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2024/09/25
 聖夜

 ところでおじさん、相談があるんです。
 いつになく真剣な表情で、向かいに座ったサイアスは切り出した。
「おじさんは、今年のクリスマスはどこでやるべきだと思いますか」

「……お前の屋敷でやれば良いんじゃないのか。去年も一昨年もそうだっただろう」
「あ、なんですかその独創性のない返事。それにずっと俺の所でやったのは、ショウの学校が忙しかったからで、別に俺の所でやる習慣のつもりはないんですよ」
 ですから、と既に期待に目を輝かせている、図体は大人のくせに妙に子供っぽいところのあるこの青年は椅子から身を乗り出して言った。
「今年のクリスマス、おじさんの所でやる気はありませんか?」

「無い」
「えー!そんなこと言わずちょっと考えてくださいよ!」
「考えるも何も、どうやって此処に人を呼ぶ気だ」
「それは大丈夫です。ちょっと荒れた海流の一つや二つにめげるような人達じゃないでしょう。カレンとショウは俺が責任もって連れてきますから!」

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2008/12/04
 福音
 神羅

 曇り空を透かしたステンドグラスは重い色をして、描かれた聖人の色のない肌ばかりが白い。

 彼に許された最も正式な手順で礼拝を行ったメルキオールが視線を上げた先には、神を模したのだという十字架が奇跡を行う聖人達に囲まれて、屹立していた。
 城の片隅にあるこのこぢんまりとした礼拝堂には厳粛な静謐が満ちていたが、今静けさを保っているのはこの堂内だけだ。

 閉ざされる窓。兵卒達の慌ただしい軍靴の音。密やかに交わされる不安の視線。大聖堂は怯えた祈りを囁く者達で溢れているだろう。
 だが、大聖堂での式典などの際に、代わりの祈りの場として使われるだけのこの礼拝堂には、今は彼以外の人影はなかった。不安を打ち消すための祈りを一人で行いたがる者などそうそう居ないだろう。

 祭壇に灯された灯火を受けて、十字架の表面に施された精緻な彫刻が浮かび上がっている。今まで何百年と人々の祈りを受けてきたであろうそれを見上げて、彼はふと息を吐いた。

 祈りの言葉も礼拝の仕草も、ただ倣い覚えただけのものだ。そこに伴う信仰心は、この十字架に祈りを捧げてきた敬虔な人々に比べれば無いに等しい。
 信仰の地位を得て、もっともらしい言葉を語り、敬虔な信徒たる振る舞いを真似てみたところで、己の内実は変わらなかった。
 本当は、神の実在なんて信じてはいない。その姿を模したのだという十字架は、だから彼にとっては神そのものだ。都合の良い祈るべき対象でしかない。
 そう思っている自分がこんな所で大真面目に祈りを捧げるというのは、考えてみれば実に滑稽だ。普段は無信心なくせに、こんな時だけ願って叶うことを望むとは、虫の良い話だ。
 ほんの少しだけ罪悪感はあった。けれどそれはこの神を信仰する人々に対してのもので、決して神それ自体に対するものではないのだ。


 やはり私は敬虔な信徒にはなれそうもないな。
 ああでも、それならばこの祈りは一体何のためなのだろうね。


 思いながら唇はもう一度祈りの言葉を呟いた。


(どうか)

(あの子達の上に加護があるように)

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 密やかに広まった噂だけは聞いていたから、彼がやけに神妙な面持ちで神殿から出てきたときも、やはりそうだったかと納得しただけだった。
 少年らしい顔に、正義感と義務感とを滲ませた彼は、歩み寄るリヴィエラに気付くと、一瞬年相応の驚いた顔をしてから、慌ててぺこりと会釈をする。
 そんなに畏まることはないのだけれど、礼儀のなった良い子だ。アフラノールの教えの賜物だろう、そんなことを思いながら、マキシウスのすぐ側まで来て立ち止まったリヴィエラは微笑みを浮かべた。
「調和神様が討伐者に選んだのは、貴方でしたか」
 確かめるために問えば、顔を上げた彼は真摯な様子で、はい、と頷く。
 未だ若くて、瑞々しいような力に溢れた彼は、長くを生きてきた自分達よりはずっと疑うことを知らないのだろう。
 遙か古の時代に起こった出来事を、この若い神は知らない。神々が掲げた正義も、箱の中の者達のことも、古い神々は口にしたがらないだろうから。
 けれど、知らずには居れないだろう。知れば考えずには居られないだろう。彼は物事に対してとても誠実だから。
 だからきっと、彼にとってはとても難しい役目になるはずだ。
 苦労するだろうし、傷つくかも知れない。でもそれで彼は、新しいことを知るに違いない。

 けれど、リヴィエラはただ、そうですか、と微笑むにとどめた。
 これは誰かが言うことではない。彼が自分で手に入れる経験で、知るべき事だ。
 ああけれど、これだけは彼に伝えておこう。

 医神であるリヴィエラは傷も病も癒すことができる。けれど、リヴィエラの力の及ばないところにいる者は癒せないし、死者を蘇らせることもできない。摂理を逆転させることは神にでさえ出来ないのだ。
 古い古い記憶は、今でも思い出す度胸の奥に鈍い疼痛を生じさせる。

「神といえども不死身ではないのですから、気をつけるのですよ」

 古い戦いを知らない彼は、快活にはい、と返事をした。

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2008/12/01
 神羅

 木々深く緑は濃さを増し、連なる岩峰はますます鋭く、人はおろか獣をも易々とは寄せ付けぬ地であった。

 山の化の見せた幻か、或いは深山の霧に精でも宿ったか。いつ現れたとも知れぬ彼の者は、気配だけは希薄なまま、それでもその輪郭の内側には確かな存在感を以て、佇んでいた。
 ここは人の子やましてや鬼の来るような所ではないと、言った彼の者の、白い肌白い尾に黄昏色の角、石と同じくらいの歳月を経た、赤瑪瑙のような瞳だけがやけに赤かった。

