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2024/09/24

 鎧付きの肘鉄をまともに食らった海賊の一人が、甲板を吹っ飛ばされた先で動かなくなる。それを確認する間もなく、マーコットは最後の一人へと――キャプテンハットを被っているからにはこの船の長なのだろう、つまり海賊の首領だ――短槍の穂先を向けた。
 向けられた方はと言えば、日に焼けた顔の左目を眼帯で覆った男は、鼻筋に大儀そうに皺を寄せ吐き捨てる。
「……誰だァ、こんな巫山戯た野郎を船に入れた奴ァ」
「君らが来いって言ったんじゃない。ご挨拶だなぁ」
 笑って応じるマーコットの構えた槍の穂先は微動だにせず、男もだらりと右手に剣を提げたままだが、赤毛の下から覗く右目には隙がない。はん、と男は皮肉気に鼻を鳴らした。
「俺等がお呼びしたなァお姫さんだぜ? それが蓋を開けて見りゃあ、キレイなツラしてるが男とはよ」
「君らだって本人が来るなんて思ってなかったでしょ? 影武者が男だったからって、そんなにがっかりしなくたっていいんじゃない」
 首を傾げてみせるマーコットの纏う装甲は、日頃彼が身につけている物ではない。通常の物よりも幾分丸みを帯びたフォルム、表面に施された紋様、細身に作られたガントレット――平均よりは大柄に作られているが、一目見て女物と解る品だ。
 ご丁寧に鎧の下に纏った、上品な色合いのサルビアブルーのドレスが強い海風に揺れる。僅かに――船の揺れと勘違いするほど僅かに、マーコットの肩の位置が下がる。呼応するように、対峙した男の腕が上がる――否、上がりかけた。
「カラブローネ!」
 唐突に上がった少女の声に、男があからさまに舌打ちした。互いに相手から視線を逸らさないまま、マーコットの視界の端、船室の上にぴょこりと海鳥の羽と、続いて少女の頭が覗く。
 日に焼けた黒髪と浅黒い肌は、内陸の騎馬の民だという青年を思い起こさせたが、少女の顔立ちはどことなく彼とは違う印象を受ける。風に散らされて乱れた黒髪の下、焦げ茶色の眼が瞬間的に不安と驚きに揺れた。甲板を巡った視線は一拍おいて赤毛の男と、そしてマーコットを中心に捉える。
 ――瞬間、少女の眼の色が変わった。それまで宿っていたはずの感情の機微が消え失せて、表情にだけ最前の驚きの色を残したまま、少女の唇が何事かを紡ぐ。
(――あ、)
 刹那、ぞわりと背筋を駆け上がったそれは、本能から来る警告だ。
 まずい。これは。
 これは、自分では手に負えない、得体の知れないものだ。
 少女の腕が水平に横へ延びる。その指先に陽炎のような揺らめきが収束し、何某かの形を取ろうとする。だが、
「止せコキネリ」
 ぴしりと甲板を打った声に弾かれたように少女の肩が震え、唐突に陽炎が霧散する。
 なんで、とでも言いたげな様子の少女には左手を振って拒否し、男はゆっくりと剣先を上げた。何処か苦々しげな色を滲ませながらも、今度こそは真っ向からマーコットの視線を受け止めて不貞不貞しく口端を上げる。
「こういうのはお互い一人っきりになってからが楽しいんじゃねぇか。――邪魔すんな」

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「まだつけてんのか、それ」
「うん。この前ね、紐付け替えたんだよ」
「……いっとくがな」
「うん?」
「その石は別に俺が採ってきたわけでも、俺が作ってやったわけでもねぇ。ただの盗品だぞ」
「でも、カラブローネがコキネリにくれたのだよ」
「…………」
「この紐ね、この前樹海で盗ってきた革で作ったの。前のより丈夫だよ!」
「お前な……くっそ、船が戻ったら!」
「うん?」
「そしたら、もっと良いもん盗ってきてやる」
「首飾り?」
「首飾りでも指輪でも何でも構わねぇよ。……そんなもん大事につけてたら、曰く付きの品だって周りに言いふらしてるようなもんじゃねぇか」

