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2024/09/24

 ちょっと濃いめの女性向け描写があるので畳んでおきます。
 時期的には四層くらい。

 これから続く一連のエピソードは、この二人の話を書く上で一番書きたい部分の一つだったりするのですが、問題は私がそれを書ききれるかどうか……
 収拾つかなくなったら、この話はif扱いになるかも知れません。(無責任)
 ifにならんように一区切りついてからまとめて出せよ!というのは仰るとおりなんですが、それをやってるとおそらく早々にこのサイト更新止まるので……なにとぞご勘弁くださいまし……

 「Collapse」(←こっちの時期は五層も終わり付近)と矛盾するように見えますが、多分最後にはちゃんと一本に繋がるは、ず……
 落として上げて、の落としの部分に該当する話です。今の所まだ「上げて」の部分が完成しておりませんので、嫌な予感がする方は回避した方が良いと思われます。

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「やっと踏ん切りが付いたのかと思えば」
「……俺も流石にこの期に及んで、とは思う」
「まさか、未だ何かあるのか」
「いや、決心は付いた。……ただいざその時ってのが来ると、」
「まどろっこしいのは好かん。ここを押して起動するのだったな?」
「わっ、おま、」
「さあ押したぞ、文句があるなら起動しきる前に電源を落とすのだな」
「起動中には電源落とせねーんだよ!」
「ああ、確かにそう言っていたな」
「…お前って奴は………」
「お前がしないから私がやったまでだ。それとも自分の手で起こしたかったか?」
「いや、そこに拘りはない……でもお前、もう少し感慨って物が……」
「そんな物はお前が持っているから充分だろう。……起きたか?」
「!」
「よし、よく聴けアンドロ、お前のやるべき事を教えてやる」
「おい!」
「お前は人に作られた。よってその人間の命には従わなければならないし、危害を加えるなどもってのほかだ。人間によって与えられたその体を粗末にすることも禁じる」
「…………」
「身を守る場合を除いて人間を害するな。敵味方の区別無く、人間の安全を第一に考えろ。……もちろん最優先すべきはお前の作り主だがな」
「…………」
「……これでいいか?」
「……ああ」

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「……ファーラ様……紅茶をお持ちしました」
「……ありがとう」
「…………」
「…………」
「……あの、ファーラ様、ファーラ様は正しい判断をなされました。もしあそこで戦わなければ、……私達は今ここにおりません」
「いいえ。……ゲートキーパーに敵と認識された時点で、正しい判断とは言えません。私達はあの部屋に踏み込むべきではなかったのです」
「ですが、それはあの将軍の罠の、」
「将軍は海都の方です。私達は海都の意とは逆のことをしようとしているのですから、あの方には多少悪辣な手段を使われても仕方がありません」
「でも……いいえ、だからこそ深王様はファーラ様を責めませんでした。あの状況では……ゲートキーパーと戦わざるを得なかったと解ってくださったのです」
「……そのことです、メリッサ」
「え?」
「深王様は私達を責めませんでした」
「……はい」
「私、叱責されると思っていました。私達の失態を咎められると」
「ええと……深王様はお優しいと言うことでしょうか……?」
「そうかも知れません。そうでないのかも知れません。いずれにしろ、私達はあの方に対する認識を改めなければなりません」
「…………?」
「私達は責められるだろうと思っていました。けれど深王様は私達の予想とは違うことをなさった」
「はい……それがどうかなさいましたか?」
「考えても見てください。あの方は私達から深都の王としての敬意を受けていることを知っていました。敬意を持っている相手から寛大な処置を受ける――受けた方はどう思うでしょうね」
「あ……」
「心動くでしょう?この方のために働こうと」
「では、今回のことは私達を変わらず深都に協力させるために……?」
「さあ。それだけとは思いたくはありませんが。…………いずれにしろ、負けましたわ、私。度量と――格の違いを示されてしまいましたね」
「……そんなことを仰らないでください。私のお仕えする姫様は……ファーラ様だけです……」
「ええ。……ですからこれからは気を引き締めて行かなくてはね。
 ゲートキーパーが戻るまでの2週間……私達で門番の代わりに、フカビトを封じ込めなくてはなりません。
 ――王家の誇りにかけて、失態は二度は繰り返さない。私が失敗せぬように……ついてきてくれますね?メリッサ」
「――はい!」

