以前書いた「花に嵐」の続き……として書こうとしていた物……の発展系なのですが、場面が飛ぶのと、内容が割と酷い気がしたので、「花に嵐」とは別物扱いにさせていただきます。
……ええと、私は、主人公がズタボロになったりする少年漫画が好きです……いや今回負けたりするのはマキシさんではないんですが。
マキシさんがSなのか女々しいのか。
ミロクさんの諦めが良すぎるとか。
そんな感じなので嫌な予感がした方は見なかったことに。
……ええと、私は、主人公がズタボロになったりする少年漫画が好きです……いや今回負けたりするのはマキシさんではないんですが。
マキシさんがSなのか女々しいのか。
ミロクさんの諦めが良すぎるとか。
そんな感じなので嫌な予感がした方は見なかったことに。
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それは肩の辺り、心臓よりも少し逸れた胸の左側に、小さな火傷としてあった。
たった一撃。
流血はなく、打撲すらなく。
けれどたったその一撃が、少女の命を奪った。
許せなかったんだ。
彼女を襲った鬼が、じゃない。
それを止められなかった自分が。間に合わなかった甘さが。
その言葉に籠められた重さも大切さも尊さも、理解しているつもりだ。
だからこそ軽々しく手を出すべきではないと、先生は言った。
倫を守るというのは、優しくあることとは違う。
例えば病を癒すこと、呪いを解くことと違って、失われた形のない物を取り戻すのは、その理由に関わらずとても重い責任が伴う。
神の力で命を扱うのは、ただの傲慢だ。
けど助けられなかったのは俺で、見捨てられなかったのも俺だから。
お咎めなんて関係ない。
何だってする、身を削って差し出せと言うのなら、いくらでも。
だから、どうか、どうかもう一度。
たった一撃。
流血はなく、打撲すらなく。
けれどたったその一撃が、少女の命を奪った。
許せなかったんだ。
彼女を襲った鬼が、じゃない。
それを止められなかった自分が。間に合わなかった甘さが。
その言葉に籠められた重さも大切さも尊さも、理解しているつもりだ。
だからこそ軽々しく手を出すべきではないと、先生は言った。
倫を守るというのは、優しくあることとは違う。
例えば病を癒すこと、呪いを解くことと違って、失われた形のない物を取り戻すのは、その理由に関わらずとても重い責任が伴う。
神の力で命を扱うのは、ただの傲慢だ。
けど助けられなかったのは俺で、見捨てられなかったのも俺だから。
お咎めなんて関係ない。
何だってする、身を削って差し出せと言うのなら、いくらでも。
だから、どうか、どうかもう一度。
これはきっと慈悲じゃない。
許してくれ、なんて言えた義理じゃないけど、それでも君に許して貰う機会が欲しかった。
助けたいと思った心に、嘘も偽りもないけれど。
だから、お礼なんて言っちゃいけない。
そこまで胸を張れるような事じゃないんだ。
許してくれ、なんて言えた義理じゃないけど、それでも君に許して貰う機会が欲しかった。
助けたいと思った心に、嘘も偽りもないけれど。
だから、お礼なんて言っちゃいけない。
そこまで胸を張れるような事じゃないんだ。
( 2008/10/22)
その男は、最前からずっとそうして、足下の岩盤が無くなった先を――下界に続く中空を――見下ろしていた。いくら見つめたところで神ではなく、透視の力すら持たぬ彼に地上が見えるはずもないのだが、男はゼロニクスがやってきたと気付いてもなお、そうして地上があるはずの場所を見つめている。
「――本当に下界に降りるつもりか?」
ぽつりと問うたゼロニクスに、男はただ淡々と答える。
「他に行くところもない。此処に長居は出来ぬからな」
まだ箱の封印が解かれたと知れ渡ってはいない今だからこそ、こうして悠長に話などしていられるが、ひとたび追っ手が掛かれば、追われる身となる男やその眷属は天界には居られない。
「……もう一度訊くが、」
こちらに視線を向けもしない男に、ゼロニクスは問う。
「俺と共に行く気はないか」
問いの形を借りてはいたが、それは質問ではなく確認だった。男は雲しか見えないであろう中空へと視線を据えたまま、僅かにだけ眼を細める。やがて、口端を吊り上げる笑い方で――その間さえ男はゼロニクスへ視線を向けはしなかったが――笑って、言った。
「私などを頼るようでは、その名が廃ろう、無頼神よ」
「お前は将だと聞いている。お前のような者がいれば心強い」
「私のような者、がいれば、な」
皮肉を含んだ笑いを浮かべたまま、男は今度こそゼロニクスを見た。青い視線が交錯する。
ゼロニクスの言葉は本心で、けれど男が言ったことも本当だった。この男のような力と才を持った者が必要だったが、それは別にこの男でなくとも良いのだった。もちろん、ゼロニクスの目的が彼等を新世界へ導くことである以上、数は多いに越したことはないのだが。
おそらくは、これ以上は何を言ってもこの男の意志は動くまい。思いながらも、ゼロニクスは食い下がる。
「お前の気性は過去の諍いに執着するのを良しとするとは思えない。復讐にもこの地の支配にも興味がないのなら、俺と共に行くのも悪くはないと思うが」
