。
 揶揄われた、と思ったのだろう。
 そう思われるのも当然だろう。思われるだけの態度を取っていた自覚はあるのだ。
 今回ばかりが本気だったところで、今更本気だ、と言えるはずもない。
「……損な性格」
 それが自分へ向けたものなのか、彼女へ向けたものなのかも解らないまま、ぽつりと呟いてグロッシュは自嘲する。
「……ま、自業自得か……」

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 熾火

「己の生業を」
 アクアブルーの瞳が燃えている。
「己で屠るというのですか」
 知る中で一番綺麗な色の瞳だ。
「屠るも何も、俺は初めから“そう”だった」
 それが翳るのを見る度に暗い愉悦を感じるのだから、まったく救えない。
「俺達の生かした兵士が、生き存えたぶんもっと多くの敵を殺したんだ。敵を殺すための奴を生かすために、治療したんだよ、俺達は」
 それでも無いはずの憐れみに似た感情を覚えるのは、何の錯覚か。
「荷担してない、なんて、大嘘だ」
 もし錯覚でないとしたら、この感情の意味は。

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「あれを人って言うんだったら、そりゃ確かに俺達は人殺しだ」
 昔と変わらぬ不謹慎な言に、ウルフェは心中で僅かに眉を顰め、けれど外面は小さく苦笑してはぐらかす言を紡ごうとし――しかしその唇は、何かを言おうとしたその形のまま固まった。
 言われた言葉の、その意味を一拍おいて理解して、ウルフェは背筋を泡立てる。
 まさか。この人は。
 その思考までを見透かしたように、白衣の男は口端を吊り上げて笑ってみせた。
「あいつ、見た目は兎も角、中身は充分人外だったぜ。見た事ねぇ組織なんかありやがんの」
 その薄紫の視線がつ、と滑って奥の戸棚へ行き着いた。鍵の掛かった戸棚。ウルフェはその中に何があるかを知らない。今までは知らなかった。
「まさか……解剖、したの?」
 何を、とは言わなかった。恐ろしくて言えなかった。
 男は肩を竦める。ごく日常的な、軽い仕草だった。今話している内容が冗談なんじゃないかと思うくらいに。
「折角殺した得体の知れねぇ人外を、検死もしないで埋めるほど馬鹿じゃねぇよ」

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 Eternal

 ソファに投げ出された男の手を取る。
 触れた掌の皮は、杖やハンマーを握っていた頃の名残を残してやや硬く、けれど彼女自身のそれよりはずっと繊細に柔らかかった。
 彼と彼女の形は、性差によって明確に隔てられていて、指の長さも、掌の厚さも、彼女は決して彼には敵わない。
 けれど剣と盾を握って過ごしてきた彼女の掌だけはまだしっかりと硬く、そして彼女を愛してくれる手は、既に武器を持つには少々相応しくない優しさを持っている。
 弛緩した手に指を絡ませても、男が目覚める気配はなかった。
 常より少し高い体温が伝わってくる。
 温かい、と彼女は思う。
 けれどこの温かい手は、必要とあれば、つい先ほどまで薬を握っていたはずのその手で毒を盛るのだろう。昔彼女にそうしたように。もっとも、あれは毒ではなかったけれど。
 できることなら、そんなことが起きなければいいと思う。二度と、そんなことが。
 それに小さく息を吐いて視線を落とすと床に落ちているものが目にはいる。膝から滑り落ちたのだろう、足下に落ちていたのは、新聞でもカルテでも医学書でもなく、ただの娯楽用の小説だ。
 空いた片手でそれを拾い上げて、机の上へと戻す。それがあんまり日常じみていて、彼女は少しだけ笑った。

 一日でも長くこの時間が続くことだけを、願っている。

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 唇が、重なった。
 熱く柔らかな感触と、彼の顔がすぐ目の前にあって、どうしたらいいか解らなくなった。
 キス。口づけ。それ以外の意味を持った、こんな行動が他にあっただろうか。
 それとも何かの冗談のつもりか。
 ここから続くオチは何も思いつかなかったけれど、そんなことを考えたまま動けずにいたら、唇が離れた。
「……こんな時くらい、眼、閉じろ」
 少し拗ねた風で言われた言葉に、ああやはりそういうことなのだと納得して、ごめん、と薄い苦笑を浮かべた。

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