忍者ブログ
小ネタ投下場所  if内容もあります。
 [PR]
 

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。




2024/09/23

 大丈夫?調子は?気遣わしげな声の理由が、怪我や声のことだけではないことは知っている。平気と肩を竦めて笑って見せて、それでも消えない瞳に宿った心配そうな色は、本当は向ける相手が違うのだけれど。
それより、と視線で扉のほうを指す。粗い木目の扉は古びてはいるが、閉めてしまえばそこそこ音は漏れないようにできている。
きょとんとそちらへ一瞬視線を向けた少女に向けて、両手を合わせて耳の横へ、そのまま首を傾ける。眠るジェスチャー。
苦笑を浮かべてもう一度扉を指差せば、それで悟ったのだろう。解った、と彼女は呆れと労いと安心とが交じり合った笑いを浮かべる。
「もうこんな時間だもん、起こしてくるね」
 鎧のない分いつもよりも軽やかな身のこなしで身を翻した彼女が、心配してやるべきなのは本当は彼だ。
 悪い夢を見ているのは自分ではない。
 見る必要なんてないんだと、言ってやることはもう出来ないけれど。

拍手

PR



 忘れられるわけがない。
 明らかな有機を感じさせる滑らかさの鱗に縁取られた口がぱかりと開く。赤黒くぬめる口内に、真っ赤に熱した火掻き棒のような色をした舌が踊る。見通せはしないはずの喉の奥まで紫色の血管が走っているのが見えたのは、その更に奥、腹へと続く落ち窪んだ場所に橙色の光が灯ったからだ。
 嫌というほど見た光。聖騎士の盾を焦がし、放たれた矢を鏃になるまで燃やし尽くしたそれは、ぽ、と喉に宿るなり、更に奥から吹き上げてきた炎で急速に大きさを増した。一秒にも満たない間に、膨らんでいた火蜥蜴の腹が蠕動する。
 それを覗き込んでいた。
 覗き込める位置に、居た

拍手




「……薬泉院は、冒険者がメインだけど、民間の患者も来てさ」
 薄紫色の瞳を眠たそうに瞬かせて、ぽつぽつと語られる言葉を、コーディは無言で聞いてやる。否、無言で聞いてやることしかできない、というのが正解だ。
 頷いて見せようにも、既に眠たそうに半分閉じられ、どことなく焦点の合っていない薄紫の瞳は、机の木目を滑るばかりでこちらに向けられてはいない。
 珍しくもくたりとテーブルに懐いている背中を認めて顔を覗き込んでみれば、既にこの有様だった。
 机の上に酒精の類はなく、置いてあるマグカップの中身も、見た限りはただの水だ。――ただの水だからこそ、見当がつく。睡眠薬だ。
 アスターも飲めないわけではないはずだが、夢見の悪そうな日は寝酒はしないと言っていたのを思い出す。
「でも、薬泉院は大体救急しか診る余裕はなくて他は他院に回すから、来るのは大怪我の冒険者か、……重症の民間人なわけ」
 その「大怪我の冒険者」になったことのある身として僅かに苦笑を零したが、アスターはそれに気付いた様子もなく、物憂げに瞳を伏せた。
「でもさ、そうやって運ばれてくる奴らって、大体、もう、助からないんだ。外から見たら何でもなくても、調べてみると、もういろいろガタガタになってる。特に、開いてみてからもうダメだって解った、なんてのもあってさ。……そういうのは最悪だ」
 睡魔の誘いに屈しかけてほとんど平坦になっていた声が、僅かに震えた。
「未だちゃんと生きてんのに、俺達には助けられない」
 テーブルの縁に掛かっていた指が、微かに木目を引っ掻く。かり、と爪が凹凸に引っかかる微かな音がなんだか痛々しくて、コーディは上からそっと手を添えた。それで何が変わるというわけではないけれど、それでも手の中の指からはやがて力が抜けていった。
「……向こうで医者目指してた頃もさー、こんなのあったな、って思って。そういうの、どうしても駄目で辞めちゃったんだけど」
 うん、と見えていないことを承知でコーディは頷く。一度はその道を諦めた彼が、もう一度医師としての道を選んだその理由には、コーディ自身が深く絡んでいる。
「……俺もいつか、こんなのに慣れんのかな…………」
 ぽつり、と呟いて、アスターはゆるりと瞬く。
「慣れても、慣れなくても、……メディック失格、って気がするけど」
 半ば自嘲気味な声。思わずそれは違うと言いかけて、――ひゅ、と喉の奥で息が鳴る。けれどそれだけだった。
 こんな時、声を失ったことが堪らなく悔しい。そんなことはないと、彼の自身を否定する言葉を、それは違うと言ってやりたいのに、伝える術がない。

