「……アレックスはどこにも行かないだろうね?」
ぽつりと冗談のように呟かれた、けれど案外真剣な調子を含んだ言葉に、アレックスは呆れながら言い返す。
「当たり前です!あまりふざけた女の子扱いすると怒りますよ」
「ああ、私が悪かったよ。……しかし、まだ気にしていたのか」
良いじゃないか、貶されているわけではないのだから、言う声に、それでもアレックスは不満そうな顔を崩さない。
「悪いですか。男なのに女の子みたいだなんて、一国の王としての威厳が……」
そこまで言って、ふとアレックスは口を閉ざす。肩の力を抜いて、ふ、と息を吐いた。
「……とにかく、僕だって『男の子』なんです。……解るでしょう」
ぽつりと冗談のように呟かれた、けれど案外真剣な調子を含んだ言葉に、アレックスは呆れながら言い返す。
「当たり前です!あまりふざけた女の子扱いすると怒りますよ」
「ああ、私が悪かったよ。……しかし、まだ気にしていたのか」
良いじゃないか、貶されているわけではないのだから、言う声に、それでもアレックスは不満そうな顔を崩さない。
「悪いですか。男なのに女の子みたいだなんて、一国の王としての威厳が……」
そこまで言って、ふとアレックスは口を閉ざす。肩の力を抜いて、ふ、と息を吐いた。
「……とにかく、僕だって『男の子』なんです。……解るでしょう」
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仰角約36°、標的移動速度24km/h.
発射角度38°、初速は音速の手前。ここまではコンマ1秒以下の判断。
さあここからが腕の見せ所、計算通りに飛んで頂戴!
Lock-on. Fire!
ドォン、体の奥まで響く音と共に、掲げた左腕、肩、それから順番に足までを衝撃が駆け抜けるけれど、鋼の体はそんなことじゃ壊れない!
わずかな弧を描いて飛んだ砲弾は、見事羽根兜にぶち当たった瞬間炸裂して、周りの羽根野郎も巻き込む炎と衝撃波を撒き散らす。
天使?とんでもない!
そう言いたくなるような悲鳴を上げて落ちていく奴らを確認したところで、金に染まっていた視界がすっと明度を落とす。
まったく、撃ち落としても撃ち落としても減りやしない。
ふっと息を吐いたところで、上からの怒号。(ああ、悲鳴じゃない、って聞きわけられるようになっちゃった!)はっとして振り仰ぐと、降ってくる槍と矢の雨。舌打ちして腕を掲げかけたところで、視界を黒い巨体が塞ぐ。
風切り音を纏った腕の一振りで凶器の雨が薙ぎ払われ、硬質の音が響く。
巨躯の薙いだ直後の空間に向けて、私はセットしていた銃弾を撃ち込むっ!鉛弾が装甲を貫通する音と、盛大な地響きとを背景に、鋼の巨躯が降り立った。
身を起こし、濃い緑の髪をなびかせて、姉さんが振り返る。
「気をつけろ、あいつ等死角を狙ってくるぞ」
「わかってるわよ、ちょっと油断しただけ。第七の将軍は?」
「もうすぐ着くらしい」
「じゃ、それまでに片付けちゃいましょ、あの人の仕事が無くなるくらいに!」
「ああ、遅く来たことを後悔させてやる」
揃って不敵な笑みを浮かべて、私達は駆け出す。
双子の戦女神、ここに降臨。
発射角度38°、初速は音速の手前。ここまではコンマ1秒以下の判断。
さあここからが腕の見せ所、計算通りに飛んで頂戴!
Lock-on. Fire!
ドォン、体の奥まで響く音と共に、掲げた左腕、肩、それから順番に足までを衝撃が駆け抜けるけれど、鋼の体はそんなことじゃ壊れない!
