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2024/09/25
 神羅

「お兄様、それはなあに?」
「これ、ですか?」
 何の変哲もない、アルマの掌にさえ納まりそうな、小さな小石だ。
 灰色のごつごつとした表面を晒すそれは、燃えるような色合いの赤瑪瑙文鎮の横で、いかにも不釣り合いに浮いていた。
 桜材で出来た机の上、アレックスは指先でころりと小石を転がす。
「雷の卵、だそうですよ」
「…………」
 アルマの不審そうな視線に気付いたのだろう、いえ、とアレックスは苦笑して手を振った。
「もちろん、本物ではありませんよ。こうしてみるとただの石ですけど、割ると中にアゲートやオパールが入っているのだそうです」
「……それで、『雷』?」
 アルマは首を傾げる。中に宝石が入っている、というだけなら、何も雷なんて恐ろしげな名前を付けなくても、もっと綺麗な名前が幾らでもありそうなのに。そんな心中を読んだのか、アレックスははい、と微笑んだ。
「アゲートには筋が出るでしょう? 模様が中心から外へ向かって波紋のように拡がってゆくのが、まるで光が弾けるようだから、と」
「ふうん……じゃあこの卵の中にも、そういう模様の宝石が入っているのね」
「そうなりますね」
「…………開けないの?」
「これを、ですか?」
「割ってみないと、中身が解らないでしょう?」
「そうですね……でもいいんです。これは、割らないでおきましょう」
「どうして?」
「いつか、本当に雷が生まれてきたら面白いでしょう?」
 冗談めかしていたけれど、そう言って笑った顔は、次に何が起きるか知っているときの顔だった。

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2010/04/19

「髭を剃った方がいい」
「なぁんで。自分としちゃ気に入ってるんだけど」
「ない方がより若く美しく見える」
「別に老けて見えて構いませんよ……っと、おいこら触んな、作業中」
「私は、己の好いたものには最も価値ある状態であって欲しいと願う」
「はいはい」
「だからお前にもそうあって欲しい。故国で寵愛すると言えば、そうするために金銀や労力を注いでやる事を指す」
「今のあんたに金が無くてほんと良かったよ。…………そんで?ご寵愛して仕上げたところで、お前のそりゃ見て楽しむしか使い道がないだろ? お国じゃ貴族連中に自慢でもすんのかい」
「そんなのは御免だ、か? ――そういうこともある。だが、美しいものは自分だけのものにしてしまいたいものだ。それを磨き上げる間、磨き上げた後でさえ、他人の目に晒すのは惜しい。優れたものはそれだけ人を惹きつけるからな。……だから帝は女達を後宮へと集め、或いは宝物庫を作り、その門扉を固く閉じているのだ」
「…………」
「そうだな、髭を剃るのは後でもいい。人目に晒したくはないから」
「……お前さ」
「何だ?」
「自分の言ってることに疑問を感じないか?」
「何かおかしいことがあるか?」

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 Eternal

 ソファに投げ出された男の手を取る。
 触れた掌の皮は、杖やハンマーを握っていた頃の名残を残してやや硬く、けれど彼女自身のそれよりはずっと繊細に柔らかかった。
 彼と彼女の形は、性差によって明確に隔てられていて、指の長さも、掌の厚さも、彼女は決して彼には敵わない。
 けれど剣と盾を握って過ごしてきた彼女の掌だけはまだしっかりと硬く、そして彼女を愛してくれる手は、既に武器を持つには少々相応しくない優しさを持っている。
 弛緩した手に指を絡ませても、男が目覚める気配はなかった。
 常より少し高い体温が伝わってくる。
 温かい、と彼女は思う。
 けれどこの温かい手は、必要とあれば、つい先ほどまで薬を握っていたはずのその手で毒を盛るのだろう。昔彼女にそうしたように。もっとも、あれは毒ではなかったけれど。
 できることなら、そんなことが起きなければいいと思う。二度と、そんなことが。
 それに小さく息を吐いて視線を落とすと床に落ちているものが目にはいる。膝から滑り落ちたのだろう、足下に落ちていたのは、新聞でもカルテでも医学書でもなく、ただの娯楽用の小説だ。
 空いた片手でそれを拾い上げて、机の上へと戻す。それがあんまり日常じみていて、彼女は少しだけ笑った。

