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2024/09/23
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「こんばんハ。レムリアデス。泊めてくだサイ」
 深夜を過ぎて既に早朝に近い時刻、作業場の灯を落としに掛かった頃、彼女がやってきた。
 何処へ流れるとも知れない流浪の生活を送る彼女が、こうして前触れもなく訪ねてくることは珍しくはないのだが、流石にこんな時刻の訪問は初めてだ。
 見れば、蛍光灯の光を弾く金の三つ編みはゆるみ気味で、個人的によく似合うと思っている白い服も土埃で汚れている。とりあえず中に招き入れて、コーヒーはいるかい、と訊いたら、コンビーフがいいデス、と返ってきた。
 異様に少ない口数と、髪を結い直す気力もないらしいことからよほど疲れているのだろうと判断し、朝食になるはずだったライ麦のパンと、ホットミルクにコーンクリームの缶詰を加えた即席のコーンスープで間をもたせ、コンビーフを焼きに行く。
 添え物も何もないコンビーフを皿に移して戻ったときには、既にスープは空で、彼女はやたら噛みごたえのあるパンをかじっていた。その前にコンビーフとフォークだけを置いて、自分は温めなおしたコーヒーの入ったマグカップを持って向かいに座る。
 無造作にフォークを手に取った彼女は、思い出したように、いただきマス、と一度フォークを掴んだままの手を組んで、それからコンビーフを突き刺した。一口囓って咀嚼して、のみこんで、そしてようやく人心地ついたように息を吐く。
「……今日ハ、いろいろ大変だったんデス」
「そうみたいだねぇ」
 はい、とよく解らない相づちを打ってから、彼女は顔を上げた。
「レムリアの武勇談、聴いてくれマスカ?」
 それから彼女が語ったのは、夢物語のような壮絶な話だ。
 彼女達が追っていた鬼のこと、彼女曰く手の掛かる仲間達のこと、自分が作った銃が役に立ったときの話。
 冒険活劇のような話は、次第に烈しさを増してくる。
 仲間達と、鬼達を束ねる神を名乗る者のアジトを突き止めて、そこに踏み込んでからの激戦と仲間達の活躍。神に対峙する少年と少女、彼等を阻む鬼と、力を貸す鬼と。
 神に従う鬼を退けて、彼女の仲間の一人が神へと挑んだのだが、彼は致命傷を負ってしまったらしい。けれど、代わりに立ち向かった少年が――その正体も神だったらしいのだが――が勝利を収めて、地上の平穏は保たれた、らしい。
 彼女自身はその余韻に浸る間もなく、すぐに仲間の手当と、治療できる場所へ運ぶのとでその場を離れてしまったから、その後のことは知らない、と彼女は語った。
 仲間を信頼できる人の所へ預けて、もう一人の仲間にその場を任せると、レムリアは服に付いた血だけ落としてそのまま列車に飛び乗ったのだという。
 最終便で辿り着いたらこんな時間になってしまいマシタ、そんな風に言う彼女の服をよく見てみれば、確かに付いている汚れは土埃にしては少し赤茶けている。
「とっても、疲れマシタ」
 まるで物語のような話を語り終わって、彼女はそう言って長く息を吐く。そうやっていると、荒唐無稽にすら聞こえる話が、まるで本当にあった出来事のようだ。そう、誰が信じるのだろう、こんな話! バレルは信じるのだけれど。
 だから、バレルはうん、と相づちを打つ。お疲れ様、と付け足すと、彼女が少しだけ笑った。
「それから、ちょっとだけ怖かったデス」
「怖い者知らずの君にしては珍しいね」
「敵が、だけじゃありまセン。ジークが死んじゃうのも怖かったデス」
 ああ、ともうん、とも付かない相づちで返して、バレルは内心で、妬けるなぁ、と呟く。そういう形で彼女の心を動かせるのは、共に旅をする者の特権だ。こうして北の大地に居を構えているバレルには手が届かない。
 そんなことを考えていたから、次の台詞への反応が遅れた。
「だから、全部終わったら貴方の顔が見たくなったんですヨ」
「……え?」
「お顔を見せてくだサイ」
 次の瞬間テーブル越しに彼女の手が伸びてきて、思わず少し仰け反ったバレルの頬を両側から挟む。そのまま立ち上がったレムリアが顔を近づけてきて、鼻先が触れあうより少し遠い距離で青い瞳が瞬く。
 突然のことに窘める言葉が出ないバレルをよそに、レムリアは言う。吐息の掛かりそうな距離で。
「よーく、見えマシタ。それで、安心しマシタ」
 そう言って、やっとレムリアが離れてゆく。ごちそうさまでしタ、と楽しそうにレムリアは笑った。
「このお皿、流しに入れておけばいいですカ?」
「……そうしてくれると助かるかな」
 了解デス!敬礼の物まねをして、フォークとカップ、それから先ほどまでコンビーフの載っていた皿を重ねて隣のキッチンへと持っていく背中を見送って、バレルはなんだか急に疲れてしまって肩を落とした。