わずかな弧を描いて飛んだ砲弾は、見事羽根兜にぶち当たった瞬間炸裂して、周りの羽根野郎も巻き込む炎と衝撃波を撒き散らす。
天使?とんでもない!
そう言いたくなるような悲鳴を上げて落ちていく奴らを確認したところで、金に染まっていた視界がすっと明度を落とす。
まったく、撃ち落としても撃ち落としても減りやしない。
ふっと息を吐いたところで、上からの怒号。(ああ、悲鳴じゃない、って聞きわけられるようになっちゃった!)はっとして振り仰ぐと、降ってくる槍と矢の雨。舌打ちして腕を掲げかけたところで、視界を黒い巨体が塞ぐ。
風切り音を纏った腕の一振りで凶器の雨が薙ぎ払われ、硬質の音が響く。
巨躯の薙いだ直後の空間に向けて、私はセットしていた銃弾を撃ち込むっ!鉛弾が装甲を貫通する音と、盛大な地響きとを背景に、鋼の巨躯が降り立った。
身を起こし、濃い緑の髪をなびかせて、姉さんが振り返る。
「気をつけろ、あいつ等死角を狙ってくるぞ」
「わかってるわよ、ちょっと油断しただけ。第七の将軍は?」
「もうすぐ着くらしい」
「じゃ、それまでに片付けちゃいましょ、あの人の仕事が無くなるくらいに!」
「ああ、遅く来たことを後悔させてやる」
揃って不敵な笑みを浮かべて、私達は駆け出す。
双子の戦女神、ここに降臨。
( 2008/02/03)
各々牙を剥け爪を研げ。
耳を澄ませろ目を光らせろ、持ちうる限りの全てを尽くせ。
小細工も知恵も何も持たない 本物の獣達のように、
身を低くし、全身をしならせ、
稲妻より速く 風よりも身軽に
さあ駆け抜けろ!
耳を澄ませろ目を光らせろ、持ちうる限りの全てを尽くせ。
小細工も知恵も何も持たない 本物の獣達のように、
身を低くし、全身をしならせ、
稲妻より速く 風よりも身軽に
さあ駆け抜けろ!
( 2008/01/29)
あ、
と、思った。
体が動かなかった。こんな時にどうするべきかは知っていたのに。
自分に向けられた視線ではなかったのに、その暗い目を見た瞬間足が竦んだ。
時間の流れが突然緩やかになったかのように、
その誰かは白刃を翳して突き進んでくる。
滑らかな石で出来た広間の床、
そのごく目立たない石の継ぎ目を革の靴が踏み越えた瞬間、
反射的に片足を後ろに踏み出した。
それでも目が離せない。
ステンドグラスの弱い光を凶器がきらりと弾いて、
視界の端で何かが動いた気がした、
次の瞬間、背後から回された腕が肩を拘束して強い力で後ろに引く。
何が起きたのかを認識する前に、僕の視界は塞がっていた。
「アレックス」
酷く優しげな声で父は僕の名前を呼んだ。
「見てはいけないよ」
掌の暖かさはしっかりと僕の視界を塞いでいた。
けれど、
高い金属音が五回。
四回目はは舌打ちとともに一際高く、そして少し遅れて、床に落ちて跳ね返るように最後の一回。
それに被って空を切るような鋭い音と、短い呻き声。
最初に一つ、ぴしゃ、
次いでびしゃびしゃと大量の水が落ちる音。
少し遅れて重い何かが床に叩きつけられる音。
興奮した男の荒い息ももうきこえない。
人のざわめき。
ご苦労、と誰かが言った。一拍してから、父の声だと気付いた。
視界を塞がれても。
この場で何が起こったのかは明白で。
鼻先を掠めた鉄錆の匂いに思わず鼻を覆った僕に、お前にはまだ早いんだ、と父の声が囁いた。
と、思った。
体が動かなかった。こんな時にどうするべきかは知っていたのに。
自分に向けられた視線ではなかったのに、その暗い目を見た瞬間足が竦んだ。
時間の流れが突然緩やかになったかのように、
