忍者ブログ
小ネタ投下場所  if内容もあります。
 [PR]
 

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。




2024/09/24

 それはもはや、一つの合図のようになりつつある。


 褐色の指が前触れもなく目の前まで伸びてきて、反射的に目を眇めた。
 像がぼやけるほどの近く、ついと鼻先を掠めて、褐色の指が金属製のブリッジを摘む。
 そのまま眼鏡が引き抜かれて、途端に変わった視界に瞬いた。
 視界に映る、硝子越しではない生の世界は全てがぼやけて、ただ間近に覗き込んできた彼の表情だけがはっきりと見える。
 その瞳にうっすらと満足げな色を宿して、そうして彼は口づけを施すのだ。
 


 それは、彼にとっては世界を見るための大切なパーツだ。
 だからそれを取り払ってしまえば、もう彼の世界の輪郭は曖昧になってしまう。
 瞬いた瞳の瞳孔がほんの少しだけ小さくなるのを見つめて、彼が見えているものが自分だけになればいいと思いながら、口づけと甘ったるい言葉を落とす。

拍手

PR



「もういいの?」
「はい。手入れは終わりましたから」
「家族……じゃ、ないよね。名前、違うし……」
「ええ。仲間、です。……以前は、彼等と一緒に迷宮の底を目指していました」
「こっちの墓地ってことは、エトリアの人だったんだ」
「いえ、彼等は籍を取ったばかりで……でも共同墓地に埋葬される資格はあったので、ギルドの資金で私が場所を用意したんです」
「そっか。……あのさ」
「……はい」
「一緒の所に入れて、そうしてもらえて、この人達はユーディアに感謝してると思うよ」
「…………」
「そう思うんじゃ、楽にならない?」
「……ありがとうございます。でも、彼等は……私を……恨んでいるかも知れません」
「何でそう思うの」
「……私が、彼等を殺したからです」

「私は守りきれなかった。私の盾の内側で、彼等は命を落としたのです」

拍手




2010/07/13

「あんたに話がある」
 およそ人に物を頼むための愛想という物を一切繕わぬ声音に、ルベラはゆるりと戸口を見遣る。
「明日、メンバーに入ってもらいたい」
 白衣を脱いでしまえば、到底治療に携わる者とは思えない派手な出で立ちの男は、軽く扉の縁に手をかけたまま言う。だがその内容とは裏腹に、男の口調は命令するような、有無を言わせぬそれだ。
「随分急な話だな。だが、磁軸を使えるのは五人までだ。私と替わるのは誰だ?君か?」
 ルベラの問いに、男は笑う。知っているくせに。そう言いたげな皮肉な笑み。
「冗談。――ユーディアだ」
「……ほう?」
 ルベラはゆるやかに一つ瞬いた。
「その彼女本人はどうしている」
「よく寝てるぜ。残念だけど自分の部屋で」
「では、これは君の一存というわけか」
「メンバーの状態見て、必要なら無理にでも休ませんのも俺等メディックの仕事なんだよ。建前だけどな」
「彼女が不調だとしても、全力の私が彼女の実力に及ぶとは思えないが」
「そりゃ、確かにあんたじゃ力不足だ」
 あっさりと肯定して扉から手を離し、男は傍らの壁に背を預けた。
「でもユーディアにゃ、こんな仕事は役不足なんだよ。あいつはこんな、汚れた仕事をする必要はない。相応しいのは俺や、」
 そこで一度言葉を切って、男は、く、とその面に挑発するような笑みを浮かべる。
「――あんたみたいな人間だ。こんな汚れ役に、あいつを使うなんざ勿体ない。あいつはな、ああいう高潔な騎士様みたいな、お綺麗な役をやってりゃいいんだよ」
 言葉の端々に滲む皮肉と、その台詞に似合わぬ強い視線を、真正面から無表情にルベラは受け止め、見つめ返す。
「もし私が無理だ、と言えば」
「その時はお前の代わりにガキ連れてくまでだ」
「――……まるで脅しだな」
「まるで、じゃねぇ、脅しだよ。言ったろ?汚れ役が似合いだって」

拍手




 狩った命の爪を、皮を、肉を、内臓を、剥いで残った骨と血を、地面に吸わせて土へと還す。
 それが当たり前の営みだった。営みの、はずだった。

 目の前には小さな塚がある。
 土を盛って、その辺りから拾ってきた石を立てただけの簡素な物だ。下には何も埋まっていない。この手が放った矢が射抜いたモリビトの数は、こんな小さな塚一つの下にはきっと納まらない。
 ――きっと、なんて曖昧な言い方をするのは、殺した数を覚えていないからだ。数える暇さえなかった。或いは故意に目を逸らしたのかも知れない。
 いずれにしろ、自分達はモリビトを埋めることさえ出来なかった。それすら惜しんで、4階層を駆け抜けた。