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「何やってるの」
 空に浮かぶ島の端も端、縁に面している所為で今にも下界に崩れてゆきそうな広間の真ん中へ向けてルキアは言った。
 話しかけられた当の本人は、巨大な金属の塊を座らせて、更に周りに得体の知れない工具をぶちまけている。その十数メートル先は既に崩れて床はなく、覗き込めば限りなく良い見晴らしが広がる。いつ崩れるかも解らない床の上での作業は、翼を持たない彼女には些か蛮勇に過ぎよう。
 その彼女は今持っていた工具をぞんざいに床に放り投げると、少し離れたところにあった奇妙な形をしたドライバーを手に取るついでに、ちらりとルキアに視線を寄越す。そのまま得体の知れない機械へと向き直った背中から、ただの整備だわさ、と声がした。
 それ以上は言う気がない、または構っている暇はないと言外に語る白衣の背中に、ルキアは不満げに鼻を鳴らしてもう一言問いかける。
「それが北の遺跡で見つけたヤツなわけ?」
 多少こちらの手の内をばらしてみたつもりだったのだが、ドロシーは相変わらずせわしなく手を動かしながら、大きな帽子の載った頭を少し傾けただけだった。
「……なんだ、知ってたの?」
「北に遺跡があるって教えたのは私なんだけど?」
 そう言えばそうだったわ、けらけらと笑って、初めてドロシーはまともにルキアを振り返った。その顔には、悪戯を見つかった、ではなく悪戯の共犯者を見つけた、というような表情が浮かんでいる。もしここにいるのがルキアではなくディルクルムだったら、あいつはもの凄く嫌そうな顔をしただろうなとルキアは思った。
「でも不正解。これは遺跡にあった記録の調査結果を基にして作った、ただのレプリカだわさ。本格的な発掘と本物の調査は、」
 一度勿体ぶるように言葉を切って、ドロシーは、にい、とトラブルメーカーの笑みを浮かべた。

「この子が完成した、今日これから」

 ルキアはそれを呆れた気分で見つめる。今は膝を付いているから解らないが、ドロシーの背後にある機械はドロシーの背丈よりも随分大きい。これだけのものが一日やそこらで作れるわけはないから、遺跡の調査とやらは随分前に行われていたのだろう。しかもおそらく、複数回にわたって。まったくこんな小娘が――と言っても見た目はさほどルキアと変わらない――どうやって他の羅震王達の目を欺いたのやら。
 けれど、これからは今までのようにはいくまい。王我血族でも屈指の戦闘力を誇ったオデオンの戦死、更にそれに次ぐ十二星卿の敗北。十二星卿については、元から羅震王の指示に従わぬ者達ということで、敗北による不安の声は小さかった(むしろ皇帝の守護を任せて大丈夫なのかという声が上がったくらいだ)が、オデオンの戦死は大きかった。王我血族を統率する柱が一つ欠けて、おかげで今この島の空気はピリピリと不安定に張り詰めている。たぶん、すぐに地上への攻撃が決断されるはずだ。
「どうせアタシは戦力にならないから関係ない。好き勝手やるんだわさ」
 ルキアの顔色を読んだようにドロシーが言い、ルキアが言い返す。
「やらせてもらえると思ってるわけ?」
「やらせてもらう、んじゃなくやるの。阻止できるものならすれば良いんだわさ」
 絶対の自信を滲ませて、ドロシーは言い切る。
「それに、アンタはアタシを止めるようなヤツじゃない」
「……ま、確かにそうだけどね」
 言い当てられて、ルキアは肩を竦める。自分だって好き勝手したいのだ。同じように思っている誰かを止める気などさらさら無い。
 耳に残る高い声でドロシーは笑って、だからアンタのことは気に入ってるんだわさ、と言った。

