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2024/09/23

「取引をしましょう、私と」
 高貴な出自を伺わせる女が口にしたのは、意外な申し出だった。

「……取引たぁ良く言うぜ。俺ァ仲間は売らねぇよ」
「それはよく聞き及んでおりますわ。貴方の船は結束が固いそうですね。ですから貴方にそういったことはお願い致しません」
「へぇ?じゃあ何が欲しい?」
「北への航路を」
「……はん」
「聞けばあなた方は海域でも有名な一団であるとか。あの辺りの海にはお詳しいのではありませんか?」
「……それを教えりゃ命だけは助けてくれるってわけか?え?」
「それだけではご不満でしょう?お仲間のお命も、今回ばかりは見逃しましょう。それから、別途報酬を」
「随分気前がいいじゃねぇか。裏を疑うぜ、普通はよ」
「正当な取引だと思いますが?私は誇りにかけて、足下を見たり致しません」
「……俺と仲間の命、それから別の報酬と、北の大陸への航路。それで良いんだな?」
「ええ」
「……いいぜ。その話、乗ってやっても。だがよ、その別途報酬ってな、何用意するつもりだ? お姫様」
「貴方が欲しいもので、私に用意できるものなら、何でも。お金でも船でも用意いたしましょう」
「ハ、流石王族はスゲェモンをポンと出すと言うねぇ。だがよ、俺がそんなありきたりなモンで満足すると思うかい」
「さあ……どうでしょう。私は貴方ではありませんので」
「あんた等みたいなご身分の奴らに尻尾振るハメになって、俺がそれで腹の内煮え立たせてねぇとでも?――なァ、あんたが欲しい、って言ったらどうするよ?」
「……無欲な方ですね」
「ハァ?」
「私の矜恃を汚すだけで構いませんの? それで貴方には何の益もありませんのに」
「……あんた、自分の言ってる意味が解ってんのか」
「貴方、勘違いしておられます。目的のためには誇りすら捨てた振りをするのが、私の矜恃です」
「………………」
「それだけで、構いませんの?」
「……クソ、あんたみたいなヤツは苦手だ。いらねぇよ、俺が欲しいのは――船だな。あんた等から自由になったところで、どこにも行けねぇんじゃ様にならねぇ」
「それは重畳ですわ。お互いにとって」
「ああん?」
「私も、航海に協力してくださった方を、断頭台へ連れて行くのは嫌ですから」

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「……あの二人のことだけどさ」
「んー?」
「結局どうなの?デキてるの?」
「ぶっ」
「……そんなに面白いこと言った?」
「おま……面白いんじゃなくって……こんなとこでそんな話題振らなくったっていいだろ」
「やだねー、こんな所だから振るんじゃないか。場末……でもないけど、適当に夜も更けた酒場だし、下世話な話がお似合いじゃない?」
「そりゃそうかも知れねーけどな……仲間内のこと噂すんのは」
「まあ本人が嫌がってるとこに、火のない煙立てるのはどうかと思うけど。でも最近いい雰囲気のこと多いじゃない。どうなのかなーって」
「あー……まあ前に比べたらなー……ノンケだと思ってたんだけど」
「え?そう?」
「そうってお前、王子様の方は知らねぇけど、ランビリスの方は全っ然そんな気無かっただろ?」
「ああ、二人ってそっちじゃなくてね。…………ファーラ姫とメリッサの方のことなんだけど」
「…………!?!?」

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「メリッサの手は魔法の手ね」
 ぽん、と投げ出された言葉に一瞬思考が止まった。
「メリッサの手にかかると、ただの粉からパンでもケーキでも出来てしまうんですもの。……私が砂に水を掛けても、そんな風にはならないわ」
 その所為で尊く華奢な手が小麦粉の山に触れるのを危うく許しそうになり、慌ててメリッサはボウルを遠ざける。
「だ、ダメですファーラ様」
 空を切った指先とメリッサを不思議そうに眺めて、ファーラは瞬く。
「いけなかった?」
 何か悪いことでもしただろうか、ファーラの声にはそんな色が滲んでいて、慌ててメリッサは首を振った。
「そうではありませんけど……汚れてしまいますから」
「……そうかしら」
「はい。粉はちょっとしたことで飛びますし」
「でも、私はメリッサの手を汚いとは思いませんけれど」