拍手




「怪我は嫌いだ。
 するのはもちろん、見るのも嫌だ。
 触るのなんてまっぴら御免だ。……自分のも、人の傷も」


(自分の傷さえ治せないヤツが、人の傷なんて背負えるわけない)

(ましてやお前の傷があるところまで、踏み込む資格、なんて)

拍手




鳥「今日は風馬の17日です」
緑「は?」
鳥「17日です」
緑「……そうだな。で?」
鳥「古い暦では一月は約30日、換算すると今日は8番目の月の1日です」
緑「まどろっこしいなお前。だから何なんだよ」
鳥「君が興味ないことに対してはぞんざいな性格なの知ってるから、細かいことはすっ飛ばして言うけど、要するに君と僕とでメイク・ラブするのが筋の日らしいよ」
緑「…………」
鳥「えっそんなにショック?傷つくなぁ」
緑「そこしな作るな。つーか何で俺とお前で……あ。そゆこと?」
鳥「うん、まあそゆこと。男限定なんだって」
緑「別に押しつけたいわけじゃねーけど、もっと適役が居るんじゃねぇの。あいつとかあいつとか」
鳥「え、気付いてたの?」
緑「これでもギルドマスターですから!」
鳥「なーんだ、そっか。彼等が外された理由はね、純な子にお願いするのは偲びないとか無口なヤツはこういう形式に向かないとか、そういうことらしいよ」
緑「んなメタな……」
鳥「しょうがないじゃない、今の状態自体メタだし」
緑「じゃ、メタついでに聞くけど、何で俺等」
鳥「それはほら。好きすぎるキャラには遠慮が無くなる現象?良かったね愛されてるよ」
緑「句読点がないし棒読みだぞ」
鳥「地の文なしで感情表現するって難しいねぇ。……あとは、幼なじみの連帯感とか、中衛職萌えとか、補助職萌え、だって。……で、本題なんだけど」
緑「凄く聞きたくないけど聞かなきゃなんねぇんだろーなー……俺等は何すりゃいいわけよ」
鳥「…………」
緑「黙るなよ。何そんなに凄いことでも書いてあんのか」
鳥「いや。平凡に、キスしろだって」
緑「で、その他の指定は?」
鳥「やだなぁ、大丈夫何も変態じみたことは書かれてないよ。友情に誓って本当だって。ディープですらないよ、良かったね、僕は構わないけど」
緑「お前、なんでそう爆弾ばっかりかますんだよ。そういうキャラだっけ?」
鳥「そういうキャラでもありますが。だっていきなりディープとかフレンチとか驚くでしょ」
緑「いや男としてはやっぱ……何でもない」
鳥「わーすけべー。……さて、じゃあさっさとやっちゃおうか」
緑「そうだな。漫才にもそろそろ飽きてきたし」
鳥「えー?漫才って酷いなぁ。ていうかどうする?ただするだけなら唇くっつけて終わりだけど」
緑「……何かもっとそれっぽいものを期待されてるんだろ。見つめ合って口説いて眼ェ閉じて唇くっつけりゃいいか?」
鳥「いいんじゃないの。素直で情熱的で色っぽい口説き文句大歓迎」
緑「なあ、聞いて良いか」
鳥「何?」
緑「お前自棄なの?」
鳥「自棄だよ?――仮にも君とのファーストキスがこんなのなんて嫌じゃない」
緑「は、――っ!?」
鳥「――――……はい終了。バトンタッチ」
緑「待て。……俺からもやんのか」
鳥「その方がいいんじゃないのかなぁ。サービス的に」
緑「お前の後とかすっげやりにくいんですけど」
鳥「先手必勝って言うからしょうがないね。楽しみだなぁ君の口説き文句」

