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2024/09/26

「痛った!え、帰った途端にこれはちょっと酷くないですか!」
「うるさい黙れ、自分が何年ほっつき歩いていたのか解っているのか!」
 感情にまかせて、セツナは叫んだ。頭の中のカッカと熱している部分とは別の部分で、珍しいなと他人事のように思う。本当に珍しい。彼が以前にこんな風に誰かを怒鳴ったのは、50年も前だ。
「ええと……」
 サイアスは眉を寄せて指を折る。両手が握り拳になって、もう一度開かれたところで、彼は首を傾げた。
「22年、ですかね」
「25年だ」
 わーおじさん凄い!流石は名軍師!殊更明るい調子で言ったサイアスは、だがセツナの醸し出す静かな怒気に気付くと、咳払いをして黙り込んだ。
 機嫌を取ろうとしているのが丸わかりだ、馬鹿者。間違えるわけがないのだ。紙切れ一枚残して消えたあの日から、ずっと気に掛けていたのだから。

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 神羅

 昔、向かい合ってチェスをしたのを覚えていますか。
 未だこの剣が僕のものではなかった頃のことです。



 「――っ何故です…っ」
 剣を合わせた一瞬、予想以上に重い衝撃を堪えて囁くように問うた。

 何故。貴方が。何故。此処に。何故。こんな。何故。


――勝敗を決するのは知恵と策だ。
 では貴方は一体何に負けたというのですか!
 何故手を止めてくれないのです。何故答えてくれないのです。
 貴方はそんな力に屈するような、弱い人ではなかったでしょう!



(無我夢中で振り下ろした腕。)

いやだ。

(剣の先から吹き出した純度の高い炎は、真っ直ぐに、)

嫌だ。
こんな。

(剣の示す標的へと、)

ああ……!


「  」

(唇だけで、アレックスは叫んだ。)



――“キング”は自殺サクリファイスできない。

 ああ、逃げ道なんて何処にもない。


王を名乗ったその日からどんなことにも耐えると誓ったけれど。でも、こんなのってないでしょう神様、これが試練なら貴方を呪う!


(そして、渦を巻いた炎は、)

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 にっこりと微笑まれたので、それにつられてにっこり微笑み返してみたのだが、それくらいで誤魔化されてくれるような人ではなかった。
「絶対に、駄目です」
 きっぱりと言って、腰下まで伸ばした金髪を背中に流した彼女は、いっそ神々しいまでの慈愛に満ちた微笑を浮かべる。白い壁を背景に窓から差し込んでくる午前中の日差しを金髪が弾く様子は、それはもう聖母様といった風情なのだが、その口調には怪我人の無茶な我が儘なんて決して聞き入れませんよ、という姿勢がありありと表れていた。
「けど、深い傷はないですし」
「治癒魔法を過信してはいけません。万能ではないのはご存じでしょう。縫った傷をお忘れですか?」
 畳みかけるように言われて、サイアスは言葉に詰まる。
 縫った傷というのは、帰還するなり青い顔をしたカレンが呼んできた医者にざくざく縫われてしまったアレだ。傷跡(まだ糸が飛び出ている)を見ると、今でもちょっとだけ心が痛い。あの時は久しぶりに治癒魔法のありがたみを実感して、今度から種族特徴の矮小化がどうのこうの(そんなことを言ったって、今更血統維持なんてナンセンスだ)とかいう面倒な話にもちゃんと取り合おうと、少しだけ思った。
「でももう動けますから」
「だからです」
 ふんわりと、慈母の笑みをティータは浮かべた。こんなに素敵な笑顔なのに、どことなく怖い気がするのは何故だろう。
「動ける方に限って自分の体を過信する傾向が強いのです。こればかりは本人の言を信じるわけにはいきません」
 絶対に覆らない調子で言われてしまっては、どうにも返す言葉が思いつかない。彼女の口から出る言葉がどんな内容だろうと、こんな全て解っています、大丈夫、なんて顔で言われたら、子供ばかりでなく大人だって引き下がってしまうに違いない。
「とにかく、傷口が塞がるまでは安静です」
「えーと、しかしですね、仕事が」
 なんとか食い下がってみるものの、
「サイアス卿」
 困ったように少しだけ首を傾げて、ティータは傍らの人が殴り殺せそうな書籍群を指す。因みに一番上に積まれた本のタイトルは「解剖学」。以下、感染症、看護学、細菌云々、etc…
「ご自分のお体について説明が必要ですか?」
「…………結構です」
「では、安静の件はご理解いただけますね」
「……はい。大人しくしてます」
「大変良い心がけだと思います。一日も早い復帰をお祈りしております」
 言ってティータは積まれていた書籍を抱え上げた。手伝う間もない。細腕に見えるが、実は結構力仕事とかしているのかも知れない。そう言えば彼女が持ち歩いている聖杖はそれなりの重さがあったはずだ。
「それでは、お大事にしてくださいね」
 はい、と答えたサイアスに、今度は子供にでも微笑むように笑い返して、彼女は病室の扉へと向かう。その背を眺めながら、何となくサイアスは納得する。
 ああなるほど、つまりは、「聖母」なのだ。母親は優しいものだが厳しいこともあるし、神様だって愛を説く反面、試練を与えたりする。

