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2024/09/23

 世界を司る神の神殿に仕える、いかにも怜悧で端然とした風情を漂わせる巫女は、かつては大逆の罪人であったという。
 盲てでもいるのか常に伏せられた瞳と、水瓶を運ぶのにも難儀しそうな細腕からは、彼女がそんな恐ろしい――逆賊などと呼ばれるような罪を犯したとはとても思えない。
 ――ただ、罪を思わせることがあるとすれば。
 彼女は時折、己の腕を見る。閉じた――或いはごく細く開いた瞼の下から。まるで、その腕に記された見えない罪人の刺青を思うように。

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2010/03/06

君は、知らないのだろう。

笑った顔泣いた顔、怒った顔悲しんだ顔。
君がどんな風に見えているか。

或いは知ろうともしないのだろう。

誰かを見つめる横顔、思考に沈む瞳。纏った戦いの気配と、傷ついた赤。
君を見る者がどんな気持ちでいるか。

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2009/12/15

 私の腕は、貴方のために
 私の足は、貴方のために
 私の声は、瞳は、心臓は、命は、全て貴方のために

 見返りは要らないから、どうか傍に。

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2009/12/06

 三足程で登り切った彼が、岩上の平面に膝を付く。両足ともが岩の上に揃うと、握った掌が緩んだので、おとなしく手を離した。離してしまってから、未練がましくも少し名残惜しい気分になった私を余所に、彼は適当な位置に体をずらして腰を下ろす。ありがとう、と言う声に言葉を返すのもなんだか大袈裟な気がして、うん、とだけ頷いた。
「星、少しだけなら解るよ」
「では、ご教授願うよ」
 ええと、言いながら天を仰ぐ彼は、それでも足りなかったのか、両手を斜め後ろについて体を傾ける。狭い岩上では隣り合うことは出来ず、けれど背中合わせでもない微妙な角度で、少しだけ肩が触れあった。
 あれが大三角、あれが天馬の翼、あれが明るさの変わる鯨の心臓、それから天馬の星を繋いで延ばして、明るい星を探す方法。
 彼は存外星空に詳しくて、私はただそれを感心して聞いている。細かな光の散る空から、いくつかの星を見つけ出してくる鮮やかさは、まるで魔法のようだ。
 柄杓の形をした明るい星々の、2番目は二つの星で出来ているのだと彼が語るので、私も彼の指先に眼をこらす。
 眩しいくらいの星空の中で、目当て星を探すのはなかなか難しい。手伝うように、彼の指先が柄杓の形を追って動く。
「――あそこだよ」
 せせらぎ以外聞こえない静けさに合わせて落とされた声が肩口辺りで聞こえて、一瞬気を散らした私のすぐ傍で、彼がもう一度言った。
「端から、1、2、……見えた?」
 私はといえば、ともすれば彼の方へ傾きそうな意識を彼の指先の示す方へ集中し、目当ての二つ星を見つけるのに精一杯だ。やっと見つけてそう言うと、彼は満足したように、うん、と頷いた。
「それから、あれが北極星。あ、でも北極星っていうのは星の名前じゃなくて、いつでもあの位置にいて動かない星のことなんだ。だからずーっと昔は別の星があの位置にあったんだって」
「ああ、そういう星は羅震獄にもあったよ」
 へえ、と彼は興味深そうに相づちを打ってくれたが、残念ながら私はそれ以上語ることが出来ない。地崩れで舞い上がった埃の舞う空は、星の光をほとんど通さなかった。
 ……そんな崩れかけた世界の様を、彼に話したことはなかったけれど。

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 期待半分、冗談半分で差し出した掌に、一回り小さな掌が載る。

 得難く、ひどく愛おしい気のする、掌。

 何の躊躇いもなく握られた手に驚くより先に、己の手は勝手に彼の手を握り返した。握られた力よりも強く、離れないように。そのまま彼を岩の上へと引き上げる。君の視線が高くなる。距離が近づく。

