忍者ブログ
小ネタ投下場所  if内容もあります。
 [PR]
 

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。




2024/09/25

「――つまり、温度が高いほど分子は激しく振動する。この振動がもっと激しくなると、分子が格子点に留まっていることが出来るエネルギー値を超え、物質は相変化を起こすんだわさ。……聞いてる?」
「聞いておる。……ときに、コウシテンとはなんじゃ?」
「結晶格子の分子がある角……例えるならxyzの三次元の座標が全部整数になっている場所のことだわさ」
「ザヒョウ?」
「ああもう、キリがないんだわさ!あんたは黙ってアタシに写真撮られてれば良いの!子供は話をしてやると喜ぶって書いてあったから実践してるのに、まったく育児書なんて嘘ばっかり!これだから経験論でとどまってるのは駄目なんだわさ!実証も統計もありゃしない!」
「何を言っておるのかはよく解らないのじゃが……そのカシャカシャ言う箱は何なのじゃ?」
「カメラだわさ」
「カメラ?」
「そう、奥にフィルムに塗料を塗ったのを入れてあるんだわさ。このフィルムにレンズを通った光が…………とにかく一瞬で姿が撮せるんだわさ」
「余をうつしておるのか?」
「あんた意外に誰を撮すのよ?」
「余をうつしてどうするのじゃ?」
「比較して分析して記録して保存するに決まってるんだわさ!700万年前のサンプルなんて他にいやしないでしょ。……本当は写真だけでなく記録者主観の入ったスケッチも欲しいんだけど……難しいんだわさ」
「何故じゃ?絵が下手なのか?」
「違うんだわさ!忍び込んできたから時間が取れないだけだわさ!アタシが皇帝に会わせろって言ってもろくに取り合わないんだから!あいつらアタシの言うことなんかききゃしない!体育会系筋肉とお子ちゃまと女男には観察の重要性が解ってないんだわさ!」



「……誰が女男ですって?」
「!」

拍手

PR



 世界を語る言葉を聞く。それにはいつだって変わらない真っ直ぐな芯がある。

 クレアが語る言葉は綺麗だ。空から降る光の話、歌を作っている音の話、砂浜に打ち上げられた透明な小石の、本当の姿の話。言葉の意味の話や、もっと抽象的な話。
 クレアが言葉にすると、絡まり合った全ての事象はするするほどけて、余分な部分を脱ぎ捨てる。整列したように美しくなる。
 それらは本当は、マルムメイアには少し難しいのだけれど、クレアの言葉を理解することは、クレアの考えていることが理解できるようで嬉しい。
 マルムメイアの好むような恋も華やかさもそこにはないけれど、それでもマルムメイアはクレアの言葉が好きだ。

拍手




2009/06/09

僕たちは、対であるもの、という称号を与えられた、ただの他人だ。

顔の造作も
(親子ほどもある見た目の差)
体の形も
(前衛の体と後衛の体、)
声も
(重低音と、戯けた軽さ)
精神も
(忠誠を誓った兄貴と、態度を決めない僕と)
血の型でさえ、僕らは違う。
一致しない。同じになれない。

なら、一体何で繋がればいい?

拍手




 二弾が出る前にやっておかなければなぁと思ってアクミロです。
 えーと、以前メモで呟いたのを文に起こした感じです。
 事後なのでそういうのお嫌いな方、アクミロは馴染まないなぁという方は進まないでください。

 

拍手




「……ごめん、それは、約束できない」
 だって、また目の前で誰かが助けを求めていたら、きっとマキシは一も二もなく助けてしまう。
 使命を忘れたわけではないし、自分を捨ててしまうようなつもりもない。けれど、自分のことを惜しんで手を差し延べる機会を逸したら、きっと後悔する。
 誰かを取りこぼしてしまうのも、自分の心に嘘をつくのも、絶対に嫌だ。
 だから、約束は出来ない。
 きっとマキシは、誰が止めようと、またいつか今日のような無茶をしてしまう。
 ごめん。目を伏せて言うと、今はあまり変わらない高さから苦笑の気配が返ってきた。
「謝ることなどないよ。君の無茶が無茶にならぬよう、私達が居るのだから」
 その言葉に嘘偽りなど欠片もないのだろう。実際、そうやって彼等はマキシを助けてくれる。
(でも俺は、誰かに傷ついて欲しくないって、そんな当たり前の願いを叶えてやれない)

拍手




 澄んだソプラノが空気を揺らす。波を従え、風と交わり、水平線へと響いてゆく。

 マルムメイアの歌は不思議だ、とクレアは思う。とっくに忘れてしまった子守歌も、したこともないような悲恋歌も、体の芯までしみ入るように響くのに、決して煩わしくはない。
 正しいリズムの中にある計算されたハーモニーと、揺らぐように不規則な並びのメロディ。数学的な音の連なりの中に生まれる、ノイズのようなエントロピーと感情。
 それは決して結晶構造のように整然としてはいない。
 光が疾ってゆくような普遍性もない。
 けれど、他の誰の声でもない、心を揺らす彼女の声が。

