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2024/09/27
 神羅

昔々の話。
 一体直前に何があったのかはもう覚えていない。
 ただ重い音にはっとした私が、何が起きたのだろうと顔を上げようとしたら、突然ぎゅうと抱き締められた。
 誰だろうなんて考えるまでもなく、私に遠慮無くそうするのはお父様かお兄様しかいなくて、頭の後ろにある大きな手はお父様のものだった。
 私の顔はお父様の胸の辺りに押しつけられていて、少しだけ苦しい。
 私がそう言おうとする前に、アルマ、とお父様が私を呼んだ。
 それがとてもとても優しそうな声だったので、何かしら、と私は上を向こうとするのだけれど、それを邪魔するように、お父様は尚更強く私を抱き締めた。耳まで腕で覆われていて、それで視界の隙間も全て隠される。私には何も見えない。きこえない。
 少しだけお父様の匂いがする。
 何かが床にぶつかる重い音がしてから辺りに漂いだしていた錆の匂いは、もう私には届かなかった。

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 将軍!声にカレンは振り返る。
「砲撃の許可を!」
 言われて、カレンは空を見上げる。雲間の灯りに照らされて灰色に見える双影は、めまぐるしく位置を入れ替えながら剣撃を交えている。

 ――あたってしまう。

 歯がゆい。ただ手が届かないというだけで、こんなに悔しい思いをしなければならないなんて。
「……砲撃隊、前へ。目標、ゴーレム!周辺の敵を一掃します」
「将軍!」
 部下の一人が険しい声をあげる。その意味にカレンは気付いている。
 騎士団に女は珍しい。ましてや将軍クラスともなれば尚更だ。――カレンに向けられる視線の中には、好奇に混じって疑いと蔑みが含まれている。

 (お前に将軍たる実力があるのか。女の身で、何を偉そうに)

 ――あの方にはそれがなかった。

「駄目です」
 きっぱりとカレンは言い切る。
「しかし」
「味方への攻撃は認められません」
 ざわ、と周囲がざわめく。
 では、と誰かが言った。
「味方とは、あれは一体誰なのです!?」
「あなた方も気付いているはず」
 カレンは振り返った。上空ではまだ激しい戦いが続いている。内心の焦りと悔しさを押し隠して、困惑、驚き、様々な表情を浮かべている仲間達を見渡した。
「敵将と戦っておられるのは、サイアス様です」

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2008/01/10
 摂氏
 神羅

「クロノス」
「なん、」
 窓を閉めて振り返りかけたその瞬間を狙い澄ましたように、頬を冷たい感触が包む。いつの間にか手袋を脱ぎ捨てたメルキオールはクロノスの両頬に掌を押し当てたまま、おかしいな、と呟いた。
「何がだ」
「熱いのか冷たいのかよく解らない」
「冷えすぎて感覚が狂っているんだろう」
「そういうものなのかい?」
 熱すぎるのにも冷たすぎるのにも似ているのに痺れているようだ、台詞と共に人肌の限界まで冷えた手が、露出した喉まで下りてくる。覚悟していれば驚くような冷たさでもないので、クロノスは好きなようにさせた。
 男にしては少し細めの指が顎骨の辺りをぎこちなく撫でてゆく。クロノス、とメルキオールが呼んだ。
「このまま縊り殺されるんじゃないか、と思ったことは?」
「……それは冗談のつもりか?」
「もし冗談ではなかったら?」
 言いながら、更なる温もりを求めてか指が襟元まで下りてきたので、慌ててクロノスは手首を握って寛げる手を阻止する。握ったそこも矢張り同じように冷えていた。
 じんと伝わる冷たさにクロノスは僅かに眉を顰める。冷えすぎだ。
 その表情をどう取ったのか、苦笑の中に悪戯っぽさを含ませてメルキオールは小さく笑う。
「心配しなくても」
 手の甲にやんわりと冷えた指先が触れた。
「まだ上手く手が動かないから無理な話だ。……なんと言ったかな、こういうのを」
「……“悴(かじか)む”?」
「それだ」
 一瞬もどかしげな色をした瞳が、意を得たりとばかりに楽しげに細まる。だが、悴むという単語はクロノスにしてみれば日常的に使うごく当たり前の言葉で、特に目新しくも何ともない。だが、おそらく飛天では滅多に使わない言葉なのだろう。
 飛天は物理的な寒さとは縁のない国だ。南方にあることと、豊富な火山の地熱のおかげで飛天には冬でも厳しい冷え込みが訪れることは少ない。例え寒波が訪れても、翼持つ民達は身内に宿した魔力の炎で暖を取ることが出来る。
 いろいろな意味で寒さに不慣れなのだ。
 そう思ったら未だ冷えたままの手が妙に哀れに感じて、おそらくこれはお門違いな感情なのだろうし、メルキオールに対しても失礼だと思いながら、しかしクロノスは冷たい手を両手で包み込んだ。