拍手




2010/07/08
 Servant

 獰猛な唸り声、陽光を弾き返さないのが不思議なほどの鋭い爪。
――駄目だ、と思った。間に合わない。
 そう思った瞬間、咄嗟に目の前にあった肩を掴んで体を入れ替えた。悲鳴が上がる。誰の?そんなことを考える間もなく、真っ赤なオオヤマネコの口が、視界いっぱいに拡がった。


「――っ無茶は止してください!」
「……ごめんなさい、」
「貴女を守るためにみんな必死なんだ。貴女のそれは、一人の命じゃないんです!」
「……ど」
「え?」
「けれど……あなた方が死んでしまったら、私はもう王女でも何でもなくなってしまいます」
「……何を言ってるんですか。俺達如きが死んだところで、貴女は王女だ。国には陛下も王妃様も、召使いも国民も、沢山居るでしょう。みな貴女を王女と呼びますよ」
「…………」
「……えっ、な、」
「ごめんなさい、泣くのは卑怯ですね」
「いえ、その……言い過ぎました」
「いいえ。……いいえ、いいえ、ありがとう」

拍手




2010/07/04

 カッとなってやった。
 (もっとねちっこく書けば良かったと)反省はしているが、(やってやったという思いでいっぱいなので)後悔はしていない。

 女性向けです。
 カナト×ケンで。

拍手




「……何か用」
 ――尾けられていることは解っていた。だからわざわざ、こんな人気のない場所までやってきたのだ。何かあったときに、人が居てはカイにとって都合が悪いというのもあったが、それは向こうも同じだろう。場所を選んでやったのだから、感謝してもらいたいくらいだ。
「――カナト様に近付くな」
 振り向いたカイの視線の先、気配だけはカイですら舌を巻くほど希薄に、けれど視線に込められた敵意――それこそ神話の怪物のように、目を合わせただけで呪い殺されそうな――は隠しもせず、カイを追ってきていた相手。
 ケンは神具を持ったまま、ただそこに佇んでいる。しかし、今もカイの金色のそれとは違い、ケンの翳りを帯びた鬱金色の瞳には、冷たく鋭い色が宿っていた。
 彼の纏う気配を感じながら、カイは考える。
 尾行?とんでもない。はなから殺気を隠すつもりもなかったのだろう。これは宣戦布告だ。
「お前に言われる筋合いねーんだけど」
「お前は危険だ」
「へぇ?」
「副会長の言うとおり、お前は放し飼いの虎のようなものだ。カナト様に近づけるわけにはいかない」
 紡がれた台詞に、カイは口端を吊り上げる。
「は。そりゃ、不安にもなるかもな。なんたって、その虎がどれだけ危険か、お前は身をもって知ってるんだから」

拍手




2010/07/03

 今回は相当女性向け成分の濃い話なので、そう言うのが駄目な方は絶対見ちゃ駄目です。
 多分R-15……くらいです。
 あんまり注意しろよ!と言って期待させてしまうのもどうかと思うのですが、とりあえず不快な思いをする方は極力減らしたいので、ご理解の程よろしくお願いいたします。

拍手




「手伝、」
「いい。そこに居ろ」
 台詞を言い切る前に遮られた上、更には申し出を断られ、ミュルメクスの面に不満げな色が滲む。が、すぐにそれはかき消えて、代わりに浮かんだ気まず気な表情と共に、彼は深く嘆息した。
「……お前が警戒するのは解る。だが……あのようなことは、もうしない」
 曖昧な言い方になったが、それで充分通じたのだろう。僅かな間の後、小さな溜息を落として、ランビリスは振り返った。
「そういう言葉を信じたいのは山々だけどな。それの信用に足る根拠はあるのか?」
「……ある」
 入室までは許したが、口先だけの宣誓を無条件に信じられるほど、ランビリスは寛大にはなれない。自己嫌悪を感じつつも、試すような言い方で問えば、一拍おいて肯定が返った。返答の速さを少し意外に思いながらも、ランビリスは無言で先を促す。
「……お前は、心を求めて良いと言った」
 確かめるような声音で言われて、頷く。確かに、言った。――それが一番伝えたいことだった。
 それを海のような青い瞳で見遣って、ミュルメクスは口を開く。では、と僅かに声が重くなった。
「それは、お前の、でも構わないか?」
 思いがけない真摯さで紡がれた声に、ランビリスは一瞬言葉に詰まる。――だが、ミュルメクスの言は予想の内でもあった。
「…それじゃ不毛なだけだ」
 たかが一言二言の言葉で、恋情が消えるというのならこれほど楽なことはない。それは解っているから、ランビリスはただ説得を繰り返すだけだ。
「それに、何度も言ったはずだ。……俺は、」
「私が、」
 みなまでは言わせないとでもいうかのように、強い語調でミュルメクスが台詞を遮る。
「望むのは自由だ。……だが、願わくば望むだけでなく手に入れたい、と思う。お前の身も心も。だから、……強いないと約束する」

