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2024/09/25
 神羅

 アレックスの声が出なくなった。

 伸ばした手で喉に触れる。普段ならば不躾と言っていい行動だが、アレックスは拒まない。指先が触れた瞬間、わずかに喉が上下して、じわりと高い体温が伝わってきた。
「……本当に声、出ないのか」 
 自分でも解りきっているサイガの問いに、けれどアレックスは少し困ったように眉を寄せただけで、律儀に口を開く。

 “はい”

 唇はそう語るのだけれど、音はない。ただ触れた喉が微かに振動を伝えてきて、気道を空気が通る、微かな音だけがした。
 それでもう本当に出ないことが解ってしまって、今度は問うたサイガの方が、まるで痛みを感じたような表情をすることになる。
「熱は?」

“ありません”

「喉だけなのか?」

“はい。他は、”

「ああ、喋らなくていいから」

 唇を動かすだけなら良いが、時折喉から振動が伝わってくるところを見ると、本当に喋ろうとしているらしい。慌てて手を振って止めたサイガに、アレックスは小さく首を傾げる。
 喋らなくて良い、と言われても伝えたいことがあるのだと思って、サイガは周囲を見回す。遠い卓上にあった羽根ペンに気付いて立ち上がるより先に、手を引かれてサイガはアレックスを振り返る。

“これでいいです”

 唇だけがそう言って、アレックスは常とは違い、手袋をしていない指で、サイガの掌に文字を書く。
『これでいいでしょう?』
 掌の上を指が滑っていく感触がくすぐったい。けれどそれ以上に、布越しではなく直接伝わる温度だとか、添えられた指の感触だとかが気になってしまって、サイガは照れ隠しのようにぼそりと言う。
「……ゆっくり書かないと解らんぞ」
『解ってます。』
 ご丁寧にピリオドを打ちながらの苦笑がいつも通りの様子なので、何となく安堵して、ベッドサイドに座り直す。
『本当は そんなに酷い 体調ではないので 仕事は出来る んですけど』
 いくら男の掌と言っても、指で文字を書くには狭い。少しづつ区切りながら一字一字紡がれる文字を、サイガは見つめる。
『僕らの魔法は 声や呪文に 頼るところが 大きいので 大騒ぎされて しまったんです』
「……魔法で治さんのか?」
 飛天も聖龍も魔法に長けた部族だが、飛天は特に治癒魔法に優れている。魔法に頼らず、自然の草木や自身の治癒力で傷を治すことを修行の一環とする聖龍ならまだしも、飛天にそんな習慣はなかったはずだが。
 視線を受けて、だがアレックスは首を振る。
『喉は繊細な 器官なので 変な風に治すと 声が変わって しまうのだそうです』
「それは困るな……」
 アレックスの、芯があるのに柔らかな、耳に心地よい声が変わってしまうのは嫌だ。そう言えば彼の喉はいつ頃治るのだろう。もう一度あの声が聞けるのはいつになるのだろう。

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2009/09/22
 神羅

 欲しいのは世界の秘密。
 誰も知らない世界の真理。



「……随分、大袈裟ですね」
 試験管を洗いながら、アスエルは言う。言ってしまってから、これは随分失礼なことを言ったんじゃないかと気付いたが、当のラティエルはいつもの得体の知れない笑顔で、大袈裟なもんか、と軽い調子で反駁した。
「研究なんてのは、何だって『最初に識ること』だ。記録、検証、実験、考察、地道にそんなのを積み重ねて、そうして研究者は初めて、世界で誰も知らなかった秘密を知る権利を得るんだ」
 逆を言えば、彼は続ける。
「研究の目的なんてそれだけだ。特に基礎研究なんてのはね。発見なんてもののほとんどは直接役には立たないことで、精々が仲間の研究者が他の研究をやるのに役立つくらいだ」

「だが、もしも君が世界の真理のひとかけらを識る、それだけのために貴重な時間を捧げるというのなら、私は喜んで君を私の研究室に迎えようじゃないか」

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 つ、と首の後ろに薄い金属の先端が当たる。

 咄嗟に逃げそうになって、慌てて椅子に座り直した。
「動いちゃダメだよ。ケガしちゃうからね!」
 脅し文句の割には随分楽しそうに言いながら、声の主は彼の襟足にカミソリをあて直す。
 その感触を先ほどよりかは幾分落ち着いた気分で感じながら、それでも据わりが悪いような緊張するような、ぞわぞわした心地がする。
 触れた金属の切っ先は、決して冷たくも鋭くもなくて、凹凸の付いた刃先は少し押したくらいでは肌を傷つけることはない。
 そんなことはよく解っているのだけれど、首筋を人に曝して、後ろから刃物を使われるなんて、よく考えたら信じられない、と彼は思う。
 ぞり、ともしゃり、とも付かない微かな音と共に、首の後ろで慣れない感触がする。
 やはり反射的に逃げそうになった体を、無理矢理抑えつけた。
 大丈夫。大丈夫、この人は。