拍手




「私ね、ゼオが貴方みたいな人をギルドに入れたのが、不思議だったの。
 でも解ったわ。彼は見誤ったのね。貴方が求めてる物を」

「貴方が求めてるのは、迷宮じゃない。
 でも彼が求めているのと同じくらいの強さで、貴方も求めてるんでしょう?」


「死に場所を」


 その通りだった。
 詰るでも憐れむでもなく、淡々と事実を指摘する声音の魔女の言は限りなく正鵠を射ていて、反駁の余地がない。
――ただ、コーディは思う。少しだけ訂正するならば、欲しかったのは死に場所ではなく、死ぬまで過ごす場所だった。
 この呪いを紡ぐ喉を使い続ける限り、自分の命が長くはないだろう事は解っていた。勝手に呪いを紡ぐ己の喉も、削られてゆく命脈も、昔は酷く戦いたり足掻いたりしたこともあったような気がするが、随分前から恐ろしいとは思わなくなっていた。
 それは多分、受け容れてしまったから、なのだと思う。
 何かに抵抗するためにはエネルギーが要る。認めてやるものかと、反抗するだけのエネルギーが。何かに逆らおうというのだから、当然抵抗するというのは苦しい。だから、抵抗してやろうという意思を保ち続けるための気概もいる。
 コーディも多分、最初はそうだったのだ。けれどどうあっても動かない現状にいつの間にか疲弊して――大事なその二つを擦り切らせてしまった。そうして抵抗を止めてみれば、後は楽だった。
 ……死にたくなったわけではない。けれど、どうあっても人はそのうち死ぬのだ。コーディは己の業の所為で死に至る。それはもはや決まり切ったことで、あまりに当たり前すぎて、――だから諦めた。諦めればひどく簡単に笑えるようになったのは、皮肉だったかも知れない。
 だが、そんな諦観ばかりを抱えた精神にも少しの欲はあったらしい。都合のいい場所を探して選んだここが、予想以上に居心地が良く、――だから、もう少しだけ、まだ役に立てるから、そんな風にして引き際を誤った。
 否、誤っただけなら良かったのだ。
 たとえ彼等の目の前で自分が命を落とすことになっても、このギルドは進むのを止めないだろうし、コーディ自身は彼等の悲しみなんて見なくて済む。

 けれどコーディはどういうわけか、こうして生きている。
 否、理由は解っているのだ。
 巡らせた視線の先、ベッドサイドのテーブルの上には砕けた鈴が乗っている。――多分、あれが傷をいくらか吸ってくれたのだろう。敵が思ったよりも弱っていたのも良かった。それから、今ベッドサイドに俯いて座っている彼も、尽力してくれたのだろう。
 そうして生かされたのだ。死ぬ気はなかったが、生き続ける気もなかった自分が。

拍手




2010/06/20

「一つ忠告しようか。ハウスキーパーでもただの野次馬でもなく、ドクトルマグスとして忠告するわ。
 あなたは行かない方がいい」
「……んなわけにはいかないさ」
「そう。でもね、行けば、さよならすることになるよ」
「……誰と?」
「ここのみんなと」

拍手




 お前の、その盾は、鎧は、剣は、何のためにある。

 息吹を弾くためか。
 爪を受け止めるためか。
 敵を斬り払うためか。
 そうして仲間を庇うためか。

 (冗談じゃない)
 