「確かに報復にも覇道にも興味はないがね。しかし私は新世界とやらにも大して興味はないのだ」
「――本当に下界に降りるつもりか?」
ぽつりと問うたゼロニクスに、男はただ淡々と答える。
「他に行くところもない。此処に長居は出来ぬからな」
まだ箱の封印が解かれたと知れ渡ってはいない今だからこそ、こうして悠長に話などしていられるが、ひとたび追っ手が掛かれば、追われる身となる男やその眷属は天界には居られない。
「……もう一度訊くが、」
こちらに視線を向けもしない男に、ゼロニクスは問う。
「俺と共に行く気はないか」
問いの形を借りてはいたが、それは質問ではなく確認だった。男は雲しか見えないであろう中空へと視線を据えたまま、僅かにだけ眼を細める。やがて、口端を吊り上げる笑い方で――その間さえ男はゼロニクスへ視線を向けはしなかったが――笑って、言った。
「私などを頼るようでは、その名が廃ろう、無頼神よ」
「お前は将だと聞いている。お前のような者がいれば心強い」
「私のような者、がいれば、な」
皮肉を含んだ笑いを浮かべたまま、男は今度こそゼロニクスを見た。青い視線が交錯する。
ゼロニクスの言葉は本心で、けれど男が言ったことも本当だった。この男のような力と才を持った者が必要だったが、それは別にこの男でなくとも良いのだった。もちろん、ゼロニクスの目的が彼等を新世界へ導くことである以上、数は多いに越したことはないのだが。
おそらくは、これ以上は何を言ってもこの男の意志は動くまい。思いながらも、ゼロニクスは食い下がる。
「お前の気性は過去の諍いに執着するのを良しとするとは思えない。復讐にもこの地の支配にも興味がないのなら、俺と共に行くのも悪くはないと思うが」
「確かに報復にも覇道にも興味はないがね。しかし私は新世界とやらにも大して興味はないのだ」
頭に触れた掌の温度がじわりと伝わってきて、密かに嘆息して目を閉じた。
ねえ、先輩、俺を幾つだと思ってるの。
いつまで、こんな子供扱いするつもり?
あんまり優しいと勘違いするよ。俺はあんたと違って純粋培養じゃないから、つけ込もうとするかもよ。
あんたが俺の気持ちに気付いてるかどうかなんて知らないけど。
こんな優しい突き放し方なら、しないで欲しい。
ねえ、先輩、俺を幾つだと思ってるの。
いつまで、こんな子供扱いするつもり?
あんまり優しいと勘違いするよ。俺はあんたと違って純粋培養じゃないから、つけ込もうとするかもよ。
あんたが俺の気持ちに気付いてるかどうかなんて知らないけど。
こんな優しい突き放し方なら、しないで欲しい。
( 2008/10/14)
いつもは的を狙うだけのレンズスコープを、いつもとは90度違う方向に向ける。
まあるく切り取られた世界。
窓。
柱。
渡り廊下の床、コンクリート。
人。
人。
腕。
背中。
女みたいに長い髪。
の、揺れる、背中、肩、が振り返って。
十字の照準に捉えられた彼は、
「…………の、ヤロ!」
毒づいて、ゲルブは銃を下げる。
撃ってみろよって顔しやがって。
撃てないだろって顔しやがって。
ああそうだよ撃てないよ。撃ったところでこんな玩具じゃ、お前の所にすら届かない。
影を踏むような嫌がらせ。少しだけ物騒な冗談だ。
けれどその奥に潜む敵意と悪意を見透かされた気がして、どうにも寒いような気分になる。
なにより銃口を向けられて、それでも思惑を見透かしたように、
に、と、薄く嗤ったあの顔が網膜に焼き付いている。
まあるく切り取られた世界。
窓。
柱。
渡り廊下の床、コンクリート。
人。
人。
腕。
背中。
女みたいに長い髪。
の、揺れる、背中、肩、が振り返って。
十字の照準に捉えられた彼は、
「…………の、ヤロ!」
毒づいて、ゲルブは銃を下げる。
撃ってみろよって顔しやがって。
撃てないだろって顔しやがって。
ああそうだよ撃てないよ。撃ったところでこんな玩具じゃ、お前の所にすら届かない。
影を踏むような嫌がらせ。少しだけ物騒な冗談だ。
けれどその奥に潜む敵意と悪意を見透かされた気がして、どうにも寒いような気分になる。
なにより銃口を向けられて、それでも思惑を見透かしたように、
に、と、薄く嗤ったあの顔が網膜に焼き付いている。
「先輩」
嗚咽も涙もましてや怒りもその声には決してなかったけれど。
その声色はあまりにも切羽詰まった胸に迫るものがあったので、彼が泣いているのではないかと心配したほどだ。
「……どうしよう、先輩」
「どうしたんだい」
「すごく苦しい」
「気分が悪い?それともどこか痛い?」
「……痛く、はない。気分も、今はそんなに悪くない。でも、苦しい」
苦しくてちょっと死にそう。
「いつから?」
少し上の方から聞こえた声が詰問の調子を含む。ああ大丈夫、そんなんじゃない。人はね、心が痛いだけじゃ死ねないんだよ先輩。
「ねえ先輩」
あの人は真面目な人だから、少し眉を顰めたかも知れない。
「愛してる触り方ってどんなの?」
沸いたか、って思ってくれて良いよ。
解ってるんだ。
先輩の好き、は like であって love じゃない。
「そういう触り方で抱き締めてよ。そしたら安心、出来る、かも」
きっと不毛なことを言っている。
解っていても口にしてしまうのは何でだろう。
求めているのは何。
抱いているのは愛情?恋情?
