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2024/09/25

「案外似合うじゃないですか」
 明らかに面白がっている風な声の主を、俺は鏡越しに睨んでやった。
 けど、洗面所の入り口に軽く凭れていたギーファは、軽く肩を竦めて見せただけ。いやむしろ、竦めたんじゃなく、笑ったのかも知れない。……確かにこのかっこじゃ、何しようが面白いだけかも知れねーけどさ……
「あんまり笑うんじゃねーよ」
「これは失礼。まるで縫いぐるみのようだったので、つい」
「ぬいぐるみ……」
 ファンシーな単語を復唱して、俺は鏡の中の自分の頭を見直した。いつも通りの逆立てたヘアスタイルの上に乗って……や、生えてるのは、まさにギーファが指摘したような、キャメル色の柔らかな毛を生やしたテディ・ベアの耳だ。
 いっとくけどコレは俺の趣味じゃない。
 ついでにいっといてやると、俺の後ろで笑ってるコイツの趣味でもない。いや、罰ゲームになら楽しくもない獣耳装着を要求しかねない奴だけど、少なくともコイツはクマじゃあないと思う、いやそんなことはどうでもいいけど。
 北斗七星団と鎧羅軍の仕事は、何も戦闘だけじゃない。もちろん有害モンスターを駆除するようなこともあるけど、実は要人警護、治安維持、災害救助その他諸々の任務の方が多かったりする。そんな鎧羅軍はフレンドリーにも一般市民との垣根を無くすために、頻繁に基地開放だとかイベントだなんかを行っていて、特にハロウィンは秋の終わりの一番大きなイベントだ。当日は星団員も仮装やら変装やら解らない格好をして、曲芸じみた芸を見せたりなんだりをする。
 ……で、今年は戦争終結記念に、他部族のカッコをして曲芸だかパレードだかをするんだそうだ。
 因みに俺の所属する第六星団が扮するのは、獣牙族。
「でもいくらイベントで、市民に親しんでもらうためーだからって、大の男に獣耳はねーだろ……」
「君、それ外で言ってはいけない言葉だって解ってますか? 同盟組んだ獣牙と小競り合いなんて、私は御免ですよ」
「解ってるよ。獣牙族はさぁ、良いんだよ。なんか紋様とか爪とか?男らしーじゃん。でも俺等、付け耳付け尻尾だぜ? ぶっちゃけさ、女装だろこれ!?」
「良いじゃないですか、面白くて」
 面白くもない仮装なんてモグリですよ。常日頃から大道芸人のような人形を連れ歩いているギーファが腕を組んで言う。
 そりゃ、ハロウィンは俺等鎧羅住民にとってはお祭りだ。馬鹿騒ぎしたり大胆なことしたりするのが正しい楽しみ方だってのは俺だってそう思う。けど何だかなぁ……
「そう言う第五はどこやるんだよ?」
「私の所は特に面白くはありませんよ」
 言ったギーファが視線で洗面所の隅を示す。横に突っ張った物干しには、いつもギーファが着ているのよりもいくらかシンプルな黒い上着が――詳しく言うと、翼の生えた黒い上着がハンガーに吊されていた。
「飛天族かよ……」
 ギーファが飛天族。うーん、髪色はギリギリクリアとしても、こんな背が高くて肩幅がっちりした飛天族とかイメージ狂うな。いやでも、見えにくい糸を使えばコイツの人形はまるで魔法で動いてるように見えるかも知れない。はまってる、と言えばはまってるか。
「どちらかというと、君の付け耳の方が上等ですな」
 確かに、鳶のような茶色い翼は、形といい羽根の付き方といい、ちょっとチープな感じだ。これなら俺のテディベアの耳の方が本物っぽい。
「第六が獣牙、第五が飛天、って事は第七は聖龍?」
「そうですよ。……君、もしかしてマルス将軍のことを見ていない?」
「見てないって、マルス将軍だろ?朝見たぜ?」
「そうじゃなく、あの人が仮装しているところを、ですよ」
「聖龍族の?」
「なんと言いますか……まるで節分でも始めそうな感じでしたよ、角の生えた将軍は」