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2011/02/14

 かの西北に栄えた国の興りは、馬術に長けた一つの民族であった。
 鮮やかな操馬のみならず、彼等の育てた馬は例外なく頑健であり、一日に数百里を駆けたと言われる。
 疾風の如く駆け、雷の如く矢を射た彼等はやがて周辺民族を率い、一つの国を興す。そうして初めてひとところに留まる生活をはじめた彼等を悩ませたのが、侵略者であった。
 そもそもが遊牧民であった彼等は、新たな土地を奪うことには長けたが、守ることに対してはいかにも脆弱である。彼等が土地を守りきり、生き延びることが出来たのは、当時乱立していた周辺諸国家の興亡に戦を求めて集まった傭兵を雇い入れることが出来たからであろう。
 砦に於ける戦を知る彼等の活躍はめざましく、かの国には珍しくも、そのようにして名を上げた異国人の逸話が散在する。
 何故かの国は、各国を放浪する彼等流浪の兵を繋ぎ止める事が出来たのか?
 かの国の軍資金を賄ったのは、興国後数年のうちに幸運にして手に入れた、東部の山岳地帯に眠る鉱床であった。
 今となっては伝説が残るばかりだが、鉱物、特に貴石の類を多く算出した鉱脈は、現在でも神の富の根の名で呼ばれる。
 今となっては見ることも少ない稀少な宝石の一部も、かの鉱脈から掘り出されたという噂であるが、真偽の程は解らない。何故なら、その鉱脈の主たる遊牧民の裔達は、決して鉱脈の場所を明らかにはしなかったからだ。知ろうと後をつけた商人が一人も戻らなかった、旅路の途中に迷った若者が穴蔵の奥に下りる男達を見てしまい命からがら逃げてきた、そんな御伽噺は、形を変えて各地に伝わっている。
 ともかく、その後も多くの国家の危機に際し、強力な財源となりその苦難を救った鉱脈に感謝と加護を願う意で、かの国では、祝い事には貴石を送る習慣が生まれた。
 特に誕生と同時に装身具に仕立てた貴石を「生まれ石」として贈る風習は当時でも一般的だったらしく、現在でも様々なグレードのものがアンティークとして出回っている。
 庶民層では貴石は親から子へと引き継がれることが大半だったが、当時の王朝は王子・王女毎に貴石を贈った。その大部分は彼等が生涯を終えると共に回収され、廟に祀られたという。故に彼等のみを飾ったとされる生まれ石を見ることは難しい。特に彼等のうち、大罪を犯した者、国を追われた者に関しては、その執行前に、王族の証したる石を砕かれた、或いはひびを入れられたとされる。かの国ではかように本人と生まれ石の関連性を重んじたらしく、罪あるとされた者の生まれ石を槌で叩き、罅が入れば有罪、入らなければ無罪としたという記述も残っている。
 それが故に無傷の石が国外に流出することは稀で、大抵の場合は傷が入るか、装飾部の欠損が認められる場合が多いのだが、ここに展示してある一対の耳飾りは、滅んだかの国の王家の紋章があしらわれた品の中でも、石にも装飾にも殆ど傷が見られず、特に保存状態がよいものである。

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2010/12/12
 擬態

「俺達の基準は、そういうのとは、少し違いますよ」
 ふと、寡黙な部類に入るシノビは装束を繕う手を止めた。
「例えば、腕なら細い方がいい。背はなるたけ低い方がいいし、肩幅は狭い方がいい。体は痩せていて、顔なら幼い方がいい。――その方が無力に見えますから」
 それに、と言って、同じ年頃の少年よりも随分小柄で、腕も足も細い、痩せ気味の少年は首を傾げる。
「貴女の価値は、戦うことではないように思いますが」

