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2024/09/23

「私は殺してやりたいって思ったことがあるもの。ドラゴンじゃない、人をよ」
傲岸に宣言すれば、男はやはり眉を顰めた。
「誇ることか?」
「ええ」
強い視線が交わる。
「人を殺したいと思ったことがない、そう思えるまで人に関わろうとしない貴方よりは、ずっと誇らしいと、私は思うわ」

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2014/07/15

 パン、と遠くで高らかな破裂音がして、まだ紺色の空に橙色の炎の花が咲く。
 大きく開いた細い炎の花弁は、次いでバラバラという音と共に先端から白い光を散らした。
「きれいだね!」 
 屈託無く言う市房の声に、清澄はうん、と同じように、明かりのない首都高からビルに遮られた空を見上げた。
 東京からドラゴンが消えた今でも、未だ駆逐しきれないマモノのために、一般市民の都庁からの出入りは制限されている。しかし、戒厳令が解除された今、複数行動が義務づけられてはいるものの、己の身を守れるムラクモ実働班所属者は、任務時間外の外部での自由行動が認められていた。あの戦いの前線に加わった者達の、ごくささやかな特権である。
「双眼鏡とかあれば良かったなぁ。無い?」
 セダンのボンネットに身を乗り出すようにして、首都高から空を眺めていた市房が振り返るが、清澄は苦笑して首を振った。住民達のささやかな「家にある物を持ち出したい」という要望に応えて、半ばボランティアで行った回収活動は、結局こんな時間までかかってしまった。非常事態だったとはいえ、何の訓練も受けていない清澄と市房に操車の許可は下りなかった。いずれは訓練を受けることになるのかも知れないが、ともかく今は回収品を詰めたダンボール箱を満載した自転車を押しての道行きだ。
「私は詰めた覚えがないよ。千秋は?」
「あたしもない。じゃ、無いかぁ」
 埃だらけのセダンから離れて、身軽な足取りで高架の縁へと向かう市房の後を、ゆっくりと自転車を引いて清澄は歩く。
「と思う。でも、双眼鏡使うより、全体を見た方が綺麗だと思うな」
「……ミコちゃんは花火、下から見たことある?」
 問われて、清澄は少しだけ瞬く。
「……ない。いつも少し離れたところから、こうやって」
 パァン。破裂音と共に、また空に炎の花が咲いた。彼岸花か枝垂れ桜を思わせるようにゆるやかに空へと落ちる光の花には、きっと何某かの思いが込められているのだろう。
「じゃあ、次はもっと近くで見よう。キレイだよ、迫力があってさ。小さい光の粒まで全部見えるから。……急いだら間に合うかな?」
「ちょっと難しいかな」
 いくらムラクモ隊員の運動能力が高く、身体そのものも頑丈に出来ているとは言っても、回収品まではそうはいかない。何かのミスで転倒させたりしては、今日の仕事の意味がない。
「じゃあ来年! か、どこかで花火回収してこよう!打ち上げ花火!」
 くるりと踊るように体ごと振り向いた市房の後ろで、また光の花が咲く。
 薄い逆光の所為で、輪郭だけを捉えることが出来た表情は楽しげに笑っていて、清澄もつられたように微笑んだ。市房の眼なら、多分これは視認できただろう。
 うん、と頷いた清澄に、市房は嬉しげに声を上げて笑うと、スキップのような足取りで自転車の後ろに回り込む。振り返るより先に、くん、と引いていた重みが軽くなるのを感じて清澄もハンドルを握る手に力を込めた。
「帰ろう。間に合わなくても、もっと近くで見れるよ」

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 ――四ッ谷のドラゴンは、音を操るの。
 ――私達には聞こえない音を使って、遺体の神経に働きかけるんだって。

 ねえミコちゃん。それでもあたし、見たよ。
 何もないところに立ってる人も、向こう側が透けてる人も、青い火が燃えてるのだって見た。あたしは詳しいことはわかんないけど、そういうのって、音じゃ説明できないよ。
 渋谷も、四ッ谷も、国分寺も、あんな風になっちゃったのって、誰かちゃんと説明できるの? ねえミコちゃん、ごめんね、あたし、見えない不思議なものって、あると思うよ。