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2009/10/21

「……殺したいほど憎い、ではなく」

「殺したいから、憎いのだ」


 言ったあんたの眼に、憐れみの色が混じっているのは何故だ。
 あんたは俺が嫌いだろう。なのにそんな勿体ぶった言い方をする理由は何だ。

「何故千年も生きていた?」

 なあ、気付いてるか?
 あんたの言い方、まるであんたと戦わなきゃいけない俺を憐れんでるみたいだ。

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 そろそろこの手の言い訳のネタが尽きてきました。
 そして相変わらず恥ずかしいタイトル&あやしさ極まりない英文。
 ええと、バルバトス×メルキオール、です。
 誰得という感じもいたしますが、俺得なのでまあいいや。

 キスまでしかしてませんけど一応R-16ということでお願いします。

 

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 神羅

 恐れておいでですか。
 何を、と彼は言わなかった。

 多分、否定することも出来たのだ。恐れてなどいないと、「王」であるならばそう答えるのが正しいのだと思った。
 どう答えるべきか逡巡して、けれど彷徨わせた視線の先、まるで試すような硬質な色を浮かべた瞳が視界に入って、――ふと、吹っ切れた。
 今更繕ってみたところで、その虚実などはきっとすぐに見抜かれる。ならば試されているのは、今自分が己の心を語るか、在るべき姿を演じるか、だ。
 どちらを選ぶかは、自分の理性次第。
「……はい」
 はたして、アレックスはそう答えて、ゆっくりと息を吐いた。

 そう、自分は恐れている。人を殺すことを恐れている。

「では、精々恐れることです」
 驚いて思わず言った彼の方を見ると、ナルサスは、最前アレックスがそうしていたように十字架を――その向こうのステンドグラスに描かれた、血の気を失った死者達を見上げていた。
「奪われるものの価値を知らぬ者に、奪う権利などありはしません」
 それは驕りです。言って彼は、ステンドグラスからアレックスに視線を移す。その作り物めいて整った表情に、何か奇妙な感情を見て取ったような気がしたが、それが何かを読み取りきる前にかき消えてしまった。
「貴方の魂はあるべき姿をしておられます。――お心は正しく在られますよう。驕りの果てにあるのは、滅びでしかないのですから」

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 神羅

「この世界を支える一柱となっていただきたいのです」
 創造と破壊、二つの理を併せ持つ生まれたばかりの神の声は穏やかに、けれどはっきりと響く。
 幾つもの声が重なり合うような、複雑な響きと音程を持った言葉を受けて、若い武神は目を伏せる。考え込むような数瞬の後、やがて決意を固めたのか、ゆっくりと視線を上げ、彼は答えた。



「やだ」


「やだ、ってお前」
 唖然とする、というのはきっとこういう顔なんだろう。妙に抜けた表情がらしくないよ、オウキ。
 軽く頭を振って表情を改めたオウキは、まさか、と眉を顰めて囁く。
「本当にそれで地上に戻ってきたのか」
「そうだよ」
 さも当然、と言うようにさらりと返せば、オウキの表情に何とも言い難い色が浮かぶ。多分それで調和神様は怒らなかったのかとか、いや怒らなかったからこうして平穏無事にいられるのかとか、そんなことを考えているんだろう。うんうん、解るよ、神様って心が広いのか狭いのかわかんないよな。なんて、俺が言うのも何なんだけど。
「会いたい人が居るんだ、って言ったら許してくれた。俺が守った人達が無事なのか確かめたいって」
「……そうか。そうだな、お前は地上の人達を守るために戦ってくれたんだったな」
 そこで一旦言葉を切って、オウキは小さく苦笑を浮かべる。
「悪かった。責任を蹴って帰ってきたお前の決断を、疑うところだった」
「え。俺そんなに自分勝手じゃないよ」
「昔は随分無鉄砲だったけどな」
「酷いなー。……オウキだって、どんどん前に飛び出していっちゃうくせに」
 少し恨みがましく、……それでも出来るだけ冗談を交えた言い方で言ったのだけれど、オウキは何を言われているのか気付いたらしい。表情が硬くなった。こんな所だけはほんとに聡いのになあ、この人。ほんとに気付いて欲しいことには、なかなか気付いてくれない。
 俺は、別に責めたいわけじゃないって伝えるために、笑ってみせる。
「俺が守りたかった地上の人には、ちゃんとオウキも入ってるんだよ」
 無事を確かめたかった人はたくさん居る。……無事でいて欲しかった人だって。でも、一番生きてることを確かめたかった人は、触れてちゃんと体温を確認したかった人は、オウキなんだよ。
 そう思ったらなんだかとても触れたくなってしまって、少し考えるフリをしてから尋ねてみた。
「触って良い?」
 唐突な台詞にも、オウキは何一つ不審がる様子もなく、首肯の答えを返してくれる。
 手を伸ばす。許可なんてとらなくったっていつも触れていた手だ。触れれば、あたたかい、とは言わないまでも、温い人肌の温度を伝えてくる。それだけでは物足りなくて、思い切って身を乗り出した。薄い寝間着の胸に耳を押し当てて、規則正しい心音を聞く。本当は、今すぐにでも腕を回して引き寄せて抱き締めたい衝動に駆られている。
「……生きてて良かった」
 囁くと、息を呑む気配がして、胸が小さく上下する。やがて吐息のような、悪かった、と、ありがとう、が吐き出された。
 うん、悪かったよ。オウキが死んだらどうしようかと思ったとか、今度一人で無茶なことしたら絶交だとか、子供っぽい文句の一つも言ってやろうかと思っていたけど、オウキが温かくて、穏やかな心音が聞こえて、なんだかどうでも良くなってしまった。
 少しだけ視線を上げると、前あわせの寝間着の襟から、包帯の端が覗いているのが見えた。もし神様の力があったら、そんなのすぐに治しちゃうのにな。神の力を手に入れようとした魔導士の姿を思い浮かべながらそう呟いたら、冗談でも言うものじゃない、と小突かれた。割と本気だったんだけどな。
 でもオウキ、例え誰かの怪我を一瞬で治せてしまっても、オウキと一緒にいられないなら、俺は神様の力なんていらないんだよ。