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2010/08/15

「――あ、ちょっと待って殿下。買い忘れ」
「……戻るのか。この道を」
「そんな顔しない。大丈夫、すぐそこ」
「? 薬屋だぞ?」
「そうだよ。髪の染料はああいうトコで売ってんの」
「……まだ続けるつもりか」
「え?」
「髪。……染めはじめたのは、」
「いいよ殿下。いいよ、言わないで。……そうだね、ここには見せてやりたい奴は居ないねぇ」
「…………妙なことを言った。染めたければ好きにしろ」
「ううん。……ありがと。ねぇ殿下」
「何だ?」
「あたしの母さんの髪の色、覚えてる? 殿下が最後に会ったの、ちいーさい頃だったけど」
「覚えているわけがないだろう。お前の今の髪の色ではないのか?」
「あっは! そっか、そうだよねぇ。覚えてるわけ、ないよね」
「…………」
「あたしもね、実はもう、覚えてない」

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2010/08/10

 主様は滅多にお命じにならんかもしれんがな、
 それでも、儂等自身で手を下さにゃならんことは沢山ある。
 そういうときには、躊躇うな。
 それがお前と、主様の命取りだ。

 主様に向かう刃も毒も、全部受けて果てるのがお前と主様の盟よ。
 え?そうさ、だから解毒の術など要りやせん。

 毒に克つ方法は知らんでいい。
 お前に教えた毒のもな、知らん方がいい。その分慎重に扱えよ。はは。

 不満か。儂は教えんぞ。
 助ける術を知って居れば“まだ”と思うて殺せなくなる。
 いらん情けをかけるでないぞ。
 儂等は“どれだけなら死ぬか”さえ知っとりゃいい。
 それを越えたら……駄目だと思ったら殺してやれ。それが敵でも味方でも、自分でもだ。

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2010/08/07
 Servant

 獰猛な唸り声、陽光を弾き返さないのが不思議なほどの鋭い爪。
――駄目だ、と思った。間に合わない。
 そう思った瞬間、咄嗟に目の前にあった肩を掴んで体を入れ替えた。悲鳴が上がる。誰の?そんなことを考える間もなく、真っ赤なオオヤマネコの口が、視界いっぱいに拡がった。


「――っ無茶は止してください!」
「……ごめんなさい、」
「貴女を守るためにみんな必死なんだ。貴女のそれは、一人の命じゃないんです!」
「……ど」
「え?」
「けれど……あなた方が死んでしまったら、私はもう王女でも何でもなくなってしまいます」
「……何を言ってるんですか。俺達如きが死んだところで、貴女は王女だ。国には陛下も王妃様も、召使いも国民も、沢山居るでしょう。みな貴女を王女と呼びますよ」
「…………」
「……えっ、な、」
「ごめんなさい、泣くのは卑怯ですね」
「いえ、その……言い過ぎました」
「いいえ。……いいえ、いいえ、ありがとう」

