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2024/09/26

「あそこが今夜の獲物がある場所だよ」
 闇に溶けるボディスーツに身を包んだクイーンは、眼下を指して言った。スーツこそ体のラインにぴっちりとあった物を着ているが、長い銀髪は流したままだ。開いたハッチの隙間から流れ込んでくる冷たい夜気は、容赦なくクイーンの銀髪を吹き散らしてゆく。
「見えるかい?」
 限りなく白に近いグレーの瞳をこちらに向けて、クイーンは問う。ジョーカーは無言で頷いた。
 二月ぶりの獲物は、業火渦巻く館から救い出されたという大粒のダイヤ。逸話の真偽はともかくとして、久し振りの怪盗らしい獲物だ。ジョーカーの調べでは、予告状の効果で警備は常の数倍は下らない。警戒するべきレベルの人数。
 思わず手に力が入ったところで、くすりと笑う気配がする。
「怖いかい?」
 戯けるように言われた言葉に、いいえとジョーカーは首を振った。幼い頃から格闘の訓練を受けていた彼にとって、いくら人数が多いとはいえ警官の数人ごときは敵ではない。
「じゃあ、緊張している?」
 それにもいいえ、と首を振りかけて、ジョーカーは考える。
「……少しだけ」
 仕方がないね、言ってクイーンは笑う。
 だって今日が怪盗クイーンのパートナージョーカー君の初仕事だものね。
 自動航行になっているトルバドゥールは、徐々に館の真上へと近づいてゆく。街のネオンが微かに届いて、二人の姿を下からぼんやりと照らし上げる。
「行けるかい?」
 風に散らされないように少し強めた声でクイーンが言って、ジョーカーはそれにもちろんです、とできるだけ落ち着いて聞こえるように答えた。
 その強がりを見抜いているのか居ないのか、おそらく見抜いているのだろうけれど、頼もしいね、とクイーンは微笑む。
「じゃあ、お先に」
 その微笑みのまま、ワイヤーを掴んだクイーンはひらりとハッチの隙間から空へと身を躍らせる。自由落下の速度で目標へと向かうその影を、ジョーカーも少し遅れて追った。

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 闇というのはどうにもこの地に生きとし生けるものとは相容れぬようで、故に闇ばかりを包容した夜は、生者の恐れと不安を招く。
 その闇の中を滑るように裂いた影は、さながら舞うように一つ旋回する。羽ばたきもなく、夜の獣達よりも静かに崖上へと降り立った彼は、夜空を振り仰いで歌うように呟いた。

「ああ、良い夜だ」
 空を埋めるのは満天の星、月のない夜には星明かりが目立つ。しかし空に散ったその光は月光に比べればいかにも儚く、闇を駆逐するほどには至らない。

 昼生きる生き物は夜目が利かない、それがこの地上での理、と言うものらしいが、異界から来た彼等のような生き物には、どうやら当てはまらないらしい。遙か昔にこの地の人々が定めたという星座を眼で追った。
 北の空に動かない星が一つ。これより北の地では、特別な意味を伴って呼ばれるらしいその星を指し示すのは、罰を受ける女の星だ。高慢さ故に逆さに吊され空にあげられたというその女にまつわる逸話を思い出して、彼はうっすらと微笑む。
 そんな女の名を勝手に付けられて、付けられた方からすればさぞ理不尽なことだろう。星はあんなに美しいというのに。

「……それに比べて」
 呟いて、彼は崖下を見遣った。
 匪賊達の焚いた篝火が、崖上に潜む彼の整った貌を照らしあげている。
 こんなに暗い夜では、派手な明かりがあった方が周りが見づらくなるのだが、酒と略奪の余韻に酔っている彼等は、どうやら気が回らないらしい。
 地上には馬鹿な子ほど可愛い、とかいう言葉もあるらしいが、古くから残る寺院を打ち壊し、彫刻も何もかも破壊していった彼等は、ホルストにとっては馬鹿なだけで欠片の愛おしさも感じない。

「まったく、美しくないね」

 何処か酷薄な響きが含有された言葉と共に、今まで潜めていた翼に宿る焔を解放する。熱された金属のように輝きだした翼、やっと崖上に潜む異形に気付いた匪賊が慌てた様な声を上げたが、もう遅い。

 石塊に還った乙女を偲び、彼は大きく翼を広げた。

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 丁寧に髪をとかして、結い上げるのはピンク色のリボン。
 いつもより少し短い花柄のスカート。
 エナメルの靴はおろしたて。
 レースは何処もよれていない?
 ちゃんとおめかしできたなら、最後の仕上げ。
 拳銃を、ハンドバッグにしのばせて。 