その誰かは白刃を翳して突き進んでくる。
滑らかな石で出来た広間の床、
そのごく目立たない石の継ぎ目を革の靴が踏み越えた瞬間、
反射的に片足を後ろに踏み出した。
それでも目が離せない。
ステンドグラスの弱い光を凶器がきらりと弾いて、
視界の端で何かが動いた気がした、
次の瞬間、背後から回された腕が肩を拘束して強い力で後ろに引く。
何が起きたのかを認識する前に、僕の視界は塞がっていた。
「アレックス」
酷く優しげな声で父は僕の名前を呼んだ。
「見てはいけないよ」
掌の暖かさはしっかりと僕の視界を塞いでいた。
けれど、
高い金属音が五回。
四回目はは舌打ちとともに一際高く、そして少し遅れて、床に落ちて跳ね返るように最後の一回。
それに被って空を切るような鋭い音と、短い呻き声。
最初に一つ、ぴしゃ、
次いでびしゃびしゃと大量の水が落ちる音。
少し遅れて重い何かが床に叩きつけられる音。
興奮した男の荒い息ももうきこえない。
人のざわめき。
ご苦労、と誰かが言った。一拍してから、父の声だと気付いた。
視界を塞がれても。
この場で何が起こったのかは明白で。
鼻先を掠めた鉄錆の匂いに思わず鼻を覆った僕に、お前にはまだ早いんだ、と父の声が囁いた。
昔々の話。
一体直前に何があったのかはもう覚えていない。
ただ重い音にはっとした私が、何が起きたのだろうと顔を上げようとしたら、突然ぎゅうと抱き締められた。
誰だろうなんて考えるまでもなく、私に遠慮無くそうするのはお父様かお兄様しかいなくて、頭の後ろにある大きな手はお父様のものだった。
私の顔はお父様の胸の辺りに押しつけられていて、少しだけ苦しい。
私がそう言おうとする前に、アルマ、とお父様が私を呼んだ。
それがとてもとても優しそうな声だったので、何かしら、と私は上を向こうとするのだけれど、それを邪魔するように、お父様は尚更強く私を抱き締めた。耳まで腕で覆われていて、それで視界の隙間も全て隠される。私には何も見えない。きこえない。
少しだけお父様の匂いがする。
何かが床にぶつかる重い音がしてから辺りに漂いだしていた錆の匂いは、もう私には届かなかった。
一体直前に何があったのかはもう覚えていない。
ただ重い音にはっとした私が、何が起きたのだろうと顔を上げようとしたら、突然ぎゅうと抱き締められた。
誰だろうなんて考えるまでもなく、私に遠慮無くそうするのはお父様かお兄様しかいなくて、頭の後ろにある大きな手はお父様のものだった。
私の顔はお父様の胸の辺りに押しつけられていて、少しだけ苦しい。
私がそう言おうとする前に、アルマ、とお父様が私を呼んだ。
それがとてもとても優しそうな声だったので、何かしら、と私は上を向こうとするのだけれど、それを邪魔するように、お父様は尚更強く私を抱き締めた。耳まで腕で覆われていて、それで視界の隙間も全て隠される。私には何も見えない。きこえない。
少しだけお父様の匂いがする。
何かが床にぶつかる重い音がしてから辺りに漂いだしていた錆の匂いは、もう私には届かなかった。
「クロノス」
「なん、」
窓を閉めて振り返りかけたその瞬間を狙い澄ましたように、頬を冷たい感触が包む。いつの間にか手袋を脱ぎ捨てたメルキオールはクロノスの両頬に掌を押し当てたまま、おかしいな、と呟いた。
「何がだ」
「熱いのか冷たいのかよく解らない」
「冷えすぎて感覚が狂っているんだろう」
「そういうものなのかい?」
