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2024/09/24

「……薬泉院は、冒険者がメインだけど、民間の患者も来てさ」
 薄紫色の瞳を眠たそうに瞬かせて、ぽつぽつと語られる言葉を、コーディは無言で聞いてやる。否、無言で聞いてやることしかできない、というのが正解だ。
 頷いて見せようにも、既に眠たそうに半分閉じられ、どことなく焦点の合っていない薄紫の瞳は、机の木目を滑るばかりでこちらに向けられてはいない。
 珍しくもくたりとテーブルに懐いている背中を認めて顔を覗き込んでみれば、既にこの有様だった。
 机の上に酒精の類はなく、置いてあるマグカップの中身も、見た限りはただの水だ。――ただの水だからこそ、見当がつく。睡眠薬だ。
 アスターも飲めないわけではないはずだが、夢見の悪そうな日は寝酒はしないと言っていたのを思い出す。
「でも、薬泉院は大体救急しか診る余裕はなくて他は他院に回すから、来るのは大怪我の冒険者か、……重症の民間人なわけ」
 その「大怪我の冒険者」になったことのある身として僅かに苦笑を零したが、アスターはそれに気付いた様子もなく、物憂げに瞳を伏せた。
「でもさ、そうやって運ばれてくる奴らって、大体、もう、助からないんだ。外から見たら何でもなくても、調べてみると、もういろいろガタガタになってる。特に、開いてみてからもうダメだって解った、なんてのもあってさ。……そういうのは最悪だ」
 睡魔の誘いに屈しかけてほとんど平坦になっていた声が、僅かに震えた。
「未だちゃんと生きてんのに、俺達には助けられない」
 テーブルの縁に掛かっていた指が、微かに木目を引っ掻く。かり、と爪が凹凸に引っかかる微かな音がなんだか痛々しくて、コーディは上からそっと手を添えた。それで何が変わるというわけではないけれど、それでも手の中の指からはやがて力が抜けていった。
「……向こうで医者目指してた頃もさー、こんなのあったな、って思って。そういうの、どうしても駄目で辞めちゃったんだけど」
 うん、と見えていないことを承知でコーディは頷く。一度はその道を諦めた彼が、もう一度医師としての道を選んだその理由には、コーディ自身が深く絡んでいる。
「……俺もいつか、こんなのに慣れんのかな…………」
 ぽつり、と呟いて、アスターはゆるりと瞬く。
「慣れても、慣れなくても、……メディック失格、って気がするけど」
 半ば自嘲気味な声。思わずそれは違うと言いかけて、――ひゅ、と喉の奥で息が鳴る。けれどそれだけだった。
 こんな時、声を失ったことが堪らなく悔しい。そんなことはないと、彼の自身を否定する言葉を、それは違うと言ってやりたいのに、伝える術がない。

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「怪我は嫌いだ。
 するのはもちろん、見るのも嫌だ。
 触るのなんてまっぴら御免だ。……自分のも、人の傷も」


(自分の傷さえ治せないヤツが、人の傷なんて背負えるわけない)

(ましてやお前の傷があるところまで、踏み込む資格、なんて)