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 お前の、その盾は、鎧は、剣は、何のためにある。

 息吹を弾くためか。
 爪を受け止めるためか。
 敵を斬り払うためか。
 そうして仲間を庇うためか。

 (冗談じゃない)
 
 お前の盾は、鎧は、剣は、お前の命を守るためにあるんだ。

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2010/05/31

「ここに、将軍のお手を煩わせるような方はおりませんわ」
「市街での私闘、及び傷害は禁じられているのは知っているな」
「勿論、存じております」
「お前達のギルドの拳銃使いによく似た女が、襲われているのを見たという通報が入っている。襲ったのは東方系の男、仲間がいた可能性もあるが、双方足取りは不明――今の所は」
「まあ、よく似た方が。それは物騒ですね。私達も気をつけますわ」
「……解らんな。シラを切ったところで、お前達に利など無いぞ」
「元老院の法に逆らうつもりはありません。ですが将軍、私闘、と仰いましたが、戦っている両者を目撃された方は? それに、その私闘で傷ついた方というのは何処に?」
「……訴える気はないというのだな?」
「お話が早くて助かります、クジュラ将軍」
「……いいだろう。言っておくが、これは見逃したわけでも、私刑を許可したわけでもないぞ。法が犯された証拠がない以上、俺は手を出さんというだけの話だ」
「ええ、それはよく――解っておりますわ」

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2010/05/29

 星が降る、星が降る。
 遠い漆黒の彼方から、2万8400㎞の、力の軛を振り切って。


 それは大気に満ちるもの。空に満ちるもの。
 星の子である私達の、母なる光を作るもの。
 そう教えてくれたのはあなたでした。

――短気を起こしてはいけませんよ。
――必ず戻りますから。
――星の導きが頭上に在らんことを。
 あなたはそう言いましたね。あなたの優しい嘘を、私は信じたかった。
 いいえ、今でも信じています。だから私はあなたを喚ぶ。