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2009/09/30
 神羅

時折、この人が強いことが不安になる。

また災いがあれば、人を守るために身を挺するんだろう?
(俺のためにじゃなく、誰かのために)
もし争いが起きたら、求められるまま戦うんだろう?
(けど俺はもう隣には立てない)

どんなに平穏を保とうとしたところで、摘みきれなかった小さな禍のために、あなたは人のために尽くすんだろう。
(きっとそれは俺の知らないところで。……俺の手出ししちゃいけないところで)

神様になったって、一番欲しいものだけは、結局手に入らない。

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2009/09/29
 神羅

「40.6度」
 相変わらずの何を考えているのかよく解らない声が、体温計の計測結果を読み上げる。多分1メートルと離れていない場所からの声なはずなのだけれど、今は近いのだか遠いのだかよく解らない。ついでに視界に広がる天井の遠近感もよく解らない。
「あと1.4度でメントールが溶けるな」
 ぼそりと実に人ごとな台詞がベッドサイドから聞こえて、アスエルは濡れたタオルの下からそちらへと視線を向ける。
「と……溶けてたまりますか」
 人の体温の上限は摂氏42度、それが恒常性を保てる限界だ。メントールの融点は42度から45度。人肌で溶けたら多分死んでいる。うわぁやだなぁ!
「大体、なんで貴方がここに居るんですか……油売ってないで仕事してくださいよ」
「なんでって、そりゃ酷いんじゃないかいアスエル君。君は寄りにもよって共用の仮眠室でダウンして、そのままベッドを占領しているんだよ?私が此処にいたって、何らおかしいことはないじゃないか」
 う、とアスエルは言葉に詰まる。確かに、突発的に出た高熱によって仮眠室を占領してしまったことは悪いと思っている。……思ってはいる、が、しかし。
「誰の所為だと思ってるんですか……」
 先月から始めた新しい研究のために採集されたサンプルの温度管理と分離同定、抽出測定その他諸々。それに加えた日々の雑用とおさんどんに経理。サンプル関連の仕事はラティエルと分担して行っていたが、先週から研究が佳境に入ったと主張するラティエルが奥の実験室にこもりっきりになってしまったため、今週はもう本当に目が回るような忙しさだったのだ。恨み言の一つ二つ三つくらい言っても、調和神様だって怒らないだろう。
 と、思ってベッドサイドに座るラティエルの分厚い眼鏡を精一杯睨み付ける。
 ラティエルはのほほんと宣った。
「君は可愛い顔をするねぇ」
 何言ってるんだこの人。
 二の句が継げないアスエルを余所に、確かに、と足を組み替えながらラティエルは言う。
「私も少々悪かったとは思っている。だからこうして体温を測りに来たり、タオルを用意したり、かいがいしくも看病しようとしているのじゃないか」
 一応罪悪感じみたものは感じてくれているらしい。どの辺が「かいがいしい」のかは不明だが、それでも自分のためにラティエルが何かしてくれようとしたことには感謝しておくべきだろうか。
「そうそう、後で粘膜サンプルを取ってくれないか?今年の流感として保存しておけば何か後々役に立つかも知れない。地上の流感と比べてみたら面白いかも知れないねぇ。いや、ウイルスだから、あまり比べ甲斐はないかな」
 ……前言撤回。やっぱりこの人面白がってるだけじゃないのか。アスエルは深く溜息をついて答える。あー、関節が痛い……
「良いですけど……流感だとは限らないじゃないですか」
「この時期に一気にぱっと熱が上がって全身症状が出る、これが流感じゃないとしたら大発見かも知れないねぇ。大丈夫だよ、ちゃんと同定するから」
 何が大丈夫なのか、もはやつっこむ気も起きない。というか、伝染る病気だと解っているのならマスクの一つもしたらどうなんだろう。そう言うと、君はたかが不織布一枚でウイルスを防げると信じているのかね?と眼鏡を光らせて問い返された。……正直、信じてたんですけど。