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2008/01/01
 神羅

「敵を見た」
 戦いの跡も顕わに裂けた鎧を纏った王は、飛電から降りるとそう言った。
 一体何があったというのか、折れた剣を握りしめたまま飛電にすがって膝を付きそうになるのを、駆け寄った忍が支える。騒ぎを聞きつけてやってきたのだろう、年若い巫女は帰還した彼の姿を見るなり小さく悲鳴を上げ、慌てて彼女の使役する精霊に治癒を命じた。
 精霊の放つ穏やかな淡い光に包まれながら、敗北の風情色濃い風体とは裏腹に、彼の緋色の双眸には強い感情が宿っている。
「獣牙への進軍を中止せよ」 
 はっきりとした声でサイガは言った。
「敵は中央王国に巣くっている。マステリオンと名乗る者が糸を引いている」
 王の無事を確かめに集まった人々と、告げられた事実。辺りに満ち始める喧噪がわずらわしかったのか、王は一言、人払いしてくれ、と言い目を閉じる。
「――ライセン」
「は」
「陣形を組み直す準備を」
「――御意」
 人払いもかねてその場から立ち去ろうとしたライセンを、だがサイガは呼び止めた。足を止めて振り返る前に、背中に向かって言葉が投げられる。
「爺さんを見た」
 密かに息を呑んで振り返った先、サイガは思い出すように遠くを見ている。強い感情が一瞬消えて、痛ましげな色をした。
「――黄龍帝は、幻影となっておられた。……それで、俺に力を貸してくれた」
 ああ。ライセンは思う。
 あの紅い瞳に浮かんでいたのは、怒りではなく憤りであったか。

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2007/12/16
 神羅

 踊る踊る。
 悲鳴と怒号の旋律にのって、躍動する死の舞踏。
 地を振るわせるステップ、踏み出したその先の地面を割って、鋼の腕を振るった先に、翼持つ生き物を引っかける。
 憤怒の女神の名を以て、あだ為す者に制裁を。


 天と地を一瞬白く染め上げ、閃光が空に散る。
 遠い断末魔を聞くより早く、次の獲物へと照準を。
 何より早く、何より正確に、遠矢射る女神の名の通り、一瞬の苦痛より速やかなる死を。

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2007/12/02

 葬列は静かだった。
 喪というのは大抵地味な物だと知ってはいたけれど、その葬祭はかつて王の参謀を務めたという人の物にしてはおそろしく質素で、けれど実直に技を極め、影のように生きた人には相応しい気もした。

 一歩先を行く父の背を、母に手を引かれて追いながら、葬列に加わる。
 鎮魂の歌を歌う、あの金の髪の女の人は領主の妹姫だろうか。綺麗だけれど悲しい声だ。
 ふと気付くと、母の手が小さく震えていた。盛りを過ぎても美しい母の肩を、慰めるように父が引き寄せた。黒のドレスにぽつりと雫が落ちた。
 葬列は静かに進んでゆく。彼はそっと母の手を離した。母だけではなく、父も悲しいだろうと思ったからだ。

