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2024/09/24

「つかぬ事を伺いますけれど」
「なぁにー?」
「どうしてこんなものを拾ってきたんですか? これ……ヒトデ、ですよね?」
「ん……まあさ、喰えもしないし見て綺麗でもないよ。でもさ」
「でも?」
「これ持って迫ると、殿下がすごーく嫌がるんだよね」
「…………」
「だから楽しくってうっかり持って来ちゃった」
「まあ……持ってきてしまったものは仕方ありませんわね。交易品として役立つかどうかは解りませんけれど……一応見かけないもののようですから、生息地を報告するのも重要ですし」
「……生息地」
「どうかした?タンジェリン」
「え、ううん!ちょっと良いこと思いついただけ!」
「良いこと?」
「あ、これには関係ないけど」
「……ふぅーん?」
「メリッサ、登録用紙を」



「お。珍しいな、お前が術具背負ってるなんて。今日オフだろ?」
「はい。探索はないので、タンジェリンさんに頼まれて、今から彼女と三層に行くところです」
「三層? そりゃまた、何しに……ああ、お前に声かけたって事は、ヨウガンジュウ辺りか」
「いいえ。卵だそうです」
「……卵って、ドラゴンの?」
「はい。傷のない、綺麗な卵殻が欲しいのだそうです」
「材料屋みたいな注文だな……」
「イースターだそうですよ」
「……この時期に?」
「さぁ……そこまでは私も」


「たっだいまー……あれー、洒落たリボンなんか出しちゃって、誰に贈り物さ、お嬢さん」
「ん、ハイ・ラガードのみんなにね、お土産というか、冒険のお裾分けというか」
「ふーん……でもそんなでかい箱に何入れ……これ、『球状の卵殻』?」
「うん。今日リヴェさんと採ってきたんだー。うちのギルマス……って、『カレンデュラ』の方の。すっごく樹海に詳しいから、こういうタイプの珍しい物なら気になるかなーって」
「ふーん……で、何で卵?」
「私がここまで来たのと、今から送るのとを逆算したら、向こうに着くのはイースターの頃かな、って」
「……うん、まあそういう考えでもいいけどさ。わたし達、新しい航路をいくつか開いたよね?」
「あ」
「ついでに、季節によって潮の向きも変わるって知ってるよね?」
「……あー!」

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2010/05/08

 ちょっと濃いめの女性向け描写があるので、追記に畳んでおきます。

 プリンスは割とまともなこと言っててそれなりにビビリに見えますが、ぶっちゃけこんなに殊勝なのはバリに対してだけ、しかも相当階層進んでからなんだぜ。

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 例えば、この瞬間君に何かを告げるなら。
 じわりと胸の内に生まれた熱に名前を付けるとするなら。

 いつもそこまで考えて、急に黙り込んだ僕を怪訝そうに振り返る君に、何でもないと笑う。
 そうしてこの熱の正体なんて忘れたふりをして、いつもの日常に戻ってゆく。

 僕は未だに、これが友愛なのか恋愛なのか決めかねている。

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「別に、何も複雑なこたねぇよ。
 ただ、あの炎は俺の嫌いだったモノ全部、綺麗に薙ぎ払ってった。
 惚れ込むにゃ、それだけで充分だろ?」

 そう言って彼は笑う。朱い紅い炎を背後に従えて。

 でも、ねえ、それなら、貴方が薙ぎ払って燃やしてしまいたくて仕方がないのは、本当は何?