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 誰も知らないだろう。

 しがらみも壁も軽々と越えてゆく鳥の、その実在する足には重い票が付けられていること。
 美しく力強く風を受ける翼には、透明な鎖が巻き付いていること。

 それらがいつか、彼を鳥籠に連れ戻さずにはおかないだろうということ。

 鳥の声のうたう自由さに聞き惚れて、本当はそんなものは断ち切ってしまいたかった。
 断ち切って、……貴方が戻る場所を、この腕(かいな)の籠以外全て奪いたかった。

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 例えば、声音で。
 視線で。
 態度で。
 言葉で。

 彼はあまりにも簡単に、この手の中に全存在を落とし込んでしまう。
 両手で包み込むのも、このまま握りつぶしてしまうのも、僕自身だと否応なく自覚させる。

 時々怖くなる。いつか、この距離の近さに酔ってしまいそうで。

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2010/08/02

鳥「今日は風馬の17日です」
緑「は?」
鳥「17日です」
緑「……そうだな。で?」
鳥「古い暦では一月は約30日、換算すると今日は8番目の月の1日です」
緑「まどろっこしいなお前。だから何なんだよ」
鳥「君が興味ないことに対してはぞんざいな性格なの知ってるから、細かいことはすっ飛ばして言うけど、要するに君と僕とでメイク・ラブするのが筋の日らしいよ」
緑「…………」
鳥「えっそんなにショック?傷つくなぁ」
緑「そこしな作るな。つーか何で俺とお前で……あ。そゆこと?」
鳥「うん、まあそゆこと。男限定なんだって」
緑「別に押しつけたいわけじゃねーけど、もっと適役が居るんじゃねぇの。あいつとかあいつとか」
鳥「え、気付いてたの?」
緑「これでもギルドマスターですから!」
鳥「なーんだ、そっか。彼等が外された理由はね、純な子にお願いするのは偲びないとか無口なヤツはこういう形式に向かないとか、そういうことらしいよ」
緑「んなメタな……」
鳥「しょうがないじゃない、今の状態自体メタだし」
緑「じゃ、メタついでに聞くけど、何で俺等」
鳥「それはほら。好きすぎるキャラには遠慮が無くなる現象?良かったね愛されてるよ」
緑「句読点がないし棒読みだぞ」
鳥「地の文なしで感情表現するって難しいねぇ。……あとは、幼なじみの連帯感とか、中衛職萌えとか、補助職萌え、だって。……で、本題なんだけど」
緑「凄く聞きたくないけど聞かなきゃなんねぇんだろーなー……俺等は何すりゃいいわけよ」
鳥「…………」
緑「黙るなよ。何そんなに凄いことでも書いてあんのか」
鳥「いや。平凡に、キスしろだって」
緑「で、その他の指定は?」
鳥「やだなぁ、大丈夫何も変態じみたことは書かれてないよ。友情に誓って本当だって。ディープですらないよ、良かったね、僕は構わないけど」
緑「お前、なんでそう爆弾ばっかりかますんだよ。そういうキャラだっけ?」
鳥「そういうキャラでもありますが。だっていきなりディープとかフレンチとか驚くでしょ」
緑「いや男としてはやっぱ……何でもない」
鳥「わーすけべー。……さて、じゃあさっさとやっちゃおうか」
緑「そうだな。漫才にもそろそろ飽きてきたし」
鳥「えー?漫才って酷いなぁ。ていうかどうする?ただするだけなら唇くっつけて終わりだけど」
緑「……何かもっとそれっぽいものを期待されてるんだろ。見つめ合って口説いて眼ェ閉じて唇くっつけりゃいいか?」
鳥「いいんじゃないの。素直で情熱的で色っぽい口説き文句大歓迎」
緑「なあ、聞いて良いか」
鳥「何?」
緑「お前自棄なの?」
鳥「自棄だよ?――仮にも君とのファーストキスがこんなのなんて嫌じゃない」
緑「は、――っ!?」
鳥「――――……はい終了。バトンタッチ」
緑「待て。……俺からもやんのか」
鳥「その方がいいんじゃないのかなぁ。サービス的に」
緑「お前の後とかすっげやりにくいんですけど」
鳥「先手必勝って言うからしょうがないね。楽しみだなぁ君の口説き文句」

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 今回はお色気は一切無し。
 どことなく双方鬱。

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 ケン×カナトです。
 キスまでしかしてませんが、管理人は割と本気で書いたので、ちょっと描写がねっちょりしてるかも知れません。
 苦手な方は回避してください。
 キス好きです。良いですよね、可愛くて。今回のが可愛いかどうかは知りませんが。

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 女性向け濃度はさほど濃くはないですが、とにかくイチャついてる話なので追記で。

 前回の眼鏡ネタの発端みたいな話です。
 余所のお宅の方々の仲睦まじさを見ていたら、脳内のプリの人がずるいって言い出したので、今回は仲良くイチャついてもらいました。
 ぽつぽつ出てくる姿勢と位置関係の示唆がアレなのは、つまりそういうことです。

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 古の昔、世界には夜がなかったのだという。
 空には双子の光の娘がいて、一人は一日うちの初めの半分を、もう一人は後の半分を照らしていた。世界に夜が訪れることはなく、故に闇に潜む魔物も居なかった。
 ある時、あとの半分を照らす娘が、地上の水精に恋をした。娘は毎日毎日水精に向かって微笑みかけた。けれどある日、輝く娘の光を透かす、透明な水精がどんな表情をしているのかよく見ようと娘が地上に降り立つと、娘の放つ光に耐えきれず、瞬く間に水精は乾いて消えてしまった。
 嘆いた娘は輝くことを止め、だから昼には太陽の娘が、夜には輝くことを止めた娘が――月が今夜も空に昇る。