 天に満ちるもの。ひとを形作るもの。

「流れ星よ、ここへ。――メテオ」

 あなたであったはずのもの。

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 薬品で溶かしきれなかった繊維の残る、ざらついた藁半紙。ここへ来る道すがら買い求めたそれの表面に印刷された活写版の文字を追っていると、視線を感じた。
 決して敵意でも害意でもないのに、妙に居心地の悪い気のするそれ。
 何と言うことはない、見られているだけだ――と視線を送っている張本人ならそう言うのだろうが、ランビリスはそこまで慣れも開き直れもしない。生まれたときから使用人に傅かれ、内外の注目を浴びる王族とは違うのだ。
 結局、無言の視線に耐えかねて顔を上げる。だが、いつもはそれでかち合うはずの青い視線が、今日は手元に向いているのに気づき、彼は軽く「それ」を傾けて相手の方へと向けた。
「……読むか?」
 てっきり記事の見出しに興味のあるものでもあったのかと思ったのだが、問われた方のミュルメクスはどうにもピンと来ない表情で瞬く。数瞬の後、答えがあった。
「それは……何だ?」
「何だ、って新聞だけど」
「新聞……」
 音を確かめるように呟く様子を怪訝に思ったものの、すぐにそんな反応の理由に思い当たり、もしかして、と思いながら問うてみる。
「見たこと無いか?」
「見たことはある。……が、読んだことはない。それが新聞?」
「……何か気になるか?」
「国のものとは大きさが違う」
「ああ、向こうとは主流の版が違うからな」
 縦横の大きさが違うから、図書館でもあの辺りの国の文献は背表紙の高さですぐ判ったものだ。そんなことを懐かしく思い出しながら、ランビリスはもう一度藁半紙の束を掲げて見せた。
「読むか?」
 とはいえ未だランビリスも全てを読み終わったわけではないし、回し読みし終わるよりもファーラ達が降りてくるのが先になってしまうだろう。それでも普段は妙に泰然とした態度のミュルメクスが活字を追うのは、少し面白い気がしての申し出だった。
「……読む」
「じゃあ……って何で立つ」
 新聞を差し出しかけたまま見上げるランビリスに、ミュルメクスの方はいかにも当然、という風情で応じる。
「そちらに行くからに決まっている。こちらからでは文字が逆さで見づらい」
「いや、先にお前だけ読めば……」
「それではお前が読む時間が無くなる」
 それはまったく正論なのだが。しかしランビリスとしては特に読みたい記事があったわけでも無し、時間潰しの道具だったのだから、別に探索から帰ってきた後でも構わない――そう主張するより先に、ミュルメクスがテーブルを回り込んでこちら側へとやってくる。
 アーマンの宿のロビーに設えられているのはソファである。椅子ならばまだしも、成人した男同士がソファに並んで仲良く新聞を覗くというのは遠慮したい――と思った思考を読まれたわけでもないだろうが、ミュルメクスはテーブルと、更にランビリスの座るソファをも回り込んで、丁度ランビリスの斜め後ろ辺りで立ち止まった。
 ランビリスの、肩越しに見上げた視界を遮るようにしてミュルメクスが身を乗り出す。ソファが僅かに軋んで、彼がソファに手を着いたのだと解った。ランビリスの背後から半ば覆い被さるように紙面を覗き込んで、ミュルメクスは悪いが、と声を上げる。
「初めからでも構わないか」
「ん、ああ」
 ほとんど耳元で言われた声の、その近さに戸惑いつつも、ランビリスは紙面を戻す。どうせ数ページ分しか読み進めていなかったから、大して煩わしくはない。
 一面に戻り、一度読んだ記事に読むともなく目を落とす。
「――次へ」
 命令し慣れた声に要求されるまま紙面をめくると、肩に触れていた重みが少し増した。鎧を着けていない胸からは、布越しにじわりと体温が伝わってくる。 二人の距離を否応なく意識させるその温度に、ランビリスは困り果てて、視線を紙面上に彷徨わせた。
 ――隣に座らせた方が良かったかも知れない。
 そうすれば、まだ肩が触れあう程度だったかも知れない。視線を上げればすぐ近くに顔があるのだろう今の距離は、……どうにも近すぎる。
「……なぁ、ミュルメクス」
「何だ?」
「その、近すぎないか、この体勢」
「解っている」
 さらりと言われた台詞と共に襟元に鼻先を埋められて、思わず背筋を硬直させる。
 ――故意犯か!
 思わず叫びそうになるのを飲み込んで、ランビリスは開いた右手で容赦なくミュルメクスの頭を押しやった。
 不満そうな声が視界の外から聞こえてきたが、流石に同情の余地はない。
 ……最近、こういった接触がエスカレートしてきている気がするのは、気のせいだろうか。
 気のせいであって欲しいという自分の願望を自覚しつつ、ランビリスは大仰に溜息を吐いた。