拍手




 ぼんやりと開いた目には、薄墨色の空に残る星が映った。背中側には硬い地面の感触があって、自分が寝転がっているのだと知れる。いつの間に眠ってしまったのだろう?
「まだ夜明け前だ。もう少し眠っていても構わないよ」
 昨日は散々駆けたのだから、とそんな風に最近憶えた声が言う。
 この声は誰だっただろう。いつもの、落ち着いて安定した懐かしい声音で呼ばれたなら、きっとその声が目覚めを促すものでも安心して眠ってしまうのに。
 起きなければと思うのだが、聞き慣れた声でなくても今は意識が眠りの中に落ちていきそうで、随分酷使した人の体には疲労が残っているようだと、まだ半分微睡みの中でマキシは思う。
 一体何をそんなに疲れることをしたんだっけ。そうだ、羅震鬼と戦って、天使を追いかけて駆けて。何で天使を追いかけていたかって、そう、メリルが。
 思い出したら目が覚めた。
 思わず起き上がりかけたマキシの額を、やんわりと金環をはめた腕が押しとどめる。
「何処へ行く気かね」
 反射的に額へやった手を逆に掴まれて、それがどういう意味かを頭が理解する前に続けざまに言葉が放たれる。
「まだ賢者殿もアゼルも寝ているよ」
 そこまで言われてやっと、はじめに言われたように今が夜明け前で、守ってやらなければならない仲間がいて、何処へメリルを助けに行けばいいのかさえ解らないことを思いだした。
 メリルを追って散々駆けて、撒かれた後も天使達の飛び立った方向へ痕跡を探して散々歩いたけれど、結局天使のものとも鳥のものとも知れない羽毛を拾っただけで、手がかりもろくになく夜になってしまった。どうすることも出来ないのだ、今は。
 そこまで頭が理解しても、じりじりとした気持ちは消えない。わだかまる心を吐き出すように溜息をついたマキシを、落ち着いたと判断したのか、傍らに腰を下ろしていたミロクはマキシの手を放す。人肌の温度が離れれば、掌は夜気の温度を拾ってやけに冷たい。
「……眠れないでも、まだ横になっていると良い。どうせ今日も歩き回るつもりだろう?」
 言葉尻は疑問の形だったが、ミロクの声には確信の響きがある。どうやらマキシの考え方は大体把握されてしまっているらしい。
 たった数日前に出会ったばっかりなんだけどな、そう思ってからマキシはふと気付く。そういえば彼はいつからここにいるのだろう。
「ミロクは……見張り?ちゃんと寝たのか?」
 寝転がったまま、マキシはミロクの方へと少し顔を傾けて問う。少しの間答応えはなくて、まさか聞こえなかったのだろうかとマキシが視線を上げるより先に、マキシのそれより大きな掌が降りてきて、頭をかき回す。
 多分、誤魔化されてる。
「……寝てないの?」
 確認すると、髪をかき回していた手がゆっくり止まる。じんわりと指の温度が伝わってきた。
「……平気だよ、一日くらい」
「平気でも休んどけよ。何なら見張り替わろうか?」
「それは駄目だ」
「何で」
「私がこうしていたいから」
 ミロクの答えに、何かそこにいて楽しいことでもあるのだろうかとマキシは考える。少なくともマキシにはこれといったことは思いつかない。
「……ミロクって変わってる?」
「どうだろうね。だが好いた者の傍に居たいと思うのは自然なことだろう?」
 好いた。マキシは口の中で繰り返す。それは、そうだ。変なことでも何でもない。
 けれどマキシは、未だに彼等がゼロニクスではなく自分を選んでくれたことが不思議でならない。自分を卑下するわけではないが、ゼロニクスは良き兄弟子で、出来た神だった。聞けば残りの羅震鬼の大半は、ゼロニクスに従っているという。何故ゼロニクスには従わなかった四人がマキシに力を貸してくれたのか――傍らの彼は、問えば教えてくれるのだろうか。