 一日でも長くこの時間が続くことだけを、願っている。

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 樹が見えますよ、ファーラ様!
 甲板からの声に、少しだけ遅れて船室の戸が開く。あまり立て付けが良いとは言えない扉を、それでも出来るだけ静かに開いた少女の後ろから、日の差す甲板へと歩み出たのは、白いドレスのお姫様。
 そのドレスよりも尚白く灼ける日差しに眼を細めて、彼女は薄い手袋をはめたいかにも淑女然とした手を額に翳し、ああ、と小さく感嘆の声を上げる。
「なんて巨きい」
 未知のものへの驚きと、尊いものへの畏敬、美しい物を見たときの恍惚、そんなものが入り交じった声で呟いて、彼女はゆったりと船の端へと歩み寄った。
「あの樹の根元に、沈んだ海都があるのね」
「あの樹が擁する迷宮も。――本当に潜るんですか。くどいとお思いでしょうが、俺は出来れば止めて欲しいと思ってます。あんな、毎日生きるか死ぬかをするような所」
「心配してくれるのね。ありがとう」
 彼の言に、白いドレスの少女は微笑んでそう答える。いつも、いつも。
 それが拒絶だということは、もうずっと前から解っているので、彼は溜息をついて、柵から離れた。
「――お城の中だって、生きるか死ぬかなのは同じだわ」
「、ファーラ様」
 控えめに名前を呼ばれて、彼女は振り返る。何処か悲しげな顔をした水色のエプロンドレスの少女が差し出す日傘をありがとう、と受け取って、彼女は謝罪のために微笑んだ。
「ごめんなさいね。聞かせるつもりじゃ、なかったの」

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2010/04/03

 唇が、重なった。
 熱く柔らかな感触と、彼の顔がすぐ目の前にあって、どうしたらいいか解らなくなった。
 キス。口づけ。それ以外の意味を持った、こんな行動が他にあっただろうか。
 それとも何かの冗談のつもりか。
 ここから続くオチは何も思いつかなかったけれど、そんなことを考えたまま動けずにいたら、唇が離れた。
「……こんな時くらい、眼、閉じろ」
 少し拗ねた風で言われた言葉に、ああやはりそういうことなのだと納得して、ごめん、と薄い苦笑を浮かべた。

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 世界を司る神の神殿に仕える、いかにも怜悧で端然とした風情を漂わせる巫女は、かつては大逆の罪人であったという。
 盲てでもいるのか常に伏せられた瞳と、水瓶を運ぶのにも難儀しそうな細腕からは、彼女がそんな恐ろしい――逆賊などと呼ばれるような罪を犯したとはとても思えない。
 ――ただ、罪を思わせることがあるとすれば。
 彼女は時折、己の腕を見る。閉じた――或いはごく細く開いた瞼の下から。まるで、その腕に記された見えない罪人の刺青を思うように。

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2010/03/06
 colony

欲しい欲しい欲しい欲しい、手に入れないなんて選択肢はもう考えられない。
思考を占めるのは、どうしたら自分の物になるかだけ。

(まるで拙い恋のように)

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2010/02/28
 神羅

 ぽた、と濡れた葉がまた一つ滴を落とした。
 新緑を少し過ぎた頃合いの葉は、いよいよ艶やかに緑を濃くして、透明な水滴を受けている。しとしとと降り続く雨に湿らされた空気はじっとりと纏わりつくような重さを持っていたが、同じく雨粒の冷たさも併せ持っており、冷えた微かな風を不快に感じることはなかった。
 濡れた石灯籠の脇を通り過ぎ、白から灰色へと色を変じている石畳を踏む間にも、頭上に広げた傘でぱたぱたと雨滴の弾ける音がする。石畳から外れた泥濘に絶え間なく波紋が咲いては消えてゆくのを眺めながら、フガクは先を行く潤朱色の傘を追う。
 本当は、急ぐほどの距離ではない。目的地までの一本道は、目を閉じて歩いても辿り着ける。だが、それでもフガクは少しだけ足を速める。前を行く父へ少しでも近づくために。
 ――その姿に、尊敬や憧憬とは違った思慕を覚えるようになったのは、一体いつからだったのか。
 触れてはいけない。それは侵しがたい領域であると思う心の裏側で、触れたい、と囁く声がある。
 追いつきたい背中に、追いつくことを畏れる心を持て余しながら、フガクはその姿を追い求めている。
 急な石段を登り切った先には年経た風情の門がある。それをくぐればもうそこは王家の祠廟だった。
 傘を受け取る者は居ない。居ることを許されない場所だ。傘を畳もうと傾がせた朱色の傘から一斉に雨粒が滑り落ちた。
 同じように潤朱色も傾いて、足下にぽたぽたと水滴が落ちる。
 朱と緋、二つの赤の合間に視界が閉ざされる。