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「――ここに来た理由ね、」
 ひらりと羽織った短外套の裾を翻して、セレスタは振り返る。流石に10年前の身のこなしはないが、それでも充分軽やかな、自由な仕草だった。
 傾きかけた日差しは黄金の光を帯びて、ゆるやかに彼女を縁取る。
「ほんとは、勲章渡そうと思ったの」
 ぽかん、と絶句した彼の目の前で、セレスタは声を上げて笑った。ひとしきり笑ってから、彼女はおもむろに被った帽子に手をやる。くしゃりと手の中で歪んだ帽子の、その内側に光っているのは間違いなく、エトリアの英雄の証だ。
 それをしばらく見つめて、ゼオは口を開いた。
「それは……あんたのだろ、俺が持ってちゃおかしい」
「おかしくないよ。私のでもない。これは「テンペスト」のもの。役に立つんなら、ゼオが持ってたって良いんだよ」
 だからあげようと思ってたんだ。言ってセレスタは、指先に引っかけた帽子を二三度くるくると回す。そうして彼女は、でもね、と悪戯っぽく微笑んだ。
「やっぱりあげるのはやめた!これは私がもっておく」
 赤毛の頭に帽子を被り直して、彼女は高らかに宣言する。
「これあげたら、今度は私が紋章持ってるあんたの隣に並ぶのがおかしくなっちゃう。だからこれは私の。迷宮上り詰めたら、私の隣に並びに来てよ。凄く楽しみに待ってるから」

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2010/05/01

「あれを人って言うんだったら、そりゃ確かに俺達は人殺しだ」
 昔と変わらぬ不謹慎な言に、ウルフェは心中で僅かに眉を顰め、けれど外面は小さく苦笑してはぐらかす言を紡ごうとし――しかしその唇は、何かを言おうとしたその形のまま固まった。
 言われた言葉の、その意味を一拍おいて理解して、ウルフェは背筋を泡立てる。
 まさか。この人は。
 その思考までを見透かしたように、白衣の男は口端を吊り上げて笑ってみせた。
「あいつ、見た目は兎も角、中身は充分人外だったぜ。見た事ねぇ組織なんかありやがんの」
 その薄紫の視線がつ、と滑って奥の戸棚へ行き着いた。鍵の掛かった戸棚。ウルフェはその中に何があるかを知らない。今までは知らなかった。
「まさか……解剖、したの?」
 何を、とは言わなかった。恐ろしくて言えなかった。
 男は肩を竦める。ごく日常的な、軽い仕草だった。今話している内容が冗談なんじゃないかと思うくらいに。
「折角殺した得体の知れねぇ人外を、検死もしないで埋めるほど馬鹿じゃねぇよ」

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「……その煙草を止めろ」
「あー、これ吸い終わったらな」
「出来れば今すぐに」
「……お前、煙嫌いだったのか?」
「好きではないが、唇の色が悪くなる。止めた方がいい」
「飽きないよなお前……ご忠告どうも。でも滅多に吸うわけじゃねぇし、大目にみろよ。……ちょっとな、煮詰まってんだ」
「その図か? ……本当に設計図なのか、それは」
「多分なー。見た事ねぇ記号だの数値だのがわんさと出てくら」
「解読から組み立てまでどれだけかけるつもりだ……」
「いや、組み立ては多分、深都から貰った部品がありゃどうにかなる。今読んでんのは部品の中身だな。ここが解れば、修理できる」
「…………やっぱり煙草は止めろ」
「今だけだって言、こら危ないだろ」
「そんなに口寂しいなら塞いでやろうか」
「……お前、そういう冗談好きだよなー……」
「冗談ではない」
「…………」
「と、いうのが冗談だ」
「おっ前なぁ!」

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 お前は何か誤解しているようだが、王族とて人目を気にする職なのだ。
 卑屈な王が居てどうする。そんな輩を誰が頂こうと思うだろうか。
 態度に限った話ではない。見た目、特に服装は重要だ。その場に相応しく好まれるようにしなければならない。
 ……とは言うが、何から何まで人の望むようである必要もない。むしろゲテモノが好まれる場合もある。食などはその最たる例だ。
 私の国にはこういう諺がある。服は人が好むものを着、食べるものは好きなものを食え。
 こればかりはその通りだと私も思う。
 まったくだ。好きなものを食うことの何が悪い?