 進む人の波をかき分けて、彼は列の最前へ出る。そこにあるのは飛天の神の祭壇と、その前に置かれた白い棺だ。固く閉ざされた蓋の上には、花の山が出来ている。

 君も花を、声に振り仰ぐと、明るい金髪に優しげな面立ちの男性が立っていた。飛天の領主だ。今はもう王位はないから領主様と呼ぶことになっているが、英雄である彼を慕って、未だに王の尊称を使う人も多い。
 彼が見上げていると、見事な赤い翼のその人は、ふと表情を緩めた。
「飛天の教会ではね、花を積んで最後の贈り物にするんだよ」
 だから君も、促されて、彼は棺の前に進み出た。
 その間にも花は雪のようにつもってゆく。

 これからこの棺はとても高い温度の炎で焼かれるのだ。
 土ではなく、空に還れるように。

 彼は母に渡された花束を見下ろす。
 ――最後の贈り物。
「……嘘つき」
 呟いた言葉は、糾弾だというのに泣き出しそうな声になった。
「また、練習付き合ってくれるって、爺さん言ったじゃないか」
 オレはまだ爺さんのこと負かしてもいなかったのに。
 何でいなくなっちゃうんだ、なあ、爺さん。

 投げた花束は、ゆっくりと回転しながら弧を描いて、花山の上にとさりと落ちた。
■■■

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2007/11/22

「――っ悪巫山戯は、」
「悪巫山戯?」
 シーツの隙間から滑り込んでくる声のトーンが低くなって、知らず手を握りしめた。その手首に巻き付いた紐をなぞる感触がする。いっそそれから進む気の無いような丁寧な動きで、絹の鈍く光る縄目をなぞる指先は嫌味なくらい整っているだろう。
「散々はぐらかして」
 僅かに食い込んだ皮膚の上をつと指先が掠めていく。
「応えもせず」
 く、と紐を引かれて腕が軋む。
「一体どちらが悪巫山戯なのでしょう?」
 囁かれた声に皮膚の下の血がざわめいた気がした。
「――ねえ、陛下?」

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2007/11/20
 神羅

 ……大した犠牲じゃない。
 私の、この片眼一つで己の命と弟の命、購えたのだから安い物だ。
 それに、もう片眼は未だ残っている。完全に盲てしまったわけでもない。

 そう思っていたのに、失血に倒れた床で、傷の発する熱に魘されながら、唐突に惜しくなった。
 理由なんて一つしかない。弟が泣くから。
 何度も何度も謝るから、お前の所為じゃないと言った。庇わなければどうせどちらか死んでいた。
 泣くな、とも言った。

 泣きそうな顔で手ぬぐいを絞るのを見ながら、こんなに悲しくなるくらいなら、眼なんてやらなければ良かった、と思った。

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 神羅

「無血の玉座などあり得ない」

 背後からの声にぴたりと足が止まった。
 白く高い天井に、足音の残響だけが空虚に響いて消える。

「その手でどれだけの敵を殺した?敵だけじゃない、どれだけの兵を犠牲にした。どれだけの民を裁いた?」
「……やめてください」
「見ろ」
 
 眼下を視線で指して、父は続ける。

「……っやめてくださいと、」
「お前の手は真っ赤だ。解るな?翼よりももっと濃い、絡みついて取れない、民の血の色だ」
「貴方が!」
 たまりかねてアレックスは叫んだ。

「貴方がそれを言うのですか!他でもない、貴方が!」

 叫び声が暗い天井に跳ね返る。
 アレックスは理解できない。したくもない。


「私だからこそ言うのだよ、愛し子よ」


 そうして微笑む彼を理解できない。

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 神羅

 かくれんぼが好きだった。


 野を渡る風、芒の原。
 枯れ草の間に身をかがめて、もう良いよ、とそう叫ぶ。

 こうして隠れてしまえばもう見つからない。枯芒は、子供がかき分けて進むには高すぎた。
 姉が自分を探してくれるのが嬉しかった。
 ほんの少しの優越と、それから明確な理由のない恐ろしさ。
 それを押し込めてじっとしていると、じきに姉は自分の名を呼び出すのだ。出ておいで。もう降参だ、と。


 せつな。

 せつな、
 せつな、木枯らしと同じ色をした声は幼子が呼ばわるようで。

 泣き出しそうな声に立ち上がった。


 おねえちゃん。
 ごめん。
 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

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2006/12/25
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