熱すぎるのにも冷たすぎるのにも似ているのに痺れているようだ、台詞と共に人肌の限界まで冷えた手が、露出した喉まで下りてくる。覚悟していれば驚くような冷たさでもないので、クロノスは好きなようにさせた。
男にしては少し細めの指が顎骨の辺りをぎこちなく撫でてゆく。クロノス、とメルキオールが呼んだ。
「このまま縊り殺されるんじゃないか、と思ったことは?」
「……それは冗談のつもりか?」
「もし冗談ではなかったら?」
言いながら、更なる温もりを求めてか指が襟元まで下りてきたので、慌ててクロノスは手首を握って寛げる手を阻止する。握ったそこも矢張り同じように冷えていた。
じんと伝わる冷たさにクロノスは僅かに眉を顰める。冷えすぎだ。
その表情をどう取ったのか、苦笑の中に悪戯っぽさを含ませてメルキオールは小さく笑う。
「心配しなくても」
手の甲にやんわりと冷えた指先が触れた。
「まだ上手く手が動かないから無理な話だ。……なんと言ったかな、こういうのを」
「……“悴(かじか)む”?」
「それだ」
一瞬もどかしげな色をした瞳が、意を得たりとばかりに楽しげに細まる。だが、悴むという単語はクロノスにしてみれば日常的に使うごく当たり前の言葉で、特に目新しくも何ともない。だが、おそらく飛天では滅多に使わない言葉なのだろう。
飛天は物理的な寒さとは縁のない国だ。南方にあることと、豊富な火山の地熱のおかげで飛天には冬でも厳しい冷え込みが訪れることは少ない。例え寒波が訪れても、翼持つ民達は身内に宿した魔力の炎で暖を取ることが出来る。
いろいろな意味で寒さに不慣れなのだ。
そう思ったら未だ冷えたままの手が妙に哀れに感じて、おそらくこれはお門違いな感情なのだろうし、メルキオールに対しても失礼だと思いながら、しかしクロノスは冷たい手を両手で包み込んだ。
「なん、」
窓を閉めて振り返りかけたその瞬間を狙い澄ましたように、頬を冷たい感触が包む。いつの間にか手袋を脱ぎ捨てたメルキオールはクロノスの両頬に掌を押し当てたまま、おかしいな、と呟いた。
「何がだ」
「熱いのか冷たいのかよく解らない」
「冷えすぎて感覚が狂っているんだろう」
「そういうものなのかい?」
熱すぎるのにも冷たすぎるのにも似ているのに痺れているようだ、台詞と共に人肌の限界まで冷えた手が、露出した喉まで下りてくる。覚悟していれば驚くような冷たさでもないので、クロノスは好きなようにさせた。
男にしては少し細めの指が顎骨の辺りをぎこちなく撫でてゆく。クロノス、とメルキオールが呼んだ。
「このまま縊り殺されるんじゃないか、と思ったことは?」
「……それは冗談のつもりか?」
「もし冗談ではなかったら?」
言いながら、更なる温もりを求めてか指が襟元まで下りてきたので、慌ててクロノスは手首を握って寛げる手を阻止する。握ったそこも矢張り同じように冷えていた。
じんと伝わる冷たさにクロノスは僅かに眉を顰める。冷えすぎだ。
その表情をどう取ったのか、苦笑の中に悪戯っぽさを含ませてメルキオールは小さく笑う。
「心配しなくても」
手の甲にやんわりと冷えた指先が触れた。
「まだ上手く手が動かないから無理な話だ。……なんと言ったかな、こういうのを」
「……“悴(かじか)む”?」
「それだ」
一瞬もどかしげな色をした瞳が、意を得たりとばかりに楽しげに細まる。だが、悴むという単語はクロノスにしてみれば日常的に使うごく当たり前の言葉で、特に目新しくも何ともない。だが、おそらく飛天では滅多に使わない言葉なのだろう。