「改めて言おう。……私は、ランビリス、お前を愛している」





「……どうしてそうなる」
 困惑をにじませた呟きは、一人きりの部屋の中に力なく響いた。
「馬鹿だろうあいつ」
 それともたかが言葉だけで、人の気を変えられると思っているランビリスの方が愚かなのだろうか。
 誰一人聴く者の居ない呟きを落とし、ランビリスは深く深く息を吐く。
 本当に馬鹿だ。これは不毛な恋である。続けたところで実りがあるとは思えない。それは駄目だ、とランビリスは思う。
 結局の所。ミュルメクスからの恋愛感情は受け取れないが、それでもランビリスは、ミュルメクスの幸福を願ってはいるのだ。
 けれど、ミュルメクスがランビリスに恋情を抱いている限り、それは報われることはない。
 では報ってやればいいのだろうか―― 一瞬過ぎった思考には首を振る。そんな中途半端な行為は、今更ミュルメクスは望まないだろうし、おそらくはすぐに瓦解する不安定な関係にしかならない。余計な禍を呼び込むばかりだろう。
――幸せになって欲しい、と思う。
 ランビリスへの執着など止めて、別の誰かのことを愛して。多分ミュルメクスは、今度は人の愛し方を間違わないだろうから。
 そうして誰かと手を繋いで街にでも繰り出す方が、彼の若さにはよほど似合っているように思われる。
 その光景を何とはなしに思い描こうとして――過ぎった一抹の寂寥感に、ランビリスは困惑して瞬いた。瞬いて、まるで親気取りだと苦笑する。
 幸福になって欲しい。そう願うのに、この場に彼が戻ってこないことを考えると、空虚なこの場がこんなにも寂しい。
 いつの間にか随分と移っていた情を、ランビリスは漸く自覚した。

拍手




「……それで?回りくどく人払いまでさせて、何が話したい?」
 一年前、最後に見たときそのままの尊大さで問われて、シカラは内心苦笑しながら、膝を付いて最敬礼を取った。
「いい。今更宮廷ごっこがやりたいわけでもないだろう」
 言われて顔を上げる。膝を付いたまま見上げた青年は鷹揚というよりは面倒そうな表情をしていて、シカラはうっすらと口端を吊り上げた。
「改めまして。ご壮健のようでお喜び申し上げます、殿下」
「お前は随分窶れたな。病でも得たか?」
「はあ……まあ病と言いますか何というか」
 シカラは曖昧に言葉を濁す。胃痛を病というなら病かも知れないが、その胃痛・不眠その他諸々の原因となった出来事は、元を正せば全て目の前の青年が原因と言えなくもない。だが今日はそんな話をしに来たわけでもないし、文句を言いたいわけでも……いや、目の前の「国を追われた王子」という悲劇的な見出しがいかにも似合わないツヤツヤした様子を見ると、一言くらい言いたいこともあるが。ともかく誤魔化してしまうに限る。これでも大国で官僚をしていたのだ、言いたいことを飲み込むのは得意である。
「……この辺りの気候は、私にはあまり合わぬようでして」
「この辺りは風が乾かんからな」
「ええ。向こうにいた頃にはキツイキツイとしか思いませんでしたが、こうして異国へ来てみれば、案外祖国の冬も懐かしいですね」
「それで、そんなに母国の好きなお前が、どうしてこんな所にいる」
 遠慮の無い、探る視線を向けられて、シカラはふ、と息を吐く。やっとここからが本題だ。
「お聞きしますが殿下。国へ戻るつもりはおありに?」
 青年は一瞬虚を突かれたように瞬いて、だがすぐにその面に不満気な色をにじませる。
「有ろうが無かろうが、戻れる状況ではなかろう」
 シカラは笑みを深める。ならば自分の持ってきた情報は役に立つ。
「どうして、どうして。――宰相殿は、北へ兵を向けるつもりですよ」
「――北」
 その呟きは己へ向けてのものかシカラへ向けてのものか、青年の瞳が僅かに硬質な色を帯びる。
 北、そんな曖昧な言い方ではあったが、二人の脳裏にはおそらく共通の地名が思い浮かんでいるはずだ。今は酷く情勢が乱れていて、遠からず瓦解するだろうと目されている国。
「ええ。お偉い様方は柔軟です、掌を返すと言った方がいいですか。休戦を反故にしてまで攻め入るような旨味でも見つかったんですかね。
 あの国を切り取るというのは、元はと言えば殿下、貴方の言い出したことです。……今なら大手を振ってお帰りになれますよ。それ見たことかと」
「……シカラ」
「はい」
「今の話をしたのは私だけか?」
「勿論」
「ではこれ以上は話すな。誰にもだ」

拍手



prev  home  next
ブログ内検索

忍者ブログ [PR]
  (design by 夜井)