「ともかく、だ。熱が高いようだから解熱剤を用意しよう」
「……ありがとうございます」
「それで薬の形状なんだが、錠剤と座薬どっちが良い?」
「なんでその選択肢なんですか、錠剤じゃダメなんですか」
「胃腸から吸収された成分は門脈を経由し、肝臓に到達するとそこで化学的修飾を受ける。対して直腸から吸収された物質は肝臓を通らず、直接体循環に入るから、胃腸にも良いし代謝の反応も受けにくく効果が高い」
「すいませんまったく何を言っているか解りません」
「まあ、要約すると座薬がおすすめということだよ。何ならいれてあげようか」
「結構ですッ!」

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2009/09/25

「ゼロはナルシストよ」

 割と……いや、かなり衝撃的だった発言に、マキシは思わず飲んでいたココアを噴きかけた。実際に噴かなかったのは偶然でも自制心の賜物でもなく、ただ単にタイミングの問題だ。もし一瞬早くカップに口を付けたマキシがココアを口に含んでいたら、イーリスから顰蹙を買う結果になっていただろう。
 再度の危険を恐れてそれとなくカップをテーブルに置き、マキシはイーリスに聞き返す。
「ゼロが……なんだって?」
 なんだか到底結びつかない単語を聴いた気がしたのだけれど。
 だから、とイーリスはらしくもなく、歯ぎしりしそうな歯の間から呻くように言葉を押し出した。
「ゼロは、ナルシストだって言ってるのよ」
 はあ、とマキシは相づちを打つ。明らかによく解っていない調子になってしまったが、実際イーリスが何を指してそう言っているのだか解らないのだから仕方がない。
 何かそんな素振りがあったろうか、と考えて、10秒経たずに放棄した。噴くほど結びつかなかった単語とゼロを、今更並べ直してみたところで、何かそれらしい繋がりが見つかるとも思えない。それならイーリスの解説(ただし、納得できる内容かは別として)を待った方が早い。
「マキシはそう思わないの?」
「いや、全然」
「……ふぅん」
 マキシはいつもゼロに甘いのね。イーリスは拗ねたように言うと、子供っぽく口先を尖らせて、自分の花模様のカップを吹いた。
「イーリスはどの辺が……その、」
「ナルシスト」
「……だと思うんだ?」
 連呼されるとなんだか居たたまれないなぁ、と思いながらマキシが問うと、イーリスはココアを吹くのを止めて、その大きな瞳で、うっすら膜の張った薄茶色の液体の表面を睨む。
「……頑張れば、何でも自分一人で出来ちゃう、理想通りを目指せるって信じてる所よ」

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「ですが、理解しがたい趣味さえ除けば、私は君のことが好きですよ」

 こんな時に何故そんなことを言うのか。
 熱く生き物の温度を伝えてくる肌だとか、湿った髪の匂いだとか、そんなものの所為で、まるで距離がゼロになったような、解け合う近さにいるようなそんな錯覚に陥る。
 追い詰められた気分で、止めてくれ、と思う。
 何故こんな時にそんなことを言うのか。
 肌を重ねた所為で心まで重ねられそうな、そんな錯覚にさえ落ちそうな、こんな時に。