 胸を埋める感情の名など、今はどうでも良かった。

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2009/11/18

 川面に突き出た岩の一つに腰掛けた人影を認めて、やっぱり、とマキシは小さく笑う。
 川の上の風は速い。もう冬も近いこの時期、風は冷たいだろうに、彼は何でもないように、蒼い髪が揺らされるに任せている。
 そうして星を数えている彼の気配は滑らかにこの場に溶けこんで、まるで景色の一部のようだ。青い容姿も闇の中にとけてしまって、岩上に落ちた袂さえ違和感がない。唯一浮いた色をした紅白の襷だけが、存在を主張していて、マキシはなんだか隠れん坊の鬼にでもなった気分だ。
 水の音にまぎれてか、彼は珍しくこちらに気付かない。いや、気付かないふりをしているだけかも知れない。ずっと黙っていたことを知った後に顔を合わせるのは、少し気まずい。
 もしも名前を呼んで、それでも彼が振り返らなかったら。そんな「もしも」をぼんやりと危惧しながら名を呼ばわると、彼は存外簡単に振り向いたので、マキシはそっと息を吐いた。
 帰ろう、と言うのは簡単だったのだけれど、それもなんとなく後ろめたくて、結局、星、見てたのか、と当たり障りのないことを問うた。そう、気付かないふりだとか振り返らなかったらだとか、そんなことを考えてしまうのは、全部マキシに秘密を知ってしまった後ろめたさがあるからだ。
 あまり意味の無かった台詞の真意も問わず、彼は、来るかい?とマキシに向かって掌をのべる。
「故郷の空とは違うから、星空案内は出来ないが」

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2009/11/10
  煙石

 祝福の声は茫洋と響き、何処か膜一枚隔てたように実感がない。嬉しげに微笑む人達へ向けた己の言葉さえ、よく覚えていない。それが何故なのか彼は知っていた。

けれど彼はそのどちらの人もを好きだったので。
だからそれは嫉妬や嘆きに変わることもなく、ただ、密やかに箱の中に仕舞い込まれた。




「お前、ホントは、」
 あの人のことが好きだったんじゃないのか。

 言葉は言う前に塞がれた。頭ごと抱え込まれて。

「いいんだよ」
 だから耳元で囁いた彼の表情がどんなだったのかは判らない。
「……君まで箱を開くことはない」

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2009/11/10

 軋りをあげる刃の向こうにあるのは、志を同じくした友の顔
 滅びを齎す黒の呪言を唱えるのは、幸せを信じた女の唇


 お前達も呼び起こされたか。700万年の眠りから。

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2009/11/09

「ゼロはナルシストよ」

 割と……いや、かなり衝撃的だった発言に、マキシは思わず飲んでいたココアを噴きかけた。実際に噴かなかったのは偶然でも自制心の賜物でもなく、ただ単にタイミングの問題だ。もし一瞬早くカップに口を付けたマキシがココアを口に含んでいたら、イーリスから顰蹙を買う結果になっていただろう。
 再度の危険を恐れてそれとなくカップをテーブルに置き、マキシはイーリスに聞き返す。
「ゼロが……なんだって?」
 なんだか到底結びつかない単語を聴いた気がしたのだけれど。
 だから、とイーリスはらしくもなく、歯ぎしりしそうな歯の間から呻くように言葉を押し出した。
「ゼロは、ナルシストだって言ってるのよ」
 はあ、とマキシは相づちを打つ。明らかによく解っていない調子になってしまったが、実際イーリスが何を指してそう言っているのだか解らないのだから仕方がない。
 何かそんな素振りがあったろうか、と考えて、10秒経たずに放棄した。噴くほど結びつかなかった単語とゼロを、今更並べ直してみたところで、何かそれらしい繋がりが見つかるとも思えない。それならイーリスの解説(ただし、納得できる内容かは別として)を待った方が早い。
「マキシはそう思わないの?」
「いや、全然」
「……ふぅん」
 マキシはいつもゼロに甘いのね。イーリスは拗ねたように言うと、子供っぽく口先を尖らせて、自分の花模様のカップを吹いた。
「イーリスはどの辺が……その、」
「ナルシスト」
「……だと思うんだ?」
 連呼されるとなんだか居たたまれないなぁ、と思いながらマキシが問うと、イーリスはココアを吹くのを止めて、その大きな瞳で、うっすら膜の張った薄茶色の液体の表面を睨む。
「……頑張れば、何でも自分一人で出来ちゃう、理想通りを目指せるって信じてる所よ」