嗚咽も涙もましてや怒りもその声には決してなかったけれど。
その声色はあまりにも切羽詰まった胸に迫るものがあったので、彼が泣いているのではないかと心配したほどだ。
「……どうしよう、先輩」
「どうしたんだい」
「すごく苦しい」
「気分が悪い?それともどこか痛い?」
「……痛く、はない。気分も、今はそんなに悪くない。でも、苦しい」
苦しくてちょっと死にそう。
「いつから?」
少し上の方から聞こえた声が詰問の調子を含む。ああ大丈夫、そんなんじゃない。人はね、心が痛いだけじゃ死ねないんだよ先輩。
「ねえ先輩」
あの人は真面目な人だから、少し眉を顰めたかも知れない。
「愛してる触り方ってどんなの?」
沸いたか、って思ってくれて良いよ。
解ってるんだ。
先輩の好き、は like であって love じゃない。
「そういう触り方で抱き締めてよ。そしたら安心、出来る、かも」
きっと不毛なことを言っている。
解っていても口にしてしまうのは何でだろう。
求めているのは何。
抱いているのは愛情?恋情?
( 2008/10/14)
なるほど精神の拘束とはこういうものかと、思う間もなかった、様な気がする。
最初に圧倒的な何かに引きずり込まれたのは覚えている。事態を理解しかけた頃には既にその「檻」は完成していて、思考と五感を奪われた。
それからはよく覚えていない。眠っていたわけではないのだろう。夢は見なかった。ただ少しだけ拘束の緩んだ間は微睡むようで、昔のことを思い出していた気がする。五感の拘束が緩んでも身動きが取れなかったから、窮屈だったという印象ばかりが強い。真っ暗で冷えた場所だった気もするが、そう思うのは視覚が無くて静かだったせいかもしれない。
自由にならない意識の底で、いつか来るかも知れない終わりを夢見ていた。
――それが解放にせよ、消滅にせよ。
最初に圧倒的な何かに引きずり込まれたのは覚えている。事態を理解しかけた頃には既にその「檻」は完成していて、思考と五感を奪われた。
それからはよく覚えていない。眠っていたわけではないのだろう。夢は見なかった。ただ少しだけ拘束の緩んだ間は微睡むようで、昔のことを思い出していた気がする。五感の拘束が緩んでも身動きが取れなかったから、窮屈だったという印象ばかりが強い。真っ暗で冷えた場所だった気もするが、そう思うのは視覚が無くて静かだったせいかもしれない。
自由にならない意識の底で、いつか来るかも知れない終わりを夢見ていた。
――それが解放にせよ、消滅にせよ。
( 2008/10/12)
例えば、雷が、手から離れる瞬間の思考、だとか
宿した炎の熱の心地良さ、
振り回す斧の重み、
水流と心を通わせる感覚、
そんなもので何となく解ったつもりになっていた。
みんな凄く重い物を抱え込んでるのは知っていたけれど、
どんな物を見てきたか、どういう扱いを受けてきたか、
聴くのと視るのとじゃ、全然違ったよ。
真っ暗な空も
おかしな程赤い地平も
綺麗に更地に還った街も
流れることを止めた河も
何も見えない、塗り込めたような闇も
聴くのより視るのより、感じた方が、ずっとずっと悲しかったよ。ずっとずっと寂しかったよ。
何より今更嘆かない誇り高い彼等が、
ずっとずっと、痛かったよ。
宿した炎の熱の心地良さ、
振り回す斧の重み、
水流と心を通わせる感覚、
そんなもので何となく解ったつもりになっていた。
みんな凄く重い物を抱え込んでるのは知っていたけれど、
どんな物を見てきたか、どういう扱いを受けてきたか、
聴くのと視るのとじゃ、全然違ったよ。
真っ暗な空も
おかしな程赤い地平も
綺麗に更地に還った街も
流れることを止めた河も
何も見えない、塗り込めたような闇も
聴くのより視るのより、感じた方が、ずっとずっと悲しかったよ。ずっとずっと寂しかったよ。
何より今更嘆かない誇り高い彼等が、
ずっとずっと、痛かったよ。
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