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2010/12/07

 神父様、私は、人格神など信じてはおりません。
 かの方が救いをくれるなどとは思っておりません。
 見守ってくださるというその眼を、畏れたこともありません。

 ですから罪を犯すことは怖くありません。
 主の裁きなど信じてはおりません。
 貴方を失った嘆きを誰かにぶつけることに、躊躇いなど無いのです。



 ……ただ、星が、

 貴方の消えた空で、それでもエーテルを纏って星々が瞬くので

(正しき行いを示してくださったのは貴方です。)
(己を律する心を教えてくださったのは貴方です。)
(人を慈しむ心を与えてくれたのは、貴方です。)

(私の父は主ではなく、貴方でした。)



 私はただ、貴方を悲しませたくなくて、

 ただ、それだけで。

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 SQ3、花屋さんの保護者二人、捕り物騒動の後日談。
 悪因悪果の続き。

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 手の中には、ひんやりとした冷たい感触。左手の中の果実が回る度に、右手の刃物はしゃりしゃりとリンゴの皮を削いでゆく。滑らかに、とは言えないがそれでも充分すぎるほど順調にシンクの中に垂れていく皮を、物珍しげに注視する視線があることにも、もうだいぶ慣れた。
 紅い果実の半ばほどまでを剥いたところで、重みに耐えきれなかったのか、ぷつりと皮が切れて落ちる。作業の節目を待っていたのだろうか、そこでようやく視線の主が声を上げた。
「そういうことは、どこで習った?」
「どこで、ってわけじゃないさ」
 まるで特別な技能について問うような調子に僅かに苦笑して、ランビリスはリンゴを剥く手を止める。シンクに細く長く落ちた皮は、見慣れなければ曲芸のようにでも映るのだろうか、と思いながら、言葉を続けた。
「大抵は母親がやってるのを見て習って、家で覚える。……料理は女の仕事にされることが多いけど、うちは食い物作って売る仕事だったし、兄弟全員男だったしで、こういうのは手伝いついでに習ったな」
 子供の頃は、母親の滑らかにリンゴを剥く手つきがまるで魔法のようで、剥かれたリンゴよりはそちらの方がよほど子供心に魅力的だった。
「綺麗に剥けるのが羨ましくてな。一時期、2週間くらいか。皮むきの練習でリンゴばっかり喰ってた。……なんだ?」
「お前は凝るのが好きだと思って」
「凝ったわけじゃ……上手くいかないのが悔しかったんだよ。やってみるか?案外難しいんだぞ」
「ああ。教えてくれ」
「……え?」



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 SQ3、花屋さんの保護者二人、捕り物騒動の後日談。

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 後の流れを考えて、ちょっとだけ加筆……

 来週に備えて経緯を語るよ第3弾です。
 キャラボのデータが吹っ飛ぶ前花屋さんが新種の花を持ち帰る少し前のこと。
 あとでちゃんと時系列順に並べた表作りますね……




「そういや、聞いたか? 最近あった強盗事件」
「強盗……ああ、あの不気味な事件ですか。被害者が犯人の特徴を全然覚えてないっていう」
「そう。犯人だけじゃなく朝からの記憶がまるまる抜けてるとかいう話で、財布どころか記憶まで盗られる、とか言われてるらしいな。唯一直前のことまで覚えてたらしいヤツが、甘い香りがした、とかいう証言して、余計犯人像がぶれてるみたいだ」
「去年もこの時期にそんな事件がありましたね。ハロウィン前なんで、オバケの仕業じゃないのか…なんて噂もありますが…」
「明らかに人為的だけど、薬物絡みではなさそうだ。アンタも配達中には後ろに気を配りながら歩いた方がいいし、遅くなりそうなら諦めて切り上げる決断も必要だろうよ」
「はは、ご婦人でもあるまいし、俺から盗るものなんて無いですよ? でも物騒なことには変わりないですね、気をつけます。――出来ました。これでよろしいですか?」
「ああ、文句ない出来だよ、伝えたイメージにぴったりだ」
「なら良かった。はい、また来てくださいね」

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 由来はSQ3ですが、1.5通り越して既に1じゃ(ry
 来週に備えて経緯を語るよ第2弾です。
 と言っても時系列を明らかにしていない今の状況ではさっぱりわけのわからない話ですので、とりあえず某案内人氏の親御様へ捧ぐ。

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