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 閃くように銀光が駆け抜けた。まるで重さのない本物の光のように、一閃二閃と赤い骨のような甲殻を持った生き物の四肢を切り落とした銀光は、三閃目で赤い甲殻の異形の目玉を切り裂くと、まるで魔法のように軽い金属音を立てて鞘の中へと納まる。
 対して、空を裂く重い音と共に振るわれるもう一方の剣は、まさに瀑布のようだった。群がる赤い異形に鋭い横の一薙ぎが繰り出される。胴を切り裂かれ、重い一撃に後退を余儀なくされた異形達の、その合間を縫って得物を振り上げてきた一体は、返す刀で目玉ごと両断してみせる。
 凄まじい技量を持った二人の剣士に押され、赤い異形達はその十重二十重の包囲網を一旦広げ、様子を窺う。
 20や30ではとても足りない異形達に包囲されながらも、剣士達に焦りの色は見えない。冷静そのものの態度で異形達を見据えながら、すぐにでも抜刀できるよう柄に手を寄せ、或いはどこからの攻撃にも応戦できるよう、両手で構えた剣を握り直し、前へと構える――そうしながら、二人は互いに包囲網の中央へ下がってゆく。呼応するように異形達も一歩二歩と包囲網を狭めていく。
 やがて包囲網の中央で、二人の剣士は背中合わせに異形の群れと対峙した。
 骨の軋むような不気味な異形の声を聴きながら、褐色の肌に白銀の髪を持つ男が口を開く。
 これからの作戦、背後の仲間への叱咤、今の状況への悪態――この状況で口にするのなら、おそらくはそんな内容だろう。だが、彼が口にした台詞はそのどれでもなかった。
「……ジーク、だったな。何故お前が此処にいる」
 真剣に異形達を見据えたまま発せられた台詞に、背後のくすんだ金髪に左目に傷のある男も、同じように異形の群れから視線を外さずに答える。
「それは俺の台詞だ。神力を失って使い物にならんと聴いていたが、一体どういう怪奇現象だ、ゼロニクス」
「怪奇現象というなら、お前が俺に背後を預けているということの方が、俺にとってはよほど怪奇現象なんだが」
 皮肉るでもなく揶揄うでもなく、ただ疑問として口に出された台詞に、ジークは内心歯ぎしりしたいほどの苛つきを感じながら、平静を装って応じる。
「……貴様が天界へ帰った経緯については聴いた。俺は目の前に敵がいれば、そいつを倒すことに集中する――それだけだ」
「なるほど、直線の人間は恐ろしい。敵になるものを消す、それ以上の理屈はない、か」
 納得したようにゼロニクスが呟く。
「苛烈だな」
「貴様のように、綺麗事で災厄をばらまく奴には理解できんだろう」
 棘のある台詞を吐いてやると、背後からは戦場に不似合いな苦笑の気配が返ってきた。
「否定はしない。だがお前も理解されているとは言いがたいと思うが?」
 気に障る言い方に、ジークは眉を寄せた。それをどう取ったのか、わっと波うつようにして赤い異形がそれぞれに得物を振り上げて襲いかかってくる。それをいなし、打ち倒し、あるいは先ほどのように斬り跳ばしては、すぐには動けなくなった目玉を潰してゆく。同じように王我の兵に応戦する背後のゼロニクスに向かって、ジークは声を投げた。
「どういう意味だ!」
「戦うことで何かを守ろうとするお前は、孤独だろう」
「っ!」
 ジークは渾身の力を込めて、辺りを薙ぎ払う一撃を放つ。魔力を込めた一撃から放たれる剣圧に、辺り一帯の異形は砕け、とりわけ近くにいた異形は目玉にまでダメージを受けて絶命する。
 掛かった負担に一つ息を吐いて、ジークはそのまま踵を返す。丁度ジークの攻撃から逃れた異形の残りを切り伏せたゼロニクスの、その首元を掴むと乱暴に引き寄せた。
「侮辱する気か……!」
 並の者なら威圧されて竦むほどの殺気を放つジークの視線を受けても、流石は神と言うべきか、ゼロニクスに動じた様子はない。
「気に障ったのなら詫びよう」
「撤回しろ!」
「何故だ?俺がなんと言ったところで、お前の心が孤高なことは変わらないだろう」
 本気で言っているらしいその様子に、ジークは苛つきと戸惑い、両方の感情を覚える。そのまま撤回を要求し続けることも出来たが、背後でカタカタと異形達が再生する音が聞こえ始めたため、仕方なく手を放し、異形へと向き直った。
「ジーク」
「黙れ。……貴様の声は集中を乱す」

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