飛天は物理的な寒さとは縁のない国だ。南方にあることと、豊富な火山の地熱のおかげで飛天には冬でも厳しい冷え込みが訪れることは少ない。例え寒波が訪れても、翼持つ民達は身内に宿した魔力の炎で暖を取ることが出来る。
いろいろな意味で寒さに不慣れなのだ。
そう思ったら未だ冷えたままの手が妙に哀れに感じて、おそらくこれはお門違いな感情なのだろうし、メルキオールに対しても失礼だと思いながら、しかしクロノスは冷たい手を両手で包み込んだ。
( 2008/01/01)
「敵を見た」
戦いの跡も顕わに裂けた鎧を纏った王は、飛電から降りるとそう言った。
一体何があったというのか、折れた剣を握りしめたまま飛電にすがって膝を付きそうになるのを、駆け寄った忍が支える。騒ぎを聞きつけてやってきたのだろう、年若い巫女は帰還した彼の姿を見るなり小さく悲鳴を上げ、慌てて彼女の使役する精霊に治癒を命じた。
精霊の放つ穏やかな淡い光に包まれながら、敗北の風情色濃い風体とは裏腹に、彼の緋色の双眸には強い感情が宿っている。
「獣牙への進軍を中止せよ」
はっきりとした声でサイガは言った。
「敵は中央王国に巣くっている。マステリオンと名乗る者が糸を引いている」
王の無事を確かめに集まった人々と、告げられた事実。辺りに満ち始める喧噪がわずらわしかったのか、王は一言、人払いしてくれ、と言い目を閉じる。
「――ライセン」
「は」
「陣形を組み直す準備を」
「――御意」
人払いもかねてその場から立ち去ろうとしたライセンを、だがサイガは呼び止めた。足を止めて振り返る前に、背中に向かって言葉が投げられる。
「爺さんを見た」
密かに息を呑んで振り返った先、サイガは思い出すように遠くを見ている。強い感情が一瞬消えて、痛ましげな色をした。
「――黄龍帝は、幻影となっておられた。……それで、俺に力を貸してくれた」
ああ。ライセンは思う。
あの紅い瞳に浮かんでいたのは、怒りではなく憤りであったか。
戦いの跡も顕わに裂けた鎧を纏った王は、飛電から降りるとそう言った。
一体何があったというのか、折れた剣を握りしめたまま飛電にすがって膝を付きそうになるのを、駆け寄った忍が支える。騒ぎを聞きつけてやってきたのだろう、年若い巫女は帰還した彼の姿を見るなり小さく悲鳴を上げ、慌てて彼女の使役する精霊に治癒を命じた。
精霊の放つ穏やかな淡い光に包まれながら、敗北の風情色濃い風体とは裏腹に、彼の緋色の双眸には強い感情が宿っている。
「獣牙への進軍を中止せよ」
はっきりとした声でサイガは言った。
「敵は中央王国に巣くっている。マステリオンと名乗る者が糸を引いている」
王の無事を確かめに集まった人々と、告げられた事実。辺りに満ち始める喧噪がわずらわしかったのか、王は一言、人払いしてくれ、と言い目を閉じる。
「――ライセン」
「は」
「陣形を組み直す準備を」
「――御意」
人払いもかねてその場から立ち去ろうとしたライセンを、だがサイガは呼び止めた。足を止めて振り返る前に、背中に向かって言葉が投げられる。
「爺さんを見た」
密かに息を呑んで振り返った先、サイガは思い出すように遠くを見ている。強い感情が一瞬消えて、痛ましげな色をした。
「――黄龍帝は、幻影となっておられた。……それで、俺に力を貸してくれた」
ああ。ライセンは思う。
あの紅い瞳に浮かんでいたのは、怒りではなく憤りであったか。
( 2007/12/16)
踊る踊る。
悲鳴と怒号の旋律にのって、躍動する死の舞踏。
地を振るわせるステップ、踏み出したその先の地面を割って、鋼の腕を振るった先に、翼持つ生き物を引っかける。