 守屋さんがベッドに入ったのを確認して、あたしはそうっと起き上がる。ミコちゃんのベッドから寝息が聞こえてるのに安心して、部屋を抜け出した。真夜中の廊下は流石に誰も居ない。明かりも消えて、窓の外も暗くて、いつもだったら少し怖かったかも知れないけど、今日は平気。
 こんな時間だからきっと誰も起きてないけど、見つかっちゃいけないから、出来るだけ速く、静かに、まんがの忍者みたいに廊下を駆け抜けた。身体は軽い。足音だってほとんど立たない。ちゃぽちゃぽとベルトにぶら下げたペットボトルのポカリスエットが鳴った。

 フロワロの咲く場所は、いつの間にか人の場所じゃなくなってた。
 今でも逆サ都庁を見たときの気持ちを覚えてる。あんなの、人の業じゃない。この世界の業じゃない。
 どこもかしこもフロワロだらけで怖かった。そのうちあちこち全部、私達の住めない場所になるんじゃないかって怖かった。

 でもね、気付いたんだ。

 ドラゴンは異界を作る。
 四ッ谷のドラゴンは死体を操ったけど、あそこにあったのは、それだけじゃなかった。
 幽霊が居る、とは言わないよ。居ても多分、この世界には居ないと思う。あたしのお母さんはもうこの世界には居ない。お母さんは向こうの世界にいて、そこで笑ってくれてたらいいなと思う。会えたらいいなと思うけど、そのためにはこの世界から離れなきゃならなくて、あたしはもっとちゃんと生きてからじゃないと、お母さんに会っちゃいけないんだと思う。
 でも、もし。
 もし、この世界と向こうの世界が繋がったら。
 夢みたいな話だってわかってる。
 でも、その夢みたいな話、今起きてるんだよ。
 四ッ谷で何が起こってたのかはよく解らない。でもあそこには、向こうの世界の人が居た。

 ぱたぱたと階段を下りる。エレベーターは誰かが入ってきたときに隠れる場所がないからダメ。
 一段下りる度にウェストポーチが跳ねて、あたしの気分もぴょこぴょこ跳ねる。
 エントランスの明かりも落ちてて、フロントにも誰も居ない。もしかしたら散歩してる人が居るかも知れないから、耳を澄ましたけど、特に足音はしなかった。
 潜入スパイみたいに壁伝いにそろそろ進んで、もうドアは目の前。硝子張りのドアの向こうを見据えて、最後に誰にも見つかってないかどうか確かめようと辺りを見回して――あたしは飛び上がった。
 エントランス前のベンチにちょこんと腰掛けた薄緑色のコート。飛び上がったときに音でもしたのか、ゆるりと上げられた視線と目があう。あってしまった。見つかった。
 どうしよう。どうしよう。
 きっと、外に出るなんて許してもらえない。でも、でも……
 困って悩んで、立ち竦んでいる間も、ベンチに座った人は不思議そうに身体を傾がせたまま黙ってこっちを見ている。
 その様子には最初予想した不審そうな様子も、見張りでもしているような様子もなくて、何となく、咎められることはないような気がした。
 きょろきょろ辺りを見回したけど、周りには誰も居ない。
 ちょっとどきどきしたけれど、あたしは意を決してその人に近付く。
 白っぽい髪にちょっとだけ入った赤いメッシュの目立つ人だった。女の人かな、男の人かな。どっちだかよくわからない。
 こんな時間にこんな所にいるのに、全然怒られる気配が無くて、あたしは安心して、人差し指を唇の前に立てた。細かい言い訳をするよりも、シンプルな方がいい。
「内緒ね!」
 囁くように、それでもしっかり言うと、その人はゆっくり瞬いてから、同じように口の前に人差し指を立てる。黙っていてくれるみたい。話のわかる人で良かった。
 嬉しくなってちょっと笑って、ありがとう、と囁いた。あんまり大きな声は出せないから、小さい声で。
 弾みそうになる足を宥めて、静かにエントランスのドアに近付く。あたしのことを関知したセンサが、すうっとガラスのドアを開けてくれた。目の前には夜の闇が広がるけれど、こんな物は今のワクワクした気分にはぜんぜん叶わない。手に入れた地図を広げる。かさりと音を立てたそれにつけられた赤い印と線をよく確認して、あたしは振り返る。
「――行ってきます!」