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2008/07/03

「ジジイ、皇帝って呼ばれてたのか。随分ご大層な名前だな」
「そりゃ、俺は大怪盗だからな」
「ジジイが大怪盗だったなんて初めて知ったぜ。人間じゃねぇとは思ってたけど」
「俺だって、お前の名前を知ったのはついさっきだぜ、小僧」
「お互い様だろ」
「まあそうだ。ところで俺はトルコ語が得意でな」
「だからなんだよ」
「ついでに言うと英語も中国語もロシア語もドイツ語もスペイン語もフランス語も得意だ。世界中で会話できねぇ国はねぇ」
「ただの自慢じゃねぇか!」
「小僧の名前はヤウズってぇのか」
「…………それが?」
「似合わねぇな」
「……ジジイ、喧嘩売ってんのか」
「ふん。喧嘩ってのは、実力や立場が対等な奴がやるもんだぜ。――お前みたいな甘ちゃんには、似合わない意味だなって言ってるのさ」

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2008/06/25

「俺、公爵になろうと思うんですよ」


 唐突にやってきた、かつての部下の息子の発言に、たっぷりと3秒は間をおいてから、セツナは口を開いた。

「……熱でもあるのか」
「酷っ、おじさん酷い!」
「冗談なら余所でやりなさい」
「俺、おじさんに冗談言えるほど偉くなったつもり、無いですよ」
 言えば、白い狐は眼鏡の奥の眼を細めて、本気か、と問うた。
「本気、ですよ」
「やめておけ」
 間髪入れずに返った声に、サイアスは僅かに眉を寄せる。
「何でですか」
「お前に公爵が務まるとは思えない」
「やってみなきゃ解らないでしょう」
「四地域合同式典をすっぽかしたのは何処の誰だ」
「400年も前の事じゃないですか!それに俺、」
 言葉を切って、サイアスは一つ息を吸う。台詞が一瞬止まったのは胸にあるわだかまりの所為だ。
「……嫌いなんですよ、記念品みたいな扱い」
「……なら、尚更やめておけ」
「ねえおじさん、俺だって何時までも子供じゃないんですよ。嫌だからって投げ出したりなんてしません」
「別にお前が無責任だから言っているわけじゃない」
「なら、」
「お前は何故公爵になろうと思った?」
「……それは、」
「もし長く生きることに罪悪感を感じてなら」

 白い狐は、質の良い赤瑪瑙のような色をした目で、サイアスを見て言う。

「公爵などやめておけ。そんな覚悟で務まるようなものじゃない」

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 叫べ本能!軋め心よ。

(もっと血を!ぬめる熱さを!命を略奪する瞬間の、脳の痺れを、闘争を!)
(壊したい?殺したい?怖い?寂しい?殺したくない?)

 殺さなければ殺される!けれど被る熱さと裏腹に、胸腔の奥が冷えるのは何故?
 ホントのココロは、さあどっち。

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“明かりを消したら遊戯(ゲーム)の始まり。”

 綺麗に視覚だけ絶たれた世界で、呼び起こされるのは生き残る本能。
 闇の中には何がいる?
 敵?(多分、そう)
 味方?(そんなものは居ない)
 それとも自分?(!)

 加速する心臓、沈んでゆく吐息。上がるのは打撃のトーンだけ。

 誰が居る?何が居る?決して見えない闇の中。

 月明かりでも、電球でも良い。何ならセキュリティランプでも。
 どうかどうか、何か明かりを。

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 解ってた。
 受け入れてもらえないことくらい。
 解ってた。
 欲しくて堪らないこの気持ちがいつか決壊することは。
 解ってた。
 これ以上を望んだら全部壊れるって。

 全部解ってたんだ。

 解っていて奪った。

 これが寄り添って満足出来るような感情だったら、どんなにか良かったか。

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2008/04/05

「……驚いた」
 少女はその大きな瞳を瞬かせてから、台詞にも歳にも似合わぬ落ち着き払った調子で言った。
「隠しているから、てっきりラードみたいなお顔か、大きな傷があるかと思っていたのに」
「それは、ご期待に添えず」
 肩を竦めて言えば、少女はくすりと小さく笑った。歳に見合わない大人の苦笑の色が含まれていたが、気付かないふりをした。見られている、と思うとなんだかくすぐったくて、サイアスは少女の目より少し上の方へと視線を逸らした。赤茶色の前髪の間から、賢そうな額が覗いている。
「……これは?」
 少女が顔に手を伸ばしてくる。ひたりと冷えた指が頬に触れる。子供の体温って高いハズなんだけどなぁ、とサイアスは思った。
 こんな聡い良い子が一人で泣かなければならないなんて、まったく教官は見る眼がない。
「イレズミ?化粧ではないんですね」
「遺伝。……解る?」
「……騎士学校では四年目に習う内容です」
「そりゃあ、失礼しました」

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 誰かに触りたいって思ったことはある?
 誰かに笑ってほしいって思ったことある?
 誰かを泣かせたいって思ったことある?
 誰かを欲しいって思ったことは?
 誰かに自分だけを見てほしいって思ったことは?
 誰かを傷つけたくない、大事にしたいって思ったことは?
 誰かに傷を残してでも、忘れてほしくないって思ったことは?
 先輩、好きってどういう事だと思う?

 (多分大事にしたいんだ、)
 (でもぐちゃぐちゃに掻き乱して自分のモノにしてみたい、)
 (そういう気持ちなんだよ、知ってる?先輩)

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