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「久し振り、って言った方が良いのかな?」
「前会ってから5年くらい経つか。確かに久し振り、だな。今更だけど」
「うん。流石に大人の5年と子供の5年は違うね。前会ったときからあんまり変わってないなあ」
「これ以上変わるっつったら老けるだけだろ。――そんなことより、何やってんだお前?」
「何って、今も昔も変わらず行脚の詩人業だよ。世界樹のお膝元、ラガード公国に話のネタを求めに来る吟遊詩人は、山ほど居ると思うけど」
「話のネタを、じゃなく話のネタになりに来たんじゃねぇの、お前」
「ええ? 酷いなぁ。ウケは良いんだよ?女声と地声で一人デュエット」
「お前がやると洒落にならねーよ」
「ある程度マジに見える方が面白いだろう? まあいいじゃない。おかげで早々に君に会えたし」
「……今不穏な言い回しが聞こえた気がする」
「そこ勘繰るかな。知らない土地に来たら知人を捜すのは当たり前だよ」
「はいはい。で、俺に会って何がしたかったんだよ。良心的な宿の紹介くらいなら出来るけど?」
「ん、ありがたいけど宿はもう取っちゃった。君に訊きたいことはまた別」
「へー?」
「ここの迷宮の登り方、教えてよ」
「大公宮行って話聞いてこい」
「そうじゃなくてさ。君のギルド、四階層も20階まで登ったんだって?魔性の声で鳴く鳥が居るって」
「っ――どっから聴いたそれ。昨日の話だぞ?」
「詩人の耳は何でも聴くのさ。誰かの鼓動、愛の囁き、勿論風の噂だってね。――四階層のその先。どんなものが在るのか、君だって薄々感づいてるんじゃないの」
「……登ってみなきゃ解らない、ってのが建前。何にもねぇかも知れないんだし」
「そう。それもそうか。……話を戻すよ。僕はね、ハルュピュイアの声が聴きたい。それも、出来るだけ早く」
「――うちはダメだ。バードは間に合ってる」
「そうは言わずに。喉だけかってよ。なんなら前衛に出たって良いよ」
「そういう問題じゃねぇの」
「バード一人でこれからの作戦全部に手が回ると思ってる?」
「……随分迷宮にご執心じゃねぇの。何でそんなに迷宮に登りたい?」
「さあ。君は出会ってからちっとも自分のことも核心も話してくれないから予想するしかないけど、多分、君と同じ理由だと思うよ」

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「……さっきの話なんだが」
「さっき?」
「君の自己申告についての話だ」
「……俺、何か言ったっけ」
「生化学はあまりやっていない、と」
「ああ。ほとんどやってない。……悪いな、そういう話付き合えなくて」
「いや……そういう意味ではないんだ。君は、医術院出ではないのか?」
「……なんで? 別に医者じゃないメディックだって沢山いるだろ。そりゃ、ここには薬泉院があるから、本業は医者って奴も多いけど」
「君の今までの発言から感じた知識レベルは、衛生士のレベルではない。専門的な学術機関のレベルだ。――学院では当然生化学かそれに準ずる講義を受けたはずだが?」
「待ってくれよ、あんたの言ってることは半分当たってるけど半分ハズレ」
「どこが半分だ?」
「俺は確かに学院にいたことがあるけど、卒業してねぇの」
「…………」
「……その深刻そうな顔止めてくれ」
「……休学か?」
「いや。自主退学」
「…………どんな事情があったのかは知らないが、学問を途中で諦めねばならないとは、何という」
「待て。勝手に話作んな」
「しかし」
「しかしも賺しもねーよ、俺はただ単に学年上がる単位が足りなかっただけ。実習の単位、取れなくてさ」
「ふむ……だが、人より遅れても卒業できないことはなかったろう。勿体ない話だ」
「勿体ねーのは俺じゃなく、余分にかかる金の方。そういうわけだから、ヤブなんだよ、俺」
「そういう物言いは感心しない」
「つっても事実だし……まあ、そうか。ヤブって自称してる奴に治療されたら不安だよな。悪い」
「…………」
「ああ、だから、本気でヤバそうだったら俺とかじゃなく、薬泉院行け。……ツキモリは面倒臭いけど、良い医者だから」