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2010/07/04

「……それで?回りくどく人払いまでさせて、何が話したい?」
 一年前、最後に見たときそのままの尊大さで問われて、シカラは内心苦笑しながら、膝を付いて最敬礼を取った。
「いい。今更宮廷ごっこがやりたいわけでもないだろう」
 言われて顔を上げる。膝を付いたまま見上げた青年は鷹揚というよりは面倒そうな表情をしていて、シカラはうっすらと口端を吊り上げた。
「改めまして。ご壮健のようでお喜び申し上げます、殿下」
「お前は随分窶れたな。病でも得たか?」
「はあ……まあ病と言いますか何というか」
 シカラは曖昧に言葉を濁す。胃痛を病というなら病かも知れないが、その胃痛・不眠その他諸々の原因となった出来事は、元を正せば全て目の前の青年が原因と言えなくもない。だが今日はそんな話をしに来たわけでもないし、文句を言いたいわけでも……いや、目の前の「国を追われた王子」という悲劇的な見出しがいかにも似合わないツヤツヤした様子を見ると、一言くらい言いたいこともあるが。ともかく誤魔化してしまうに限る。これでも大国で官僚をしていたのだ、言いたいことを飲み込むのは得意である。
「……この辺りの気候は、私にはあまり合わぬようでして」
「この辺りは風が乾かんからな」
「ええ。向こうにいた頃にはキツイキツイとしか思いませんでしたが、こうして異国へ来てみれば、案外祖国の冬も懐かしいですね」
「それで、そんなに母国の好きなお前が、どうしてこんな所にいる」
 遠慮の無い、探る視線を向けられて、シカラはふ、と息を吐く。やっとここからが本題だ。
「お聞きしますが殿下。国へ戻るつもりはおありに?」
 青年は一瞬虚を突かれたように瞬いて、だがすぐにその面に不満気な色をにじませる。
「有ろうが無かろうが、戻れる状況ではなかろう」
 シカラは笑みを深める。ならば自分の持ってきた情報は役に立つ。
「どうして、どうして。――宰相殿は、北へ兵を向けるつもりですよ」
「――北」
 その呟きは己へ向けてのものかシカラへ向けてのものか、青年の瞳が僅かに硬質な色を帯びる。
 北、そんな曖昧な言い方ではあったが、二人の脳裏にはおそらく共通の地名が思い浮かんでいるはずだ。今は酷く情勢が乱れていて、遠からず瓦解するだろうと目されている国。
「ええ。お偉い様方は柔軟です、掌を返すと言った方がいいですか。休戦を反故にしてまで攻め入るような旨味でも見つかったんですかね。
 あの国を切り取るというのは、元はと言えば殿下、貴方の言い出したことです。……今なら大手を振ってお帰りになれますよ。それ見たことかと」
「……シカラ」
「はい」
「今の話をしたのは私だけか?」
「勿論」
「ではこれ以上は話すな。誰にもだ」

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「ファーラさんは、良いお家のお生まれなのですね」
「……そんなことも解ってしまうのですか」
「ファーラさんの生まれ星は、支配者の星に属していますから」
「そう……私の生まれが解るのなら、占星術で未来も見えるのでしょうか?」
「あまり期待なさらない方がいいですよ。……そうですね、ファーラさんの星は……古い血に強い影響を受けます。しばらくは他の星との交差が多くなりますね。それから……軌跡を辿る気配が」
「軌跡?」
「既に示された運命、用意された道……或いは誰かの後を追うことだと言われています」
「それは……少し、残念な気もしますわ。用意された道からは、逸れてしまったつもりだったので」
「気になさらないでください。私の星詠みは、当たりませんから」

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「これは一番の、って意味。悪い方には使わなくて、良い意味にだけ使うよ」
 うぃん。
「こっちは『蛾』。蝶々に似てるけど、蝶々とは違って、触角に毛が生えてるでしょ?あと蝶々は昼に飛ぶけど、こっちは夜飛ぶ方が多いかな」
 うぃん。
「で、こっちは「お母さん」って意味。えっとね、子供を産むにはお父さんとお母さんが要るけど、生んでくれた方がお母さん。あとはその意味もかけて、……うーんと、自分が育った場所とかに向かって使うこともあるかな……」
 ……うぃ……ん。
「あっははダメ。ダメだよタンジェリン。音が困ってるじゃん。教え方下手なんじゃないのー?」
「うるさいなぁ!じゃあツツガが教えてよぉ。私だってピンと来ないけど、どうやって教えたらいいかわかんないんだもん」
「えー?やだよぉ、わたしも良い教え方なんてわかんないし。でもさ、タンジェリンの教え方って、言葉の意味を教えてるだけじゃない? もうちょっと、身近なとこから教えないと役に立たないでしょ」
「身近って言われても」
「だから、説明するんじゃなくて、実際使うとかして示してみれば? って。さっきのヤツなら、「このギルドでタンジェリンは『一番』剣の扱いが上手い」とかね」
「えへ、煽てられても。……うーん……身近な例かぁ」
「そうそう」
「あ、じゃあね、アクリスにとってお母さんに当たるのは、ランビリスさんだよ」
 うぃん。
「…………なにそれ。ていうか今反応しちゃったよね?」
「え?何か変?」
「変って言うか……お父さんじゃないの?そこは」
「えー、でもランビリスさん、深都で貰った設計図で組み立てた、って言ってたし。で、深都の人も設計図は世界樹から教えて貰ったって言ってたんでしょ? そしたらお父さんは世界樹で、お母さんはランビリスさんかなー、って」
「うーん、理屈はぜんぜんわかんないけど、そこはやっぱりお父さんじゃないかな……」
「そうかな」
「そうだよ……お前もさ、喋れるようになったら、お父さんって呼んであげな? お母さんじゃだめだよ?」
 ……うぃん。