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 ひたり、と温い感触が閉じた瞼の上に触れて、驚くな、という方が無理だっただろう。
 慌てて開いた瞳が映したのは当然ながら病室の真新しく白い天井ではなく、光を遮った狭い闇だ。どういう風の吹き回しだと挙げかけた声は、疲れたよね、という感情の読めない囁きに遮られた。
「休んだ方がいいよ。……船さん来た?心配してたよ、多分」
 瞼ごと視界を覆った掌の温度は、燧の体温よりも低く、室温よりは高い。同じように熱くも冷たくもない声はこの一月で随分聞き慣れたはずなのに、どんな感情が宿っているのか、燧には量れなかった。疎んじていたはずの視界に己がどれだけ頼っていたか思い知らされて、乾いた笑いがこみ上げてくるのは、口の端をほんの少し上げただけでやり過ごした。
「どうかした?」
「お前、こういうのは彼氏とかにしろよ」
「……友達にだってするよ」
 声は平然と変わらず、それでも少しの効果はあったらしく、僅かに身じろぐ気配がする。それでも置かれた手は相変わらずで、燧は密かに息を吐いた。
「……別に、気ィ遣わなくていい」
「そうだね。落ち着かないよね。アイマスクか何か持ってこようか。……そうしたら、俯せで寝なくても済む?」

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「タワーで聞いた声、覚えてる?」
 切り損ねの白が目立つ爪が、つうと透明なプラスチック板の表面を撫でた。伝導率の変化を察知したセンサが反応し、透明なアクリル板内部に埋め込まれた細い線状の発光体が虹色に光ると、ごく静かな音でモニタが立ち上がった。かつて実家にあった旧式のPCとは段違いの静けさだ。
「種を、撒いて。何度も、何度も、刈り取りに来た、って」
 楽器の演奏でもするような、複雑かつ規則性のある動きで貫の指がボードを撫でてゆく。液晶の中で次々に立ち上がるソフト。肩越しに振り返った視線を受け止めて、そのまま久能は見返す。
 瞬き一つの間をおいて、そ、と口の中での短い返事と共に、貫の視線がモニタへと戻る。まるで気のない風情に見えるが、こんな態度にはもう慣れた。そう、慣れてしまった。
 キーボードを撫でて、立ち上がったソフトから貫が一つのファイルを呼び出す。右カラムにいくつかのショートカットが配置された白い画面に浮かび上がる、幾つもの薄灰色の帯。読み込みと共にその一部が赤く染め抜かれていく。見覚えのない、おそらくは専門用語なのだろうアルファベットの凡例から、かろうじて、DNA、種間保存、共通配列、といった意味の横文字を読み取った。
「俺達何番目だったのかな」
 余人への説明の一切を放棄して、ぽつりと投げられた言葉に、久能は僅かに眼を細めた。
「お前はあれを信じるのか」
 かく、とモニタの薄明かりの前で、茶色の頭が僅かに傾ぐ。返ったのは、わかんない、という妙に幼げな調子の応えだった。

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2011/12/31

 ななぞぞのうちの子若人組で、お付き合いのある班の先輩達について語る。
 オチとかは特にない。

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 ぽろりぽろりと欠け落ちるそれは、多分本部のナビにだって見えている。
 ただ奴等が見るのはセンサを通して見たレーダー上に散らばる光点で、俺が見ているのは生の場面だ。
 焦げて炭化した皮膚の下から覗く生々しい赤。沸騰した血から立ち上る湯気。水晶体が白濁した目玉。こんな物を見ても竦まないで立ち向かえるのは、奴等が気違いなのか、それともはなから見えていないのか。
 俺だって顔を覆って足下しか見ないで突っ立っていられるのならそうしていた。だけどどうしようもないだろう、デカブツの牙に頭ごと食い千切られないためには、どうしたってこの眼は要る。
 眼をこらす。気を抜けばこの視界のあちこちにある、黒く炭化して縮んだそれになるだけだ。敵を睨む。飛竜の薄い翅が高速で羽ばたく。ぬるりと光を跳ね返す鱗が波うつのは凍れる吐息が吐き出される前兆だ。
 ひゅうと吐き出されたブレスの中で凍えた水蒸気が細かな白い氷に変わる。白く濁った吐息の向こうで煌めいたのは、溶け落ちた盾を貫通した光。その陰に残った「部品」が断末魔のように痙攣した。


