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2024/09/23

 コツ、と小さな音を立てて卓上に置かれたガラスの小瓶を見て、バルバトスは不審げに眼を細める。
「何だそりゃあ」
 片手で握り込めるような大きさの小瓶は、火酒にしても小さすぎる。凝った装飾からは香水かとも思ったが、この小瓶の持ち主――メルキオールはバルバトスにただの香水を持ってくるような類の酔狂さは持ち合わせていない。
 ということはつまり、得体の知れない何かだ。
「媚薬」
 案の定、メルキオールは卓の向こう側のソファに体を預けたまま、事も無げに言い放つ。
 媚薬、とは言ったものの、怪しげな惚れ薬の類ではなく、ただの催淫剤である。繁華街でひっそり取引されているようなシロモノで、その界隈では特に珍しくもない。場所さえ知っていれば誰でも手に入れられるような品である。……もっとも、歴とした王族であるメルキオールがそんなものを所持しているのは大問題なのだろうが。
 へぇ、とバルバトスは片眉を上げる。こういう「誘い」は珍しいことではない。
「で、それを使って何をしようって?」
 媚薬が目の前にあるとして、お互いそれを使いたい相手は目の前である。何ってナニに決まっている。
 挑発と揶揄を込めた笑みを浮かべて言うバルバトスに、メルキオールも隙のない微笑みで応じ、いつの間に取り出したのか、手の中のものを机の上に置いた。
「……おい」
 卓上には、透明な液体の入った小瓶が二つ。瓶の装飾も液量も同じ。
 一見してどちらも差がないように見えるが。
「賭をしないかい?」
 緑翡翠の色をした瞳には、明らかに面白がる色と期待が浮かんでいる。
「どっちかが当たり、ってか」
「その通り」
 勝っても負けても損はないだろう、言われて、バルバトスは頷く。確かに損はないし、このお遊びを受けない手はないが。
「良いのか?下手に効いたら手加減出来ねぇぜ」
 流石に正気を失うほど若いつもりはないが、そもそも獣牙族と飛天族では基礎体力から違う。それを示唆しての言葉だったが、メルキオールは平然と肩を竦める。
「どうせ君には少ししか効かないよ。冗談みたいに代謝がいいくせに」
 メルキオールにしては楽観的すぎる発言に、口を開きかけたバルバトスだが、それを制すように緑の瞳が視線を合わせてくる。物言いたげなその色に、バルバトスは結局、開きかけた口を閉じた。
 楽観、ではない。要するにこれは、遠回しな『構わない』というサインなのだ。
「……後悔すんなよ?」
 言いながら、バルバトスは手を伸ばして小瓶の片方を取る。
「しないさ。流されて狂ってみるには、媚薬なんて丁度いい理由だろう?」
 残った方の小瓶を手元へ引き寄せながら、メルキオールが言う。
 まるで二人で狂ったって良いような口ぶりだ、バルバトスは思いながら瓶の中身を煽った。

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 そろそろこの手の言い訳のネタが尽きてきました。
 そして相変わらず恥ずかしいタイトル&あやしさ極まりない英文。
 ええと、バルバトス×メルキオール、です。
 誰得という感じもいたしますが、俺得なのでまあいいや。

 キスまでしかしてませんけど一応R-16ということでお願いします。

 

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「――誓いましょう」
 貴人の手を取り、恭しく甲に口づける。
「私が」
 そのままうっすらと浮いた血管を末端へ向けて唇で辿りながら、言葉を続けた。
「私であり続ける限りは」
 中指の先までを辿り、少し伸びた爪ごと指先の肉に歯をたてる。
 ぴくりと震えて逃げようとする手を強い力で握って引き寄せ、ナルサスは主を見上げた。

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「ハッピーバレンタイン」
 台詞と共に、ほとんど鼻先にココアパウダー塗れの物体が突き出された。
 見た目こそはつるりと球状に整えられた表面に、芳醇な香りを放つココアをまぶした上品そうな菓子だったが、そのシンプルな外見と表面の苦みは裏腹に、その中身は大層甘ったるいことをナルサスは知っている。

 ……人のことを言えた義理ではないものの。 

 悪い意味で似ている、と彼は思う。
 目の前の人物も見た目こそハートでも飛ばしそうな上機嫌の、いかにも人の良さそうな笑みだったが、その腹の内まで同じように人が良いとは限らない。

「どうした、食べないのかね」

 言って、メルキオールは摘んだトリュフを指先でほんの少し転がす。ごく僅かな量のココアが剥がれて指に残るのを見ながら、ナルサスは深く溜息をついた。
 この距離に差し出すということは、つまり直接口にしろと仰るのですね?

