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2024/09/23
 神羅

 木々深く緑は濃さを増し、連なる岩峰はますます鋭く、人はおろか獣をも易々とは寄せ付けぬ地であった。

 山の化の見せた幻か、或いは深山の霧に精でも宿ったか。いつ現れたとも知れぬ彼の者は、気配だけは希薄なまま、それでもその輪郭の内側には確かな存在感を以て、佇んでいた。
 ここは人の子やましてや鬼の来るような所ではないと、言った彼の者の、白い肌白い尾に黄昏色の角、石と同じくらいの歳月を経た、赤瑪瑙のような瞳だけがやけに赤かった。

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 神羅

 ステンドグラスは鮮やかに、けれど確実に光の力強さを奪って、堂内は薄暗い。硝子越しの光を浴びた十字架からの影が、狭い堂内の信徒席を横切って足下に伸びていた。
 整然と連なった椅子の間へと足を踏み出せば、祈りが昇るようにと高く作られた天井には、賛美歌ではなく靴音が響いた。
 導きを与える父も、告解を行う信徒も、ここには居ない。
 触れることを許さない絶対のもののように、十字架は堂内に屹立している。
 それは彼の知る神によく似て、けれどまったく違うものだ。
 この土地の人々の信仰を否定する気はないが、それでもこの羽根負う人々の神と、彼の知る神との差異は、世界を統べる存在を知る彼の目から見れば酷くもどかしい。
 この地の人々も、かつては確かに知っていたのだ。
 世界を統べる圧倒的な存在。生みだし、壊す。そうして世界を管理する存在の姿を。
 けれどいつの間にか違ってしまった。
 一つのことを長く伝えてゆくには、人という種族は短命で、また多くを知りすぎていた。
 姿を変えて行き着く先の神は、どんな姿をしているのだろう。

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 神羅

 目を閉じると、見えない物が見えてくる、なんて思うのは変だろうか。


 視覚を遮断して、音を追いやって、触れている指先に集中すると、いつもは見えない物が見えてくる。

 例えば少しの体温の違い。(末端だからか少し低い)
 切りそろえられた爪の感触。(長さは指先までとほとんど変わらない)
 辿ったわけではないけれど、爪の先から掌までの指の長さ。(掌と一対一の綺麗な形をしている)
 微かに感じる指紋のざらつき。(これはきっと眼を開いていたのでは解らない)
 間接の皮膚の柔らかさとか、硬くなった掌だとか。(積み重ねてきた、動作の重み)

 ゆっくり握ったら皮膚の内側の骨の形に触れる。

 ……あ。さっきより少し、温かい。


 たったこれだけでこんなにいろいろ解るのに、もっと知りたいと思うのは、変かな。

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 50g
 神羅

 卵一つ分の重さだ、と言った人が居た。

 それは魂の重さだ。
 卵の中にはこれから生まれる魂が入っていて、それの重さなのだという。
 御伽噺にあるように、魂はふわふわと軽くて、すぐにどこかへ飛んでいってしまうから、殻でそれを閉じこめておくのだ。
 生き物ならば魂を繋ぎ止めているのは心臓で、心臓が止まれば魂が離れて死んでしまう。
 だから抜けた魂のぶんだけ、亡骸は軽いのだそうだ。けれど魂はふわふわと浮いているから、それが無くなったぶんだけ死体は重く感じるのだと。
 まるでその差を知っているような口ぶりで、言ったのははたして誰だっただろうか。

 もっともらしい理屈の言葉は、けれど矛盾に満ちていて、もちろん卵一つ分の重さなんて解るわけがない。
 だから少しばかり不謹慎な、戯れの話ではあったのだけれど。






 抱き起こした体がとても重い気がするのは疲労の所為だろうか。鎧の所為だろうか?それとも。

 ああ、今やっと思い出しました。
 戯れに卵一つと言ったのは、ねえ、貴方でしたね。

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2008/10/05
 神羅

 力を失った先王には、魔王は注意を払わないだろう。だがそれでも、再び魔王が己も含む彼等に洗脳の手を伸ばしてこない保証はなかった。心と記憶を支配する相手の手管を知ってはいても、二度目のそれに抗いきれるとは限らない。
 それに例え力を失っていても、操ることが出来さえすれば、部族王への不意打ちも可能だ。何より再び敵として彼等の前に立たせることが出来れば、その精神的なダメージは計り知れない。一度手に掛けようとした父に、もう一度刃を向けられるか。
 ――おそらく彼等は戦うだろう。恐ろしいほどの葛藤を抱えながら。
 
 半減した力より、城を――領地を守る責務より、もう一度彼等の前に立たなければならない可能性。それが彼を一番強くここに縛りつけている。

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2008/09/01
 神羅

 悲しくなどはないのです。
(私は彼を愛していたのですから)
 泣く必要などないのです。
(彼は生きて戻ったのですから)

 けれど、


(本当は、)

(失いたくなかった。あなた方のどちらも)



(……選べないほどに愛していた)

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 神羅

 身の内の炎を燃やして、人は戦うのです。

 感じますか、燃える業火を。
 それは貴女を守らんとする火。
 熱く燃える焔は、いつでも貴女に温もりを与えたでしょう?
 鮮やかな光は、決して貴女を孤独にはしなかったでしょう?
 そうして貴女は護られてきたのです。