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2010/06/22

「疲れたか?」
 ぷかりと金色の月を浮かべる空の下、甲板に寝そべった少女にカラブローネは近付く。
 船旅には慣れているはずだったが、流石に今日のような大物とやり合ったのは初めてだろう。

 船の横面に叩きつける波、船底を持ち上げる勢いで暴れる異形の体躯。立っているのさえ難しい船上に、少女の声に応じて呼び出された、黄金色の毛並みの巨躯。

 あの見事な毛並みの獅子の咆吼は、異形の動きでさえ制してみせた。少女が獣を呼び出すのは何度も見ていたが、あれを喚び出したのを見たのは初めてだ。つまりは、それだけ大技だったのだろう。
 もしかしたら寝ているかも知れない、途中でそう気付いて足音を立てないようにして近付いたのだが、予想に反してあと数歩、というところでぱちりと少女が眼を開く。闇夜の中でうっすら光を弾く瞳がこちらを向いて、喜びに輝いた。
「カラブローネ!」
「んなとこで寝てっと風邪ひくぞ」
「寝てないよ。力を還してる」
「……還すゥ?」
 そうだよ、とカラブローネの胡乱な視線にも気分を害した様子もなく、蛮族の血を持つ少女は寝転がったまま、月を見上げる。
「力は、自分の中にあるだけじゃなく、周りからも借りるの。でもそうすると、自分の中に色んなものが溜まりすぎて何も入らなくなっちゃう。だから、いっぱいになる前に地面に力を還してあげる」
「はーん。喰って出すみてぇなもんか」
「かもしれない」
「それと寝っ転がってるのとどういう関係があんだ」
「地面に触ってると、力還しやすくなる。寝転がって、思い浮かべるの。
 最初は種で、芽が出て、葉が出て、白いつやつやした肌がだんだん緑になって、茶色になって硬くなって、深く深く、世界樹みたいに深くまで根を下ろす。
 深く深く。地面の一番深いところ……」
 言いながら、少女はうっとりと目を閉じる。
 そうしている彼女は、確かに眠りや休息とは違った空気を纏っていたが、カラブローネには彼女の言う感覚はさっぱり解らない。ただ、少女の言うことはいつもこんな調子だし、寝言や幻覚の見せる世迷い言にしては妙に説得力があるから、星詠み達が星空を観て得体の知れない何かを読み解くように、少女にだけ見える何かがあるのだろうと思っている。
「でも、ここにゃ土はないぜ」
「うん。だから、海の上にいるときは鯨になる」
 鯨ねぇ、とカラブローネは呟く。樹といい鯨といい、何か大きなものになるのを想像すればいいということだろうか。
 首を傾げるカラブローネを他所に、少女はおだやかに語る。
「大きな大きな魚。船の周りをゆっくり回って、ゆっくりゆっくり、海の底に下りていく。
 水色の水が青くなって、黒になって、……光るクラゲの横を通って、ゆっくりゆっくり、海の底まで……
 砂地の底の、もっと奥まで……大きな力の源まで……私はその周りをゆっくり回る。そうすると、だんだんそれに引き寄せられて、ゆっくりゆっくり、深くまで取り込まれてく……そうして世界と一つになるの」
 ふわり、と開いた少女の焦げ茶色の眼に、ぼやりと金色の光が映り込む。――深海に住むという、発光する魚たちの光の色。
 思わずぎょっと眼を見開いたカラブローネを、不思議そうに瞬いて少女が見上げた。――何のことはない、少女の瞳に映り込んでいるのは、今は天頂近くにある月の光だ。
 そう、何のことはない。彼女はただの蛮族の少女で、人買い商船に攫われて異国の地に連れてこられたあわれな娘だ。それだけだ。彼女はこの世のものではない獣を喚ぶが、彼女自身は人以外の何者でもない。
「……わかったから、終わったらさっさと部屋戻れ。いいな」
「うん。……カラブローネも一緒にやる?」
「やらねぇよ」

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2010/06/16
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