 それはほんの一刹那、外界から隔絶される一瞬。

 今、この瞬間になら、触れられる、の、だけれど。

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2010/02/11

「あんたとは二人っきりで話がしたいと思ってた」
 口説き文句そのままだな、とサイアスは思う。奇しくも場所はベッドの上、時刻は夜も更け星明かり、手を伸ばせば触れる距離にあるのは絶世の美貌だ。ただし、相手はまったく乗り気でないようだが。
「貴様に話すことなど無い」
 おや、こちらもまたお決まりの台詞。
「そう言わずにさぁ。俺は聞きたいことが沢山あるんだ」
 軽い口調で返すと、こちらを覗き込む相手の目の剣呑な色が増した。仄暗い室内で、青玉のような見事な色の瞳がこちらを睨んでいる。あーあ、矢っ張り嫌われている。どうにもこの相手については納得のいかないことだらけだ。
「折角誰も聴いてないんだから、ゆっくり話そうぜ――おっと」
 台詞の途中で相手の肩がわずかに動いたような気がして、サイアスはわざとらしく余裕ぶって声を上げる。右手に握ったものを押しつけたまま、
「動くなよ。俺は死にたくないし、未だあんたも殺されちゃ困る」
 表情を変えない相手に、サイアスは薄く笑みを浮かべたまま言う。サイアスとて伊達に何百年と生きてきたわけではない。仕事だと割り切ってしまえば、心とかけ離れた仮面だって被ることが出来る。そう、少なくとも、表情くらいなら。
 青い瞳はちらり、とサイアスの右手の方へと――おそらくは、その手に握られた拳銃へと――視線をやった。体の陰になって見えないはずだったが、ナルキッソスは感情の伺えない息を吐く。
「剣聖が、まさか銃とは」
 内容からすると多少嘲りを含むだろうか。言葉に含まれる棘には既に慣れっこなので今更腹も立たない。それに多分、立てたら相手の思う壺なのだろう。
「枕の下に拳銃――なんて、ただの様式美だったんだけど。今更使うなんて思わなかったぜ。あんたこそ、」
 饒舌を意識して語るサイアスの視界の端に、月光を弾く銀色がちらつく。
 窓の外の、歪な形をした雲がゆっくりと風に流されてゆく。引っ掻いたような三日月の、微かな光。
 自分に半ばのし掛かる相手の顔が淡い月光の元に露わになる。その、おそらくは、奇跡と形容していい造形が。
 ――納得がいかない。
 何度も呟いた言葉を心中でもう一度呟いて、けれど口では別の言葉を紡ぐ。
「斧でも持ってくるかと思ったら」
 サイアスはちらりと、己の喉に向けられた切っ先へと視線をやる。微動だにしない白い手が握る短剣の柄には、見覚えがあった。柄に巻かれた赤い革と、柄頭付近に打たれた鋲に刻まれた紋章――飛天騎士団の支給品だ。今の時勢で武器を置き忘れる粗忽者など居ないだろうから、おそらくは牢番の物を奪ってきたのだろう。サイアスにとっては最初に出会ったときに身をもって体験済みなので今更だが、眼前の男は綺麗な顔に似合わず、荒事も充分以上にこなすらしい。
 半ば以上を冗談で言った言葉は流されるかとも思ったが、ややしてから薄い唇は短い言葉を落とした。もっとも、白い顔に浮かぶ表情は、その間も1ミリたりとも変化しなかったが。
「……口数が多いな、司令官」
「最初に尋問の続きだって言ったろ?必要な言葉は惜しむなって言われたんだよ、昔」
 俺にそう言った奴の名前を教えてやろうか、言いかけて、サイアスは思わずその言葉をのみこむ。

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君は、知らないのだろう。

笑った顔泣いた顔、怒った顔悲しんだ顔。
君がどんな風に見えているか。

或いは知ろうともしないのだろう。

誰かを見つめる横顔、思考に沈む瞳。纏った戦いの気配と、傷ついた赤。
君を見る者がどんな気持ちでいるか。

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2009/12/15
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