憤怒の女神の名を以て、あだ為す者に制裁を。
天と地を一瞬白く染め上げ、閃光が空に散る。
遠い断末魔を聞くより早く、次の獲物へと照準を。
何より早く、何より正確に、遠矢射る女神の名の通り、一瞬の苦痛より速やかなる死を。
悲鳴と怒号の旋律にのって、躍動する死の舞踏。
地を振るわせるステップ、踏み出したその先の地面を割って、鋼の腕を振るった先に、翼持つ生き物を引っかける。
憤怒の女神の名を以て、あだ為す者に制裁を。
天と地を一瞬白く染め上げ、閃光が空に散る。
遠い断末魔を聞くより早く、次の獲物へと照準を。
何より早く、何より正確に、遠矢射る女神の名の通り、一瞬の苦痛より速やかなる死を。
( 2007/12/02)
……大した犠牲じゃない。
私の、この片眼一つで己の命と弟の命、購えたのだから安い物だ。
それに、もう片眼は未だ残っている。完全に盲てしまったわけでもない。
そう思っていたのに、失血に倒れた床で、傷の発する熱に魘されながら、唐突に惜しくなった。
理由なんて一つしかない。弟が泣くから。
何度も何度も謝るから、お前の所為じゃないと言った。庇わなければどうせどちらか死んでいた。
泣くな、とも言った。
泣きそうな顔で手ぬぐいを絞るのを見ながら、こんなに悲しくなるくらいなら、眼なんてやらなければ良かった、と思った。
私の、この片眼一つで己の命と弟の命、購えたのだから安い物だ。
それに、もう片眼は未だ残っている。完全に盲てしまったわけでもない。
そう思っていたのに、失血に倒れた床で、傷の発する熱に魘されながら、唐突に惜しくなった。
理由なんて一つしかない。弟が泣くから。
何度も何度も謝るから、お前の所為じゃないと言った。庇わなければどうせどちらか死んでいた。
泣くな、とも言った。
泣きそうな顔で手ぬぐいを絞るのを見ながら、こんなに悲しくなるくらいなら、眼なんてやらなければ良かった、と思った。
「無血の玉座などあり得ない」
背後からの声にぴたりと足が止まった。
白く高い天井に、足音の残響だけが空虚に響いて消える。
「その手でどれだけの敵を殺した?敵だけじゃない、どれだけの兵を犠牲にした。どれだけの民を裁いた?」
「……やめてください」
「見ろ」
眼下を視線で指して、父は続ける。
「……っやめてくださいと、」
「お前の手は真っ赤だ。解るな?翼よりももっと濃い、絡みついて取れない、民の血の色だ」
「貴方が!」
たまりかねてアレックスは叫んだ。
「貴方がそれを言うのですか!他でもない、貴方が!」
叫び声が暗い天井に跳ね返る。
アレックスは理解できない。したくもない。
「私だからこそ言うのだよ、愛し子よ」
そうして微笑む彼を理解できない。
背後からの声にぴたりと足が止まった。
白く高い天井に、足音の残響だけが空虚に響いて消える。
「その手でどれだけの敵を殺した?敵だけじゃない、どれだけの兵を犠牲にした。どれだけの民を裁いた?」
「……やめてください」
「見ろ」
眼下を視線で指して、父は続ける。
「……っやめてくださいと、」
「お前の手は真っ赤だ。解るな?翼よりももっと濃い、絡みついて取れない、民の血の色だ」
「貴方が!」
たまりかねてアレックスは叫んだ。
「貴方がそれを言うのですか!他でもない、貴方が!」
叫び声が暗い天井に跳ね返る。
アレックスは理解できない。したくもない。
「私だからこそ言うのだよ、愛し子よ」
そうして微笑む彼を理解できない。
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