「そういう神話があるんだって」
 開け放たれたカーテンの向こう、四角い窓の向こうに浮かぶ月を見上げながら言うと、隣からはやや眠そうな相づちが返ってきた。
 時間が時間だから、これは仕方がない。苦笑して、カナトは窓から傍らへと視線を移した。いつもよりやや焦点の緩い、翳りを帯びた金色の――ちょうど今夜の月を模したような色の瞳を覗き込む。
「哀しい話だね」
 緩く鬱金色の瞳が瞬く。それで何となく先を促されている気になって、カナトは手を伸ばす。自分のものとは違い、重たげな色の髪を指先で梳きながら言葉を続けた。
「近付きたいと願っただけなのに、それさえ叶わない」
 そう呟いてから、しまったかな、と思う。どうも暗い話になってしまった。その場の雰囲気を誤魔化すべく、そろそろ寝ようか、と提案するよりも先にですが、と囁くような声が上がる。
「太陽の視線を、一時でも得られたならば、幸せだったでしょう」
 半ば睡魔に支配されつつある声は、眠りの誘惑を含んでどこか甘い。思いがけない台詞にカナトが瞬いていると、ああ、とケンが溜息のような声で呟いた。
「でも、貴方になら消されても構いませんが……それで貴方が輝かなくなってしまうのは、」
 それは、嫌です。言ったきり、鬱金色の瞳は瞼の奥に閉ざされて、開くことはない。
 穏やかな寝息を呆然と聞いて、カナトはゆっくりと息を吐いた。
 なんてことを言うのだろう。
 そう思いながらも、口では別の言葉を紡いでいる。
「……謙虚だなぁ」
 きっと今の台詞は、紛う事なき彼の本心だったのだろうけれど。
「失ったら、二度と輝けなくなるくらい、深い傷になるよ」

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 滑らかな皮の表面に酷く不釣り合いなものを認めて、ケンは僅かに眉を顰めた。

 カナト自らが生徒会の天敵である天ヶ原に非公式の遺跡調査を依頼し、各々が負傷して帰ったその日の夜のことだ。
 カナト(と天ヶ原の連中)が帰還してからあった諸々のことは置いておく――実は今もカナトは父であり鳳凰学園理事長である麗雅に、事の起こりと顛末と責任の所在と処置に対する申し開きをしに行っている所なのだが――置いておくとして、ケンの鳳凰院家における役職は執事である。
 『ご主人様は現実の厳しさを知ることなく、人生の美しい面だけを見ていられるように』――そんな風に言った執事も居たらしいが、ケン自身は己がそこまで出来るとは思っていない。何しろカナトの視野は広く、それら全てをケンの手で見栄え良く整えることは、とてもではないが出来ない。ならばせめてケンの手の及ぶ範囲は整えておくべきだろう。
 いつも通り、靴の埃を払おうとブーツを手にとって、そこでケンは眉を顰めた。
 翼を模した紋様が縁取る焦げ茶色のブーツは、今日非公式の地下遺跡の調査に同行したカナトが履いていた物だ。いささか無骨な学園指定の靴とは異なり、優雅さを漂わせるそのブーツの、しかし足首の辺りには切り裂いたような傷が無造作に刻まれている。
 その意味するところに一瞬動揺し、けれど脳裏に浮かべた先ほどのカナトの姿と、検分した傷の縁に血糊の類が付着していないことを確認して、思わず安堵の息を吐いた。
 怪我をしたわけではないらしい。あるいは出血がほぼ無い程度の掠り傷か。平然と歩いていたところを見ると、捻挫の類の心配も無さそうだった。ならばこれは本当に表面を抉っただけで済んだ傷なのだろう。
 良かった。本当に。
 思いながらも、無意識のうちにケンの表情は渋くなる。
 デザインや機動性に重点を置いているとはいえ、遺跡調査にカナトが履いていくくらいだ。それなりの防御力はある代物である。それがぱっくりと切り裂かれ、鋭利な皮の断面を晒している。
 黄金竜なるその化け物の、爪にやられたのか角にやられたのか、或いは別の何かなのかは知らないが、もしこの一撃が掠めたのがこんな場所ではなく、例えば柔い布で覆われただけの腹や、半ば晒された喉頚だったら。
 ぞっと立ち竦み、振り切るように緩く首を振る。考えたくもない話だ。だが考えなければいけない話だ。
 難しい顔のまま、ケンはそっと溜息をついた。
 本当に、こんな危険な場所に赴くようなことはしないで欲しい。今回はさほど危険ではないとの判断だったのだろうが、結果的にそれは誤りだったのだから、今後はもっと自重して欲しい。叶うことならば自分が同行して少しでもカナトが危険にさらされる機会を減らしたいのだが、カナトはこういうイレギュラーな行動をするときには、生徒会のメンバーを同行させてはくれない。
 なのに。
 ――今回僕らが生きて帰って来れたのは、カイ君の活躍のおかげだよ。
 嘘偽りなく信頼の置かれた台詞。
 カイ。今日遺跡調査に向かった天ヶ原、その末席に名を連ねる少年。
 生徒会と対立する組織にありながら、カナトの信頼を勝ち得、またその危機を救った存在。
「火群、カイ……」
 ぽつりと呟いた名前には、言いしれない羨望と、嫉妬が宿った。 

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