 お前の盾は、鎧は、剣は、お前の命を守るためにあるんだ。

拍手




2010/05/31

「久し振り、って言った方が良いのかな?」
「前会ってから5年くらい経つか。確かに久し振り、だな。今更だけど」
「うん。流石に大人の5年と子供の5年は違うね。前会ったときからあんまり変わってないなあ」
「これ以上変わるっつったら老けるだけだろ。――そんなことより、何やってんだお前?」
「何って、今も昔も変わらず行脚の詩人業だよ。世界樹のお膝元、ラガード公国に話のネタを求めに来る吟遊詩人は、山ほど居ると思うけど」
「話のネタを、じゃなく話のネタになりに来たんじゃねぇの、お前」
「ええ? 酷いなぁ。ウケは良いんだよ?女声と地声で一人デュエット」
「お前がやると洒落にならねーよ」
「ある程度マジに見える方が面白いだろう? まあいいじゃない。おかげで早々に君に会えたし」
「……今不穏な言い回しが聞こえた気がする」
「そこ勘繰るかな。知らない土地に来たら知人を捜すのは当たり前だよ」
「はいはい。で、俺に会って何がしたかったんだよ。良心的な宿の紹介くらいなら出来るけど?」
「ん、ありがたいけど宿はもう取っちゃった。君に訊きたいことはまた別」
「へー?」
「ここの迷宮の登り方、教えてよ」
「大公宮行って話聞いてこい」
「そうじゃなくてさ。君のギルド、四階層も20階まで登ったんだって?魔性の声で鳴く鳥が居るって」
「っ――どっから聴いたそれ。昨日の話だぞ?」
「詩人の耳は何でも聴くのさ。誰かの鼓動、愛の囁き、勿論風の噂だってね。――四階層のその先。どんなものが在るのか、君だって薄々感づいてるんじゃないの」
「……登ってみなきゃ解らない、ってのが建前。何にもねぇかも知れないんだし」
「そう。それもそうか。……話を戻すよ。僕はね、ハルュピュイアの声が聴きたい。それも、出来るだけ早く」
「――うちはダメだ。バードは間に合ってる」
「そうは言わずに。喉だけかってよ。なんなら前衛に出たって良いよ」
「そういう問題じゃねぇの」
「バード一人でこれからの作戦全部に手が回ると思ってる?」
「……随分迷宮にご執心じゃねぇの。何でそんなに迷宮に登りたい?」
「さあ。君は出会ってからちっとも自分のことも核心も話してくれないから予想するしかないけど、多分、君と同じ理由だと思うよ」

拍手




「……さっきの話なんだが」
「さっき?」
「君の自己申告についての話だ」
「……俺、何か言ったっけ」
「生化学はあまりやっていない、と」
「ああ。ほとんどやってない。……悪いな、そういう話付き合えなくて」
「いや……そういう意味ではないんだ。君は、医術院出ではないのか?」
「……なんで? 別に医者じゃないメディックだって沢山いるだろ。そりゃ、ここには薬泉院があるから、本業は医者って奴も多いけど」
「君の今までの発言から感じた知識レベルは、衛生士のレベルではない。専門的な学術機関のレベルだ。――学院では当然生化学かそれに準ずる講義を受けたはずだが?」
「待ってくれよ、あんたの言ってることは半分当たってるけど半分ハズレ」
「どこが半分だ?」
「俺は確かに学院にいたことがあるけど、卒業してねぇの」
「…………」
「……その深刻そうな顔止めてくれ」
「……休学か?」
「いや。自主退学」
「…………どんな事情があったのかは知らないが、学問を途中で諦めねばならないとは、何という」
「待て。勝手に話作んな」
「しかし」
「しかしも賺しもねーよ、俺はただ単に学年上がる単位が足りなかっただけ。実習の単位、取れなくてさ」
「ふむ……だが、人より遅れても卒業できないことはなかったろう。勿体ない話だ」
「勿体ねーのは俺じゃなく、余分にかかる金の方。そういうわけだから、ヤブなんだよ、俺」
「そういう物言いは感心しない」
「つっても事実だし……まあ、そうか。ヤブって自称してる奴に治療されたら不安だよな。悪い」
「…………」
「ああ、だから、本気でヤバそうだったら俺とかじゃなく、薬泉院行け。……ツキモリは面倒臭いけど、良い医者だから」

拍手



prev  home
ブログ内検索

忍者ブログ [PR]
  (design by 夜井)