 さあ目覚めましょう、眠り姫。
 小さくとも儚くとも、貴女の内にも炎はあるはず。
 その炎で貴女の絶望を焼き尽くすのです。

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2008/08/19
 神羅

 あんまり遊び歩かないでくださいよねぇ、呆れを含んだ声で、鮮やかな赤毛の騎士は言った。

「何を言うのかね、ここ一月は大人しくしていたじゃないか」
 セラーの棚に眠る葡萄酒のラベルを吟味しつつ、メルキオールは言う。お世辞にも真面目とは言えない態度に、ラモンはやれやれと傍らの樽に腰掛けた。例え極めて私的な場とは言え、此処も王宮内である。本来なら王であるメルキオールの許し無しに、しかも樽に腰掛けるなど言語道断だ。それが解らないラモンではないが、今更こんな所で、しかもこの人相手に騎士の礼儀を取るのも馬鹿らしい。
 城の食料庫の奥、ワインセラーでくすねるボトルを選ぶ王と、それに礼を取る将軍の図、なんて滑稽すぎる。

「ま、ここ最近だけはこうやってワインくすねたり隠れん坊したりしかしてないみたいですけど?後を引く遊びってのもあるって、解ってるでしょ」
「またそんな話か」
 困ったものだ、と言うようにメルキオールは肩を竦めた。尤も、気になる銘柄でもあるのか棚を覗き込んだままの受け答えではあったが。
「金と女ってのはなかなか切れないんだから。……それ、開けるなら37年のにしてね」
 何故、と問うような視線を向けられ、ラモンは片目を瞑ってみせる。
「そこの銘柄、ウチの領地の畑で作ってるの」
「なるほど、詳しいわけだ」
 小さく笑って、メルキオールはボトルを取り出す。緑色のガラスに貼られた薄茶の紙に、箔押しで書かれた銘柄と数字。

「それで、今度は何が後を引いていると?」
「一昨日のことだけど。清楚な訳あり風のレディが城門の所に来てて、ね」
 やれやれとメルキオールは額を抑える仕草をする。お腹の膨れたそのレディは、一体どんなシチュエーションを語ったのだろう。
「私は一体どんな人間だと思われているんだろうね」
「遊び人でしょー?」
 戯けて答えて、ラモンは足を組み替えた。それで、と変わらぬ調子で問う。
「心当たりは?」
「私はそういう女遊びはしないよ」
「どうだか、ってのが大半の意見だと思いますよー?」

 誤解だよ、呟いて、メルキオールはボトルの底を右手で支え持つ。左手は瓶の口を包み込むように沿えた。一拍の間をおいて、そのまま彼は螺子式蓋の瓶でも開けるように、ボトルの口を捻る。と、まるでガラスが粘土にでも変わったように、ボトルは手を添えた部分からあっさりとねじ切れた。

 呪文すらなく炎の力を行使した彼は、静かに微笑んで、

「王子を生む女性は、たった一人で充分だと思わないかい?」

 上等な翡翠の色をした瞳に得体の知れない色を浮かべる主君に、少しだけ薄ら寒いものを感じながら、ラモンは少し考える風を装ってから、それもそーですね、と軽く答えた。

「確かに、貴方がアレックス様やアルマ姫の立場を悪くするようなことをするわけがないわ」
「解ってくれて嬉しいよ」
 言って彼は、溶けた断面を曝すボトルをラモンに差し出した。

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2008/07/30
 神羅

 促されて、アレックスは進み出る。建物の影から出た瞬間、強い日差しに灼かれて一瞬視界が白熱した。視力が戻るのと同時に、わっという歓声が上がる。広場の石畳を埋め尽くした人々。


 血も地位も経験も知恵も愛情も、およそ親として与えられるものは全て与えてくれた父だったけれど、それでも最後まで自由だけは与えてはくれなかった。
 ――だからきっと、今度も逃がしてはくれないのだろう。

 否、くれなかっただろう、と言うべきなのだろうか。彼はここには居ないのだから。

 飛天王様万歳、誰かが言った。
 それに優雅に微笑みかえして、そうして彼は、宣戦布告を口にする。

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 神羅

 昔、向かい合ってチェスをしたのを覚えていますか。
 未だこの剣が僕のものではなかった頃のことです。



 「――っ何故です…っ」
 剣を合わせた一瞬、予想以上に重い衝撃を堪えて囁くように問うた。

 何故。貴方が。何故。此処に。何故。こんな。何故。


――勝敗を決するのは知恵と策だ。
 では貴方は一体何に負けたというのですか!
 何故手を止めてくれないのです。何故答えてくれないのです。
 貴方はそんな力に屈するような、弱い人ではなかったでしょう!



(無我夢中で振り下ろした腕。)

いやだ。

(剣の先から吹き出した純度の高い炎は、真っ直ぐに、)

嫌だ。
こんな。

(剣の示す標的へと、)

ああ……!


「  」

(唇だけで、アレックスは叫んだ。)



――“キング”は自殺サクリファイスできない。

 ああ、逃げ道なんて何処にもない。


王を名乗ったその日からどんなことにも耐えると誓ったけれど。でも、こんなのってないでしょう神様、これが試練なら貴方を呪う!


(そして、渦を巻いた炎は、)

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