「燧!」
 飛んだ声に打たれたように、硬直していた肩がぴくりと震えた。馬鹿野郎言われてから動いて間に合うなら誰も死にゃしねえ。
 半ばタックルのようにしてひょろい体躯を突き飛ばして、自分もブレスの範囲外に逃れる。コート越しでも背筋の冷える空気が伝わってきたが、致命的なダメージじゃない。ちらりと視線を遣った清澄も無事だ、あいつは目の前の敵を見てる、大丈夫だ。問題は。
「馬鹿タレが」
 よろりと起き上がった青緑のフードに語りかける。
「うっせ……むしろアンタに殺されるわオッサン。落とす気か」
「これくらいで落ちるなァグズだけだ。いいか、燧、」
 切って捨てた言葉に反発して睨んできた眼を、肩越しに見返す。眼が合う。まったく素直な反応だよ、騙されんなよお前。
「余所見すんな。余計なことは閉め出せ、今は」
 飛竜が体をくねらせた。咄嗟に反応して刀で牙を逸らした清澄がよろめき、船形はガラ空きになった横っ腹に銃弾を撃ち込む。飛竜の断末魔。
 こうやって手の届く範囲にだけ手を出しゃいいんだ、余計なことまで見てるな。こいつにはそれが難しいのは解ってるが、
「目の前にだけ集中しろ。俺が援護する」

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「この二人だ。清澄美言、燧創介」
「……学生じゃねぇか」
「そうも言っていられないんだろう」
「ガキなんか使って、ほんとにバケモン相手に戦争できると思ってんのか、上は」
「出来る出来ない、ではないな。出来るようにしろと言っているんだ、俺達に」
「はん。さすがは日暈棗総長様で。――おいおいこんなヤバいのまで混じってるってな、何事だよ」
「こいつ等は別班だ、気にするな」
「見たトコそっちにも随分若いのが居るみたいだけどなァ……こいつら未成年だろ。親はどうしてる」
「……連絡は取れていない」
「じゃあダメだろ。俺は受けない。法律上保護者の同意の得られない場合は、」
「彼らは選考試験に参加した。その時点でムラクモ機関員として働く意思があると見なされる」
「……おい玄岳。お前、」
「いずれにしろ誰かがやらねばならん。しかも、この際やる気がどうのとは言ってられん。選ぶのはやる気がある奴じゃない。死ぬ確率が少しでも低い人材を選ばなければならない。……それくらいは判るだろう、船形」
「少ないっつったって死ぬときは死ぬ。おまけに経験不足のガキだ、ミスって自滅するかもしれないぜ」
「そうならないようお前に頼むんだ」
「……俺がまともに指導するとでも思ってんのか」
「お前なら見捨てはしないと信頼している」

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2011/12/03

 それは耳を塞げないのに似ている。意識がなければ気付かないし、少し近付いたくらいの音量ならば聞き流せる。それでも瞳のように閉じることは出来ないし、突然大きな音がすればそちらに意識が向く。だからそう、例えば、
「磯砂さん」
こつ、と軽く額がぶつかった。 瞬間的に脳裏にぱっと弾ける鮮やかな色があって、瞬いた視界の中、無言で彼は小さく笑い、踵を返す。

『行ってくる。待ってて。お帰りって言って。』

  一瞬の接触で流れ込んでくる言葉は、いつだって鮮やかに聞き逃すことを許さない。

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2011/11/28

その指が怖い。温度が、感触が、そこに巡る意思が怖い。触れあった皮膚を通して、言葉よりも明確に伝わるそれは、間違っても甘やかなどと形容出来る柔さではなく、殴られたような錯覚さえ覚える強烈さで、

『好き愛してる触れたいこっちを向いて愛してる欲しい可愛い好きもっと愛してる好き好き好き』

 意思の奔流。止めてくれ、という言葉が喉に詰まって窒息しそうになる。
 自分のものでも精一杯なのに、加えて流し込まれる情動を処理しきれない脳が焼き切れそうだ。強すぎる負荷に自我などとうに融け落ちて、与えられた体感に掻き回された境界は曖昧になるばかり。
 己という薄い皮膜の中に閉じ込めていたはずのものが拡散して形を失い保てなくなる。混ざる。攪拌されてわからなくなる。今この脳の神経を辿っていったのは、一体誰の感情だろう。

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2011/11/28
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