 ほら、と急かされてナルサスは渋々口を開く。
 途端に、待っていたように口にトリュフを押し込まれて、ナルサスはぎょっとした。
 唇に一瞬だけ触れた指は、満足げに去ってゆく。
 
 口の中に残った一粒は、ココアパウダーが剥がれてみれば矢張り大層甘ったるく、呑み込んだ後も香りと甘みが濃厚に残った。


「……私は、こういうものは苦手なのですが」

 言えば、メルキオールは指に残ったココアを舐めて、知っているよ、と悪戯っぽく笑った。



 (ああまったく、子供のうちにもう少し怖い目に遭わせておくべきだったのでしょうか!)

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2008/02/16

「――っ悪巫山戯は、」
「悪巫山戯?」
 シーツの隙間から滑り込んでくる声のトーンが低くなって、知らず手を握りしめた。その手首に巻き付いた紐をなぞる感触がする。いっそそれから進む気の無いような丁寧な動きで、絹の鈍く光る縄目をなぞる指先は嫌味なくらい整っているだろう。
「散々はぐらかして」
 僅かに食い込んだ皮膚の上をつと指先が掠めていく。
「応えもせず」
 く、と紐を引かれて腕が軋む。
「一体どちらが悪巫山戯なのでしょう?」
 囁かれた声に皮膚の下の血がざわめいた気がした。
「――ねえ、陛下?」

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2007/11/20

 光。
 窓の外を小さな眷属達の影がよぎる。
 そんな時刻かと思いながら身を起こそうとして、目の前にある物――今の今まで縋るようにして抱きついていた男の腕に気付いた。
 ああそうか、と納得し、寝直そうとして視線を落としたところで違和感にふと眉を顰める。
 調度が違うのだ。
 どう見ても居城のそれと、目の前の腕。
 悔しいことに一瞬理解が及ばず、慌てて起こそうとしたその体を鈍痛が襲った。
 小さく呻いてついた腕を折る。折ったそのまま突っ伏すと、その布に埋めた顔を覗き込まれた。
「……大丈夫か?ちょっと無理させたな」
「…何が『ちょっと』だ」
 言う間に背に手を回されて引き寄せられる。緩やかに頭を抱かれて、メルキオールは大人しく褐色の胸に顔を埋めて鼓動を聴き―――唐突に顔を上げ、自らを見下ろすと、耳の辺りを擽っていた髭を引っ張る。
「コラ、何すんだ」
「何じゃないだろう。こんなに痕をつけてしまって、どうしてくれる」
 本気なのか演技なのか、不機嫌そうな色を表情に滲ませた恋人に肩をすくめて、バルバトスは応える。
「どうせ見えねぇだろ」
「私からでは隠せるところしか確認できない」
「全部隠れるから安心しろ。それに見えたところで何を悪いことがあるんだ」
 言い草に呆れて、メルキオールは処置無しとばかりに天井を仰ぐ。けれど離れることはせずに、ことりと広い胸に頭を預けた。
「……何故お前みたいな奴に惚れているんだろうか」
「お前が悪趣味だからだろう」
「お前も人のことは言えないだろう?」
「違いねぇ」

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 馬鹿げている、と思うことがないわけではない。

 元から自分は移り気な方だと自覚しているし、一箇所に留まらずにふらふらと飛び回っている方が好きだ。
 こんな身分で言うのも何だが、その方が性に合っている。
 それなのにいざ城を抜け出してみれば、特に用があるわけでもないのに足を――慣用的にそう言うのであって、実際当てはめるとしたら「翼」にでもなるのだろうが――向けるのは大抵がこの男の所で、しかもそんな状態が既にだいぶ長く続いている。
 それほどまでにこの男が気に入っているのかと言ったら、確かに気に入ってはいるが、では何処が気に入っているのかと問われたら、実は少々答えに詰まる。
 何しろこの男は粗野だし無骨だし、力強さはあるが飛天での美徳たる優雅さなどは欠片もない。
 それに、自分は主導権を握る、或いは取り合うのが好きなのであって、握られるのが好きなわけではない。なのにこの男はと言ったら、機微には疎いし、無駄に強気だし、人の都合は無視して好き勝手なことをするし……まあ、それは自分も同じなのだが。
 いずれにしろ、こんな男に執心するなど、馬鹿げていると思うのだけれど。
 本当に、どういうわけなのか。
 包み込むように抱きしめる腕も、安定して響く低めの声も、どういう理由か酷く心地良くて、結局どうしても離れる気にはなれないのだ。