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(……ああ)

 なんだ、そんな顔も出来るんだ。
 知らなかった。
 少しだけ悔しいかな。それが面白くもあるけれど。

(でも、)

(多分これ以上は見ちゃいけない)





(きっと嫉妬に変わるから)

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2008/11/22

「――で、修道院に視察に行ってきたんですけど、背丈も伸びてて、いつのまにか次期聖母候補なんて言われてるらしくて。本人は知らないみたいですけど」
 かーわいいんですよ!
 満面の笑みで我が事のように自慢されて、セツナは額を抑えたくなる手をぐっと堪えた。我慢強さは美徳であると、自分に言い聞かせる。
 こういう親馬鹿というか、身内贔屓なのは一体誰に似たのだろう。遙か昔にも似たような親馬鹿っぷりを発揮していた人物もいたが、目の前の男がその人物の血を引いていないのは100%保証済みだ。……いや、父親はともかく、母親側にまったく血縁関係がなかったかどうかまでは知らないが。
 まだ語ろうとするサイアスを遮って、セツナは口を開く。
「それで、また公費を無駄遣いしてきたのか」
「やだなぁ、ちょっと修道院に補助金出しただけじゃないですか」
「あしながおじさんを気取るのも大概にしなさい。そのうち公費の使い方を間違えるぞ」
 政治の世界では、そういうちょっとしたことが命取りになる。特に彼が居るのはあの飛天である。追い落とされないよう警戒するに越したことはない。……いや、最近は政界も平和になって、以前のような陰険さは殆ど無くなったのだが。
 ともかく、若い才能を育てるのは良いことだし、慈善事業をするのも良い。だが一歩間違ったらただのロリコン扱いされてもおかしくないのは自覚して欲しいところだ。
「…………」
「……どうした」
「いや、おじさん足長いなぁと思って」
「帰っていいか」
「わー!待ってくださいよ!」

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 神羅

 ステンドグラスは鮮やかに、けれど確実に光の力強さを奪って、堂内は薄暗い。硝子越しの光を浴びた十字架からの影が、狭い堂内の信徒席を横切って足下に伸びていた。
 整然と連なった椅子の間へと足を踏み出せば、祈りが昇るようにと高く作られた天井には、賛美歌ではなく靴音が響いた。
 導きを与える父も、告解を行う信徒も、ここには居ない。
 触れることを許さない絶対のもののように、十字架は堂内に屹立している。
 それは彼の知る神によく似て、けれどまったく違うものだ。
 この土地の人々の信仰を否定する気はないが、それでもこの羽根負う人々の神と、彼の知る神との差異は、世界を統べる存在を知る彼の目から見れば酷くもどかしい。
 この地の人々も、かつては確かに知っていたのだ。
 世界を統べる圧倒的な存在。生みだし、壊す。そうして世界を管理する存在の姿を。
 けれどいつの間にか違ってしまった。
 一つのことを長く伝えてゆくには、人という種族は短命で、また多くを知りすぎていた。
 姿を変えて行き着く先の神は、どんな姿をしているのだろう。

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「浮かない顔だね。またお祖父様に叱られたんですか」
「……こんな時にばかり来るとは間の悪いやつめ。それともわざとか?」
「まさか!……でも理想通りに振る舞うくらいできるでしょう、君。良い子の振りをしていればいいのに」
「望まれるものを演じるのは癪だ」
「ひねくれてますね。……まあその名前みたいに、出来た性格で“慈愛深く”微笑む君は気持ち悪いですが」
「……軽薄で尻の軽い鳥の息子とは付き合うなとも言われたぞ」
「うわぁ、ひどいですよそれ!」

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 掌が裏返される。ひらりといっそ大仰なくらいの動きで返された右手の、人差し指と中指の間に挟まれたコイン。今度は左手が動いた。見せつける動作で、今度は人差し指と親指でコインをつまむ。何の変哲もないコインだと、指先で転がす。右手がコインの表面を撫でる。一回、二回。種も仕掛けもございませんと、ありきたりな台詞でも吐くのではないかと思わせる動きで、もう一度左手が翻る。金属の表皮の裏側を見せて、表に戻す。右手がコインを撫でる。一度。二度。今度は右手の人差し指と中指の先に乗ったコインに、左手が、まるで魔法でも掛けるように指を動かしながら近づいて、右手が一瞬左手に隠れた直後には両の手は拳の形に
「見えた」
握り拳が完成する直前の宣言に、彼は片眉を上げた。
 驚きと不満と疑いがそれぞれ均等に混じり合った片眼に、得意げに笑い返してやる。
「今、左手ではじき飛ばした。だからコインは右手でも左手でもなく、左袖の中」
 指摘すると、ギーファはつまらなそうな顔をして、左腕を下げた。軽く振ると、袖からさっきの銀色のコインが転がり落ちる。コインは机の上で一度跳ねた後、回転して止まった。
「だから嫌なんですよ、この手の手品は」
「下手なだけなんじゃねーの?」
「動体視力勝負が通用しない手品は見破れないくせに、よく言いますね」

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2008/11/09

 カード裏のストーリーには、マキシさんが飛雷震を仕留めた、とあったので、

 飛雷震が、マキシさんにとって最初で最後の一匹であったら、という妄想です。

 1のマキシさん視点。

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