「食えねぇよ!」
「やり方なら知っている」
「お前眼大丈夫か!眼鏡なら貸してやるから良く見ろ!」

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「――殿下」
「…………」
「殿下ぁ」
「…………」
「……泣いてるの?」
 問えば、寝台の上の人影が身じろいで、長い黒髪の間から僅かに俯いた顔が覗いた。元々隠す様なつもりもなかったのだろう、紅茶に似た色をした指が、ゆるゆるとした仕草で同色の頬に触れる。
「泣いて……は、ないな」
 力ない声がそう言って、乾いた目元を撫でた指がぱたりと落ちた。
「泣いてはいない。……そうだな、ぼんやりしている」
「……」
「昔のことばかり考えていて、何も手につかない。……エフィメラ」
「うん?」
 呼ばれて、エフィメラは扉を背に立ったまま首を傾げる。二人きりの時に名を呼ばれるのは久し振りだった。それだけの長い間、エフィメラは影のように空気のように、彼の傍らに在ったので。
「私のしようとしたことは間違っていたか」
「そんなのはさ、殿下。今あたし達が決める事じゃなくて、何十年か先に決まることだよ」
 それに、とエフィメラは胸の内だけで呟く。正しかろうが間違っていようが、裏切られたって気持ちも事実も消えないよ。
 宵闇の色をした瞳はしばらく黙ってこちらを見ていたが、やがてふと彼は目を閉じた。
 溜息のように、そうだな、という相づちが吐き出される。
「勝つか負けるか、って意味なら、勝つに決まってるけどね。……ねぇ、殿下」
「何だ」
「そっち行って良い?」
「好きにしたらいい」
 そろり、とエフィメラは扉から背中を離す。もはや磨いても鈍い艶しかでない床を一歩、二歩、三歩、丁度四歩目で膝が寝台に触れる位置に来る。
「ねえ、殿下」
「……何だ」
「ぎゅってしてあげようか」
「……好きにしろ」
「ん」
 綿のシーツに膝を付く。俯いた黒髪に手を回す。伸ばした腕で肩を包んで、身を寄せた。
「……エフィメラ」
「うん」
「どういうつもりだ?」
「母親ってさ、こうやるでしょ」
「……私は子供じゃないし、お前が母親になる必要もない」
「解ってないなぁ。胸がある女共通の慰め方だよ」

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2010/04/23

 廊下を向かいからやってくる人影を認めて、ヴェルガは軽く右手を挙げた。相手は案の定嫌そうに口を曲げたが、方向を変えたり速度を落としたりはせずにこちらに向かってくる。
「よう。やってんなぁ、医者見習い」
「何だよ脳筋。馬鹿専門の外来なら、余所あたれ」
 ワゴンを押すアスターの横に並びながら、ヴェルガは苦笑する。
「別に診療じゃねーよ。お使いだお使い、薬の材料が依頼に出てたの、知らねぇ?」
「……受けるんなら俺が話つけといたのに」
「お前は見習い生だ。院内関係者使って依頼受けるわけにはいかねぇよ」
 不機嫌そうに(どうせポーズだ)しかめっ面をしたままのアスターを、ヴェルガはちらりと横から覗き込む。今日は機嫌悪ィな、と思いながら、彼の押すワゴンに視線を逸らす。ワゴンの上には、何かの箱やら薬品瓶やら、ガーゼに脱脂綿、それから薄い緑の…………
 あ。何となく解った気がして、ヴェルガはおそるおそるアスターの顔を覗き込む。
「……な、もしかして、お前これから手術室行き?」
 ワゴンの上にきちんと畳んでおかれた薄緑色のそれは、多分術衣だ。
 アスターは顔をしかめたまま、こくりと頷く。院内で手術という単語を出すのを憚ったのか、或いはただ単に口に出すほどの余裕がないだけか。常の彼にしては幼い仕草で頷いた彼は、憂鬱そうに息を吐いた。
 切ったり貼ったり縫ったりするのが恐ろしく苦手な彼には、辛い仕事に違いない。
「あー……まあなんだ、頑張れよ」

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2010/04/20
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