「…重症だな」
「…んー…?」
 独り言に返ってきた眠そうな声に、何でもないと返すと、それなら寝ろとでも言うのか何なのか、太い腕に引き寄せられる。
 横暴な腕の体温を心地良いと思いながら、メルキオールはシーツと広い胸に顔を埋めた。

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 白亜

「何故鳥に鎖をつけないのか、考えたことはありますか?」
 視線はこちらへ向けられたまま、後ろ手で錠を下ろす音。重く響いた金属音に、知らずびくりと肩が跳ねた。それに小さく笑って、ナルサスは扉から離れる。

 靴音は嘲笑うように、あるいは脅かすように。

「鳥のように華奢な生き物には、鉄の鎖は重すぎる。それにもし絡みでもすれば骨を痛めてしまいます。何より鳥は翼を持つもの、愛でるにしても矢張り羽搏や囀りを聴きたいものです。だから鳥には鎖など無粋な物は付けず、籠に捕らえるわけですが―――」
「っ!」
 伸びてきた手に俯いていた顔を無理矢理上げさせられ、正面から目が合う。幸いにも手はすぐに離されたが、だからといって視線が外せるわけもない。
「……愛でられていることを気にも留めない鳥は、籠が少しでも開いているとそこから逃げてしまいます。籠の中で暮らす鳥には、外の世界は危険だというのに。……そして、戻ってきた鳥を籠へ戻せば、また隙を見て飛んで行ってしまう。不埒な獣に喰われでもしては困るのですが、あなたは何度言っても聞き入れて下さらない。――それとも」

 ぎ、と腰掛けた寝台の軋む音。のしかかる様にして覗き込まれて、メルキオールは小さく息を呑む。

「…こうして捕らえれば、少しは考えていただけるのでしょうか?」

 目と鼻の先、人間離れして整った顔が嫣然と微笑む。

「さあ、出奔の弁明をしていただきましょうか」

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『私から去るなど許さない』

 即位したその式典の直後、言祝ぎと共に突きつけた言葉に、王はそう答えた。

「『私から去るなど許さない』……そう、言われましたね」
「ああ。……今問われてもまったく同じことを答えるよ、私は」
 ふわりと微笑んだ顔は、虫も殺さぬかに見えるのに、
「私から去るくらいなら、今代限りでお前を殺そう」

「……貴方はなんて情が深いのでしょうね」

 言葉と共に仰ぎ見た空は抜けるように青い。目の前に広がる自由の前で、飛び立つこともせず抜けそうに緩い拘束にそれでも捕らわれている。

「私のために死ねばいい」

 睦言にも似た囁きにナルサスは笑った。

「私はそう簡単には死にませんよ?」
「ではそれだけの状況を用意しよう」
「国を荒らす貴方など見たくはありません」

「ではお前は私に殺されてくれるのかね?」


「貴方がこの世界から去ろうとするその時になら、喜んで」

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「悠久に比べれば、人の一生など短いものです」

 何時か私は貴方から去るし、何時か貴方は存在ごとこの世から去るのでしょう。

 
 いつもの戯れ言のような調子で言った言葉は、その意味とは裏腹に静かに床へと落ちた。さながら戯れに紡ぐ言葉のように。
 否、おそらくこれは今言うべき言葉ではない。試そうとして放った言葉は、だから多分戯れ言の範疇だ。例えどれほどの深い意味を持っていたとしても。
 試したのはこれが初めてではない。今はもう亡き墓の下の王達に、散々言ってきたことだ。

 戒めと。確認と、
 (ああ、けれどこの永劫の繰り返しが途絶えたなら、)
 ほんの僅かの期待を以て。

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