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 閃くように銀光が駆け抜けた。まるで重さのない本物の光のように、一閃二閃と赤い骨のような甲殻を持った生き物の四肢を切り落とした銀光は、三閃目で赤い甲殻の異形の目玉を切り裂くと、まるで魔法のように軽い金属音を立てて鞘の中へと納まる。
 対して、空を裂く重い音と共に振るわれるもう一方の剣は、まさに瀑布のようだった。群がる赤い異形に鋭い横の一薙ぎが繰り出される。胴を切り裂かれ、重い一撃に後退を余儀なくされた異形達の、その合間を縫って得物を振り上げてきた一体は、返す刀で目玉ごと両断してみせる。
 凄まじい技量を持った二人の剣士に押され、赤い異形達はその十重二十重の包囲網を一旦広げ、様子を窺う。
 20や30ではとても足りない異形達に包囲されながらも、剣士達に焦りの色は見えない。冷静そのものの態度で異形達を見据えながら、すぐにでも抜刀できるよう柄に手を寄せ、或いはどこからの攻撃にも応戦できるよう、両手で構えた剣を握り直し、前へと構える――そうしながら、二人は互いに包囲網の中央へ下がってゆく。呼応するように異形達も一歩二歩と包囲網を狭めていく。
 やがて包囲網の中央で、二人の剣士は背中合わせに異形の群れと対峙した。
 骨の軋むような不気味な異形の声を聴きながら、褐色の肌に白銀の髪を持つ男が口を開く。
 これからの作戦、背後の仲間への叱咤、今の状況への悪態――この状況で口にするのなら、おそらくはそんな内容だろう。だが、彼が口にした台詞はそのどれでもなかった。
「……ジーク、だったな。何故お前が此処にいる」
 真剣に異形達を見据えたまま発せられた台詞に、背後のくすんだ金髪に左目に傷のある男も、同じように異形の群れから視線を外さずに答える。
「それは俺の台詞だ。神力を失って使い物にならんと聴いていたが、一体どういう怪奇現象だ、ゼロニクス」
「怪奇現象というなら、お前が俺に背後を預けているということの方が、俺にとってはよほど怪奇現象なんだが」
 皮肉るでもなく揶揄うでもなく、ただ疑問として口に出された台詞に、ジークは内心歯ぎしりしたいほどの苛つきを感じながら、平静を装って応じる。
「……貴様が天界へ帰った経緯については聴いた。俺は目の前に敵がいれば、そいつを倒すことに集中する――それだけだ」
「なるほど、直線の人間は恐ろしい。敵になるものを消す、それ以上の理屈はない、か」
 納得したようにゼロニクスが呟く。
「苛烈だな」
「貴様のように、綺麗事で災厄をばらまく奴には理解できんだろう」
 棘のある台詞を吐いてやると、背後からは戦場に不似合いな苦笑の気配が返ってきた。
「否定はしない。だがお前も理解されているとは言いがたいと思うが?」
 気に障る言い方に、ジークは眉を寄せた。それをどう取ったのか、わっと波うつようにして赤い異形がそれぞれに得物を振り上げて襲いかかってくる。それをいなし、打ち倒し、あるいは先ほどのように斬り跳ばしては、すぐには動けなくなった目玉を潰してゆく。同じように王我の兵に応戦する背後のゼロニクスに向かって、ジークは声を投げた。
「どういう意味だ!」
「戦うことで何かを守ろうとするお前は、孤独だろう」
「っ!」
 ジークは渾身の力を込めて、辺りを薙ぎ払う一撃を放つ。魔力を込めた一撃から放たれる剣圧に、辺り一帯の異形は砕け、とりわけ近くにいた異形は目玉にまでダメージを受けて絶命する。
 掛かった負担に一つ息を吐いて、ジークはそのまま踵を返す。丁度ジークの攻撃から逃れた異形の残りを切り伏せたゼロニクスの、その首元を掴むと乱暴に引き寄せた。
「侮辱する気か……!」
 並の者なら威圧されて竦むほどの殺気を放つジークの視線を受けても、流石は神と言うべきか、ゼロニクスに動じた様子はない。
「気に障ったのなら詫びよう」
「撤回しろ!」
「何故だ?俺がなんと言ったところで、お前の心が孤高なことは変わらないだろう」
 本気で言っているらしいその様子に、ジークは苛つきと戸惑い、両方の感情を覚える。そのまま撤回を要求し続けることも出来たが、背後でカタカタと異形達が再生する音が聞こえ始めたため、仕方なく手を放し、異形へと向き直った。
「ジーク」
「黙れ。……貴様の声は集中を乱す」

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