 ほんとの私を、あなたは知らない。

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「何でこの世界に住もうなんて思ったんだ?」
 獣避けのために焚いた火を、枝でかき混ぜながらマキシは問うた。
 地上の下には魔界、更にその下には大魔界があるというのは周知の事実で、簡単に繋がりはしないが、この世界の他にも沢山の異世界が存在している、というのは天界ではもはや定説だ。
「この世界の他にも、もっと都合の良い場所があったんじゃないのか?」
「決まっている」
 何を解りきったことを、とでも言いたげな調子で答えた鬼の手には、何故だか杯と酒瓶とがある。どこから持ってきたんだ、まさか盗んできたんじゃ……(彼等が通貨を持っているなんて思えない!)と思ったが、訊いたら面倒なことになりそうだったので、ここはあえて眼を瞑ることにする。
 青い髪の鬼は、空を振り仰いだ。木々の切れ間から覗く空には、丁度真円の月が浮かんでいる。
「月が美しかった。だから此処にした」
「そうだね」
 少し離れた倒木に腰掛けた火炎を操る鬼は、真っ赤な爪を磨きながら(そう言えば何故か彼は地上界での身嗜みにやたらと詳しい)言う。
「粋という概念は相変わらず理解しきれませんが、天体の美しさには同意しますよ」
「確かに、この世界は綺麗」
 先の割れた槍を磨いていたクレアが言った。そう言えば今日の夕飯当番で魚を捕ってきたのは彼女だった。
「尤も、私達の世界に似ているから、そう思うのかも知れないけど」
 肩を竦めた彼女の横では、白い毛並みに埋もれるようにして、この地上の住人であるメリルとアゼルが眠っている。尾を枕に使われているケルベーダは居心地悪そうにちらちらと二人を見ていて、マキシは小さく笑った。

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 神羅

 あんまり遊び歩かないでくださいよねぇ、呆れを含んだ声で、鮮やかな赤毛の騎士は言った。

「何を言うのかね、ここ一月は大人しくしていたじゃないか」
 セラーの棚に眠る葡萄酒のラベルを吟味しつつ、メルキオールは言う。お世辞にも真面目とは言えない態度に、ラモンはやれやれと傍らの樽に腰掛けた。例え極めて私的な場とは言え、此処も王宮内である。本来なら王であるメルキオールの許し無しに、しかも樽に腰掛けるなど言語道断だ。それが解らないラモンではないが、今更こんな所で、しかもこの人相手に騎士の礼儀を取るのも馬鹿らしい。
 城の食料庫の奥、ワインセラーでくすねるボトルを選ぶ王と、それに礼を取る将軍の図、なんて滑稽すぎる。

「ま、ここ最近だけはこうやってワインくすねたり隠れん坊したりしかしてないみたいですけど?後を引く遊びってのもあるって、解ってるでしょ」
「またそんな話か」
 困ったものだ、と言うようにメルキオールは肩を竦めた。尤も、気になる銘柄でもあるのか棚を覗き込んだままの受け答えではあったが。
「金と女ってのはなかなか切れないんだから。……それ、開けるなら37年のにしてね」
 何故、と問うような視線を向けられ、ラモンは片目を瞑ってみせる。
「そこの銘柄、ウチの領地の畑で作ってるの」
「なるほど、詳しいわけだ」
 小さく笑って、メルキオールはボトルを取り出す。緑色のガラスに貼られた薄茶の紙に、箔押しで書かれた銘柄と数字。

「それで、今度は何が後を引いていると?」
「一昨日のことだけど。清楚な訳あり風のレディが城門の所に来てて、ね」
 やれやれとメルキオールは額を抑える仕草をする。お腹の膨れたそのレディは、一体どんなシチュエーションを語ったのだろう。
「私は一体どんな人間だと思われているんだろうね」
「遊び人でしょー?」
 戯けて答えて、ラモンは足を組み替えた。それで、と変わらぬ調子で問う。
「心当たりは?」
「私はそういう女遊びはしないよ」
「どうだか、ってのが大半の意見だと思いますよー?」

 誤解だよ、呟いて、メルキオールはボトルの底を右手で支え持つ。左手は瓶の口を包み込むように沿えた。一拍の間をおいて、そのまま彼は螺子式蓋の瓶でも開けるように、ボトルの口を捻る。と、まるでガラスが粘土にでも変わったように、ボトルは手を添えた部分からあっさりとねじ切れた。

 呪文すらなく炎の力を行使した彼は、静かに微笑んで、

「王子を生む女性は、たった一人で充分だと思わないかい?」

 上等な翡翠の色をした瞳に得体の知れない色を浮かべる主君に、少しだけ薄ら寒いものを感じながら、ラモンは少し考える風を装ってから、それもそーですね、と軽く答えた。

「確かに、貴方がアレックス様やアルマ姫の立場を悪くするようなことをするわけがないわ」
「解ってくれて嬉しいよ」
 言って彼は、溶けた断面を曝すボトルをラモンに差し出した。

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2008/07/30

 人によく似た鬼の手が中空を掴んだ。キリと何かを引き絞る仕草、その手に青白い光が収束する。
 光の矢の本性は青い稲妻、鈎爪さえない指から解放された瞬間、音より速く飛んだ矢は人の姿をした神を射らんと空を裂く。
 真っ直ぐに標的を目指したその矢は、だが神の胸を射ることはなかった。
 じゅう、と音を立てて白熱する矢は消滅した。――その矢を受け止めたマキシウスの手の中で。
 初めて鬼の眼に驚きにも似た色が浮かぶ。
 矢の纏っていた高温の陽炎を払いのけ、目覚めた荒ぶる神は、少年の顔に獰猛な笑みを浮かべた。