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2009/08/03

「例えば、死体になりたてのアンタの心臓を取り出して、アタシにくっつけたとして」
 嫌な例え話に、ルキアはわずかに鼻に皺を寄せたが、お構いなしにドロシーは続ける。
「アンタの心臓はアタシの中では動かない。アンタとアタシは違う個体だから。アンタからもってきた心臓は、アタシに由来する組織じゃないから、アタシの一部にはならない……拒絶反応ってさ、知ってるでしょ」
「あんたの話で言うなら、あんたが私の心臓を攻撃するんでしょ?」
 握ったコーヒーカップの中で、白いミルクが渦を作って混ざり合ってゆくのを眺めながら、ルキアは答える。ドロシーの握るカップの中は、はなからカフェオレだ。
「詳しく言うなら、自分と違う『印』を持ってるものを攻撃するんだわさ。毒を出すわけでも癌になるわけでもないのに、印があれば攻撃して消そうとする。……で、そのまま放置しておいたらどうなると思う?」
「……心臓が溶ける」
「この話が面白いのは」
 どこが面白いのかと、嫌な想像にげんなりするルキアの正面で、ドロシーはカフェオレに口を付けた。
「心臓はあくまで本人であり続けようとするところだわさ。本体なんてとっくに死んでるのに、それでも宿主に同化しないで、呑み込まれるのに抵抗する」
 抵抗。それはつまり、
「つまり――宿主を攻撃する」
 後は泥沼だわさ。眼鏡の奥で、紫色の瞳が笑うように光った。

「宿主が死んだら、心臓も死ぬのにね」

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 行ってしまうの?


 記憶の中の姉の声は、いつも柔らかく、寂しいくらいに澄んでいる。

 穏やかな羽音と共に降り立った足音がそれ以上近づいてこないので、ルリエルは振り返った。表情を消す必要はなかった。既に決めたことだったから、何の感慨もわかなかった。

 リムリエルはいつもそうしているように、ごく微かな微笑みを浮かべて、そこに立っていた。対するルリエルは無表情で、端から姉に応える言葉は持っていない。
 無言のまま対峙した二人は、そのまましばし見つめ合った。
 やがて口を開いたのはリムリエルの方で、その唇から紡がれたのは、行ってしまうの、と先ほどと同じ、けれど確信の色合いを宿した声だった。
 ルリエルは答えない。けれど、それが何よりの肯定だった。

 そう、と呟いたリムリエルは、そこで初めて、少しだけ寂しそうな顔をした。

 みんな、遠くへ行ってしまうのね。

 記憶の中の姉は、寂しそうな声で言う。



(けれど姉さん、)

(あなたの言うみんなや、私の手の届かない高みに登ってしまったのは、)

(あなたなのに)

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2009/08/02

「ここに居たのか」
 伸び放題の草を踏み分ける足音が止まり、気付いていないわけはないだろうに、己より幾分か低い声を聞いてから、やっと彼は振り返る。
 陽光に暖められる前のひやりとした空気は、樹木の吹きだす水の気を濃く含んで少し重い。夏に向かう頃独特の空気をまとわりつかせて、ミロクは肩越しに義兄を見上げる。そのミロクの肩から向こうには、未だ睡りの中にあるつましいながらも整えられた町並みが見えた。
 その町並みを見やって、インドラはわずかに眼を細める。
「残ろう、なんて考えてはいないだろうな」
「まさか」
 軽く笑って前へと向き直りながら、同行いたしますよ、と言う。けれどインドラにはそれもどこか上の空の声に聞こえて、だから何も言わずに踏み出した。
 一歩、二歩、少し大股に踏み出せば、あっという間に義弟との距離は縮まって、ほとんど隣に並べてしまう。
「お前が来ないとナユタが悲しむ」
「…………」
「私もだ」
 だから、来い。
 インドラの視線の先、ミロクはしばらく黙っていたが、やがて町並みへ据えていた瞳をふと閉じた。その仕草に滲んだ哀惜は果たして義弟のものだったのか、義弟に映ったインドラ自身のものだったのか。
 囁くような肯定の返事を聞いてから、インドラはそっと義弟と町並みから視線を逸らした。