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 覗き込んだ本の挿絵の一枚には、珍しく色が付いていた。円形のガラス容器の中に、緑や赤、黄色や白など、色とりどりの円が幾つも描かれている。
 何も知らなければカラフルな――抽象芸術のような絵、と言えなくもない。
 だが、描かれているのが本当は何か知っているアスターは表情を強張らせた。
 おいおいおい。
 思わず本の所有者であるはずのアルケミストを見るが、ユニスは相変わらず読んでいるのか何かを探しているのか解らないスピードで、別の本のページをめくっている。
 あまりに平然としているので、何かの見間違いだろうかともう一度本へと目を遣るが、載っているのはさっきと同じ、どこからどう見ても微生物コロニーのスケッチだ。
 いや、スケッチが載っているのはいい。問題はそこじゃない。
「ねえ、先生」
 ぽつ、とユニスの向かい側――テーブルの上に乗り出すようにして、本をめくっていた少女が声を上げた。彼女の名前はヴィスイー。先日ギルドに加わった老翁の言によれば、天秤、という意味らしい。因みに、二月前に8歳になったばかり。
 その彼女の前に置かれているのは、「細菌学図説」――言うまでもなくメディック、一部のアルケミスト御用達の一冊だ。年端もいかない女の子が読むような本ではない。というか、多分読んでも理解できない。そんな本を教材として使うなんて何のつもりだ。いや、図は沢山あるから絵本のつもりなのか。菌糸の拡大図しか書かれてない絵本なんて、ぞっとしないけど。
「こっちの丸いのの中に、これが住んでるの?」
 声に反応して視線を上げたユニスが、本を覗き込む。ん、と彼は頷いた。小さな指が、拡大された菌糸のスケッチにちょこんと載っている。
「住んでいる、というよりはそれらそのものだ。小さすぎて人の眼にはとても見えないが。下にあるのは顕微鏡で見た図だ」
 ふぅん、と少女は頷く。一体どこまで解ってるのか。
「じゃあ、この、丸いのがいっぱい付いてるのも?」
「そうだ。これは青カビの仲間だな」
 言われて、少女は大きな青い瞳で紙面を睨む。
「あ……あすぴ……」
「アスペルギルス、と読む。……少し難しいな」
 お、珍しい。フォローが入った。
「うん……」
「……アスペルギルス属は」
 語尾が窄まってしまった少女の返事を気にしたのか、少し考えた風情でユニスが口を開く。
「人に例えるなら、偉大な偉人の系譜だ。病を癒すペニシリンも、一部の酒類も、彼等から生まれた」
 …………そりゃそうだけど。
 その例え話は何なんだろう。なんだかあまり関わりたくない会話、しかもこんな雰囲気の発言をどこかで聴いたことがある。
 なんだっけ、と数秒考え込んで結論が出た。学院時代の教授が、こういう話し方をしていた。学者ってみんなこんなもんなのか?
「特に肺の病を癒す薬を生み出したという点は重要だ。――といっても、私もその生産物の作用機序については詳しくは知らないのだが」
 と言って赤い視線がこちらを見た。ついでにユニスを見上げた青い瞳までこっちを見た。
 おい。待て、俺かよ。
 ペニシリンの構造式なんて覚えてねーよ。
 アスターは引きつった笑みを浮かべる。
「……菌の外壁が薄くなるんだよ、確か。溶菌――菌が溶けて、増え方も悪くなる。それ以上は、ちょっと。俺、生化あんまやってないし」
 覚えている範囲で、間違っていないと断言できるところまで。随分曖昧な言い方になったが、幸いアルケミストはそれで納得してくれたらしい。
 そうか、という相づちと共に赤い視線が自分から逸れていくのを見て、アスターは小さく息を吐いた。今の説明で解ったのか解っていないのか、まだこちらを見上げている少女に問いかける。
「なぁ、いつもそういう本で勉強してるのか?」
 だとしたら問題だ。この年頃の子供には、何かもっと一般的なことを教えるべきだ。
 だが、アスターの懸念を他所に、ヴィスイーはつたない仕草で首を振った。
「ううん。いつもは鳥とか、動物とか、花の図鑑とか。……たまにお話の本と、積み木も使うよ」
「……語学はあまり得意ではないんだ」
 言い訳するようにユニスが呟く。
 積み木、は計算でもさせているんだろうか。
「なんだ、満遍なくやってるんだ」
 偏りはありそうなものの、いかにも普通で結構結構。でもそれにしては気になることが一つ。
「……でも、何で今日はそんな本使ってるんだよ?」
 顎で「細菌学図説」を示してやると、ヴィスイーは青い瞳に、何で?という色を浮かべてユニスを見上げる。それを受けたユニスは、いかにも当然のように一つ頷いた。
「今日は君が居るからな。少し踏み込んだ内容でも良かろうと」

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