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2008/07/26
 神羅

 促されて、アレックスは進み出る。建物の影から出た瞬間、強い日差しに灼かれて一瞬視界が白熱した。視力が戻るのと同時に、わっという歓声が上がる。広場の石畳を埋め尽くした人々。


 血も地位も経験も知恵も愛情も、およそ親として与えられるものは全て与えてくれた父だったけれど、それでも最後まで自由だけは与えてはくれなかった。
 ――だからきっと、今度も逃がしてはくれないのだろう。

 否、くれなかっただろう、と言うべきなのだろうか。彼はここには居ないのだから。

 飛天王様万歳、誰かが言った。
 それに優雅に微笑みかえして、そうして彼は、宣戦布告を口にする。

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「……ねえ、おじさん」
 見上げた夜空には雲一つ無くて、弓のように細い月の光は空を照らしきるにはか細すぎる。飛天領で見る空の何倍もの星が散らばった空を見上げながら、これくらい沢山見えれば星座を作るのも楽だろうな、とサイアスは頭の隅で考えた。
「昔、俺が公爵になりたい、って言った時のこと、覚えてますか」
 一拍して、肯定の返事が返ってくる。物覚えの良いセツナのことだ、あの時の台詞どころか、サイアスの声や表情だって覚えているに違いない。少なくとも、その程度のインパクトの台詞を言った自覚はあった。
 もし俺が、言いながら、横目で斜め後ろに立つセツナを伺い見ようとしたが、残念ながら視界には入らなかった。首を動かせば見えるけれど、何となく反応を気にしているのをさとられたくなくて、サイアスは仕方なくそのまま続ける。
「……もしも、俺がもう一回、公爵になりたい、って言ったら、おじさんは反対しますか?」
 言ってから、心臓が小さく跳ねた。ああ、たかが一言訊くだけで、こんなにどきどきするなんて。カレンに知られたら笑われてしまうかも知れないけれど、それでもこればっかりは仕方がない。幼い時から面倒を見てくれた人だ。その人と、事によっては決別しなければならないかも知れない。
 静かに静かに深呼吸して鼓動を落ち着けるなか、風が足下の伸びた草を揺らして通り過ぎていった。さあ、という草の音は一度きりで、後は星のまたたく音さえ聞こえそうな静寂が続く。
「私が反対したところで」
 唐突に落とされた言葉に、戻りかけた鼓動が跳ねた。
「お前はなるつもりなんだろう、今度こそ」
 草を踏む音が近づいてきて、白い衣装がサイアスの左側の視界に入る。その表情を確認したくて出来なくて、結局サイアスは星空から地平線へと視線を移した。

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 こえ

 輪郭が溶ける、影が薄れる、細かな粒子が宙に散って、

「  、  」

 風に吹き散らされるように、光の中に溶けるように

 灰さえ残さず砂にもならず。



 なんてひどい人だろう。
 名前さえ教えてくれなかったから、最後の最後に呼ぶことさえ叶わなかった。

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 Dilemma

 よくやったよ、お前は。
 言えば、サイアスはまるで信じられないことを聴いた、とでも言うようにセツナを見上げた。
「……何だ、その豆鉄砲でも食らったような顔は」
 憮然として言ったセツナに、サイアスはだって、と戸惑ったように答える。
「まさかおじさんが褒めてくれるなんて、思わなかったんで」
「私が人を褒めるのがそんなに意外か」
 サイアスは慌てて手を振る。
「そうじゃなくて、……そうではなくて、ですね、」
 少し迷ったようにしてから、彼は、怒られると思ってたんです、と言った。
「戦争して、褒めてもらえるなんて思わなかったんです」
 まるで悪いことをした子供が告白するときのような、勢いのない表情と声音で言われて、セツナは息を吐いた。
 最前に勧められたが腰掛けなかったベッドサイドの椅子が、所在なさげにぽつんと置かれているのを見遣る。引き寄せて、座ってもいいか、と問えば砂色の頭がこくりと頷いた。
「……何故そう思う?」
「おじさん、そういうのに巻き込まれるのが嫌だから、隠居したんじゃないんですか」
「外れてはいないな」
 嘘ではない。セツナが姉と共に孤島に引きこもった理由は沢山あって、一番大きな理由は別にあったけれども、サイアスが言ったそれも理由の一つだった。
「やっぱり」
「それで、お前が地上軍の先頭に立って指揮したから私が怒っていると思ったわけか」
「違うんですか」
「馬鹿者」
 一蹴すると、う、とサイアスはそれこそ怒鳴られた子供のように首を竦める。もういい歳なのだからいちいちそんな過剰な反応をしなくてもいいと思うのだが、どうもこればかりは幼いときからの反射らしい。
「お前には公爵としての責務があった。義務を放り出すようなことは決してしないと言ったのは、お前自身だろう」

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