拍手




 眠りを妨げないように、出来るだけそっと、注意深く、ゼロニクスは金色の頭を撫でた。倒木に腰掛ける彼の胸(そう、肩ではなく胸だ)には、金色の髪に黒く仰々しい角を生やした子供が頭を預けて眠っている。
 見下ろすゼロニクスの視線の先で寝息を立てる姿はいかにも穏やかだが、ただの子供と侮るなかれ、この子供の正体はゼロニクスと同じく、近ごろ生まれた神であった。しかもただの神ではない。古の時代に生まれていたならばおそらく破壊神の傍にあって一柱となったであろう、闘いの性を持つ神だ。その証拠に、孤独に生まれ落ちたこの子供は、住まうのは獣だけという山奥で、力余って乱暴な振る舞いをしては、猛獣のように辺りを荒らしていた。この倒木も、先ほどこの子供が倒した物だ。
 その行いといえば、ついには近くに住む者達に恐れられて、討伐の嘆願まで出ていたほどだが、おそらく子供に悪意はないのだ――と思う。
 神力を押さえ込んで近づいたゼロニクスに気付いた瞬間の子供の顔――涙を拭った顔に浮かんでいた驚きや気まずさや警戒と、そして喜色は、決して嘘ではないはずだ。
 涙の訳を問うたゼロニクスに、子供は、困り切って、ここには獣しか居ないから、と答えた。寂しいという言葉も知らない子供に悪意はなかったと、ゼロニクスは信じたい。
 泣き疲れて話し疲れた彼が目覚めたら、ゼロニクスはここを発とうと思う。もちろん、この子供を連れて。この子には多分、手を握ってくれたり、話しかけてくれたりする相手が必要だ。
 師であるアフラノールはまた、ゼロニクスの顔を見て、困った奴だ、と言うだろうが、きっと面倒を見てくれるだろう。未だゼロニクスが分別も付かない頃には、よく動物を拾ってきては困った顔をされたものだった。それでも師はゼロニクスと一緒になってそれらの面倒を見てくれたのだが、その度に師はゼロニクスに言った。

 お前が孤独な者を放っておけないのは解る。彼等に対して尽力するのも、お前の生まれ持っての性と神格がさせるものだろう。だがゼロニクス、お前が手を差し延べた者は、いつか誰かとの繋がりを作って、お前の手から離れていくぞ。だからといって救える者まで見放す必要はないが、手を離れる瞬間を見守れる覚悟は持っておけ。

 多分この子供も、こうして手を取ったゼロニクスの手を放して、他の誰かに手を差し延べる日が来るのだろう。
 そんな嬉しいような寂しいような日が来ることを、ゼロニクスはこうして手を差し延べる日から考えてしまっている。

拍手




2009/05/22

「貴方がサイアスに剣を教えていると聞きました」
「お聞きになりましたか。いやはや、年寄りの冷や水でございます」
「老いてもなお教えを請いにくる人がいるだなんて、素晴らしいじゃないですか。それに剣聖の手ほどきです、シェイドも喜んでいるのでは?」
「さて、頼むとは言われましたが、間諜時代のことは喋るなと厳重に釘を刺されてしまいました」
「素直じゃない人ですね。でも、そのことはサイアスも知っているでしょう。今更何故?」
「間諜として潜り込んだことではなく、その間にしでかしたあれやこれやのことかと」
「ああ……あれやこれや、ですか……それはともかく、どうです、弟子に見込みはありそうですか」
「好きこそ物の上手なれと申しますな」
「それは良かった。でも出来れば剣だけでなく、紅茶の淹れ方も教えてあげてください。僕、シープの淹れた紅茶好きなんです。彼も覚えたら、きっと役に立ちますから」

拍手



 Fiends

 遙か昔にこの地で朽ちるはずだったという男は、まるで幽鬼のような姿で眼前に立っている。

 しゃきん、まるでふざけているような軽い音が、アクベンスの握る鋏の先で鳴る。半ば仰け反るようにして半歩退いた男を、更に左の鋏が追った。凶悪な金属の顎が閉じられる、寸前に男は背後へ跳んで逃げる。
 水飛沫を上げて着地し、片膝をついた男は、次の瞬間には既にその手に雷の矢をつがえている。
 矢の間合いには短く、一気に踏み込み刃を突きつけるには些か長すぎる距離をおいてにらみ合う両者の間に、逃げ遅れて断ち切られた青い髪が数本舞って、水面へと落ちていった。
 男の手の中で、雷は矢の形を取ったまま弾けるような音を立てている。特別な鋼で出来た弓を握る腕は、狙いを定めたまま――そう、眼前のアクベンスへと定めたまま微動だにしない。
 だが不用意に動けないのはアクベンスとて同じだ。あの雷光の矢は一つ受けただけでしばらくの間身動きできなくなる。だが、一矢撃たせてしまえば、次をつがえる前に、相手は踏み込んだアクベンスの殺傷圏にはいる。そのためにはなんとしてでも一撃を避けなければならない。アクベンスは眼前の男に集中する。
 日に焼けた風の肌は、青白い雷光が映りこんで褪めた色に染まっている。不穏な風に煽られる布地の多い装束は、今では書物の中にしか見られない酷く古風なものだ。現実味のない光景の中、表情を消した男の顔の中で、唯一瞋恚を宿した瞳は雷光を映し、この世の者ではないかのように爛々と光る。
 ――幽鬼のようだ。
 そう、既に「ないもの」として扱われていた遙か古の亡霊が、アクベンスの前に立っている。
「……髪の次は右腕がいいか左腕がいいか、それとも首から落としてやろうか」
 何かしらの動きを誘うべく問うたアクベンスに、だが思惑に反して男は不快がる様子も見せず、逆にアクベンスを挑発するように口角を吊り上げた。
「……は、既に亡い皇帝の命に従うだけの亡霊が、随分大した口を利くではないかね」

拍手



prev  home  next
ブログ内検索

忍者ブログ [PR]
  (design by 夜井)