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2009/07/14

「――つまり、温度が高いほど分子は激しく振動する。この振動がもっと激しくなると、分子が格子点に留まっていることが出来るエネルギー値を超え、物質は相変化を起こすんだわさ。……聞いてる?」
「聞いておる。……ときに、コウシテンとはなんじゃ?」
「結晶格子の分子がある角……例えるならxyzの三次元の座標が全部整数になっている場所のことだわさ」
「ザヒョウ?」
「ああもう、キリがないんだわさ!あんたは黙ってアタシに写真撮られてれば良いの!子供は話をしてやると喜ぶって書いてあったから実践してるのに、まったく育児書なんて嘘ばっかり!これだから経験論でとどまってるのは駄目なんだわさ!実証も統計もありゃしない!」
「何を言っておるのかはよく解らないのじゃが……そのカシャカシャ言う箱は何なのじゃ?」
「カメラだわさ」
「カメラ?」
「そう、奥にフィルムに塗料を塗ったのを入れてあるんだわさ。このフィルムにレンズを通った光が…………とにかく一瞬で姿が撮せるんだわさ」
「余をうつしておるのか?」
「あんた意外に誰を撮すのよ?」
「余をうつしてどうするのじゃ?」
「比較して分析して記録して保存するに決まってるんだわさ!700万年前のサンプルなんて他にいやしないでしょ。……本当は写真だけでなく記録者主観の入ったスケッチも欲しいんだけど……難しいんだわさ」
「何故じゃ?絵が下手なのか?」
「違うんだわさ!忍び込んできたから時間が取れないだけだわさ!アタシが皇帝に会わせろって言ってもろくに取り合わないんだから!あいつらアタシの言うことなんかききゃしない!体育会系筋肉とお子ちゃまと女男には観察の重要性が解ってないんだわさ!」



「……誰が女男ですって?」
「!」

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 世界を語る言葉を聞く。それにはいつだって変わらない真っ直ぐな芯がある。

 クレアが語る言葉は綺麗だ。空から降る光の話、歌を作っている音の話、砂浜に打ち上げられた透明な小石の、本当の姿の話。言葉の意味の話や、もっと抽象的な話。
 クレアが言葉にすると、絡まり合った全ての事象はするするほどけて、余分な部分を脱ぎ捨てる。整列したように美しくなる。
 それらは本当は、マルムメイアには少し難しいのだけれど、クレアの言葉を理解することは、クレアの考えていることが理解できるようで嬉しい。
 マルムメイアの好むような恋も華やかさもそこにはないけれど、それでもマルムメイアはクレアの言葉が好きだ。

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2009/06/09

 二弾が出る前にやっておかなければなぁと思ってアクミロです。
 えーと、以前メモで呟いたのを文に起こした感じです。
 事後なのでそういうのお嫌いな方、アクミロは馴染まないなぁという方は進まないでください。

 

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「……ごめん、それは、約束できない」
 だって、また目の前で誰かが助けを求めていたら、きっとマキシは一も二もなく助けてしまう。
 使命を忘れたわけではないし、自分を捨ててしまうようなつもりもない。けれど、自分のことを惜しんで手を差し延べる機会を逸したら、きっと後悔する。
 誰かを取りこぼしてしまうのも、自分の心に嘘をつくのも、絶対に嫌だ。
 だから、約束は出来ない。
 きっとマキシは、誰が止めようと、またいつか今日のような無茶をしてしまう。
 ごめん。目を伏せて言うと、今はあまり変わらない高さから苦笑の気配が返ってきた。
「謝ることなどないよ。君の無茶が無茶にならぬよう、私達が居るのだから」
 その言葉に嘘偽りなど欠片もないのだろう。実際、そうやって彼等はマキシを助けてくれる。
(でも俺は、誰かに傷ついて欲しくないって、そんな当たり前の願いを叶えてやれない)

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 澄んだソプラノが空気を揺らす。波を従え、風と交わり、水平線へと響いてゆく。

 マルムメイアの歌は不思議だ、とクレアは思う。とっくに忘れてしまった子守歌も、したこともないような悲恋歌も、体の芯までしみ入るように響くのに、決して煩わしくはない。
 正しいリズムの中にある計算されたハーモニーと、揺らぐように不規則な並びのメロディ。数学的な音の連なりの中に生まれる、ノイズのようなエントロピーと感情。
 それは決して結晶構造のように整然としてはいない。
 光が疾ってゆくような普遍性もない。
 けれど、他の誰の声でもない、心を揺らす彼女の声が。

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