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「こんばんハ。レムリアデス。泊めてくだサイ」
 深夜を過ぎて既に早朝に近い時刻、作業場の灯を落としに掛かった頃、彼女がやってきた。
 何処へ流れるとも知れない流浪の生活を送る彼女が、こうして前触れもなく訪ねてくることは珍しくはないのだが、流石にこんな時刻の訪問は初めてだ。
 見れば、蛍光灯の光を弾く金の三つ編みはゆるみ気味で、個人的によく似合うと思っている白い服も土埃で汚れている。とりあえず中に招き入れて、コーヒーはいるかい、と訊いたら、コンビーフがいいデス、と返ってきた。
 異様に少ない口数と、髪を結い直す気力もないらしいことからよほど疲れているのだろうと判断し、朝食になるはずだったライ麦のパンと、ホットミルクにコーンクリームの缶詰を加えた即席のコーンスープで間をもたせ、コンビーフを焼きに行く。
 添え物も何もないコンビーフを皿に移して戻ったときには、既にスープは空で、彼女はやたら噛みごたえのあるパンをかじっていた。その前にコンビーフとフォークだけを置いて、自分は温めなおしたコーヒーの入ったマグカップを持って向かいに座る。
 無造作にフォークを手に取った彼女は、思い出したように、いただきマス、と一度フォークを掴んだままの手を組んで、それからコンビーフを突き刺した。一口囓って咀嚼して、のみこんで、そしてようやく人心地ついたように息を吐く。
「……今日ハ、いろいろ大変だったんデス」
「そうみたいだねぇ」
 はい、とよく解らない相づちを打ってから、彼女は顔を上げた。
「レムリアの武勇談、聴いてくれマスカ?」
 それから彼女が語ったのは、夢物語のような壮絶な話だ。
 彼女達が追っていた鬼のこと、彼女曰く手の掛かる仲間達のこと、自分が作った銃が役に立ったときの話。
 冒険活劇のような話は、次第に烈しさを増してくる。
 仲間達と、鬼達を束ねる神を名乗る者のアジトを突き止めて、そこに踏み込んでからの激戦と仲間達の活躍。神に対峙する少年と少女、彼等を阻む鬼と、力を貸す鬼と。
 神に従う鬼を退けて、彼女の仲間の一人が神へと挑んだのだが、彼は致命傷を負ってしまったらしい。けれど、代わりに立ち向かった少年が――その正体も神だったらしいのだが――が勝利を収めて、地上の平穏は保たれた、らしい。
 彼女自身はその余韻に浸る間もなく、すぐに仲間の手当と、治療できる場所へ運ぶのとでその場を離れてしまったから、その後のことは知らない、と彼女は語った。
 仲間を信頼できる人の所へ預けて、もう一人の仲間にその場を任せると、レムリアは服に付いた血だけ落としてそのまま列車に飛び乗ったのだという。
 最終便で辿り着いたらこんな時間になってしまいマシタ、そんな風に言う彼女の服をよく見てみれば、確かに付いている汚れは土埃にしては少し赤茶けている。
「とっても、疲れマシタ」
 まるで物語のような話を語り終わって、彼女はそう言って長く息を吐く。そうやっていると、荒唐無稽にすら聞こえる話が、まるで本当にあった出来事のようだ。そう、誰が信じるのだろう、こんな話! バレルは信じるのだけれど。
 だから、バレルはうん、と相づちを打つ。お疲れ様、と付け足すと、彼女が少しだけ笑った。
「それから、ちょっとだけ怖かったデス」
「怖い者知らずの君にしては珍しいね」
「敵が、だけじゃありまセン。ジークが死んじゃうのも怖かったデス」
 ああ、ともうん、とも付かない相づちで返して、バレルは内心で、妬けるなぁ、と呟く。そういう形で彼女の心を動かせるのは、共に旅をする者の特権だ。こうして北の大地に居を構えているバレルには手が届かない。
 そんなことを考えていたから、次の台詞への反応が遅れた。
「だから、全部終わったら貴方の顔が見たくなったんですヨ」
「……え?」
「お顔を見せてくだサイ」
 次の瞬間テーブル越しに彼女の手が伸びてきて、思わず少し仰け反ったバレルの頬を両側から挟む。そのまま立ち上がったレムリアが顔を近づけてきて、鼻先が触れあうより少し遠い距離で青い瞳が瞬く。
 突然のことに窘める言葉が出ないバレルをよそに、レムリアは言う。吐息の掛かりそうな距離で。
「よーく、見えマシタ。それで、安心しマシタ」
 そう言って、やっとレムリアが離れてゆく。ごちそうさまでしタ、と楽しそうにレムリアは笑った。
「このお皿、流しに入れておけばいいですカ?」
「……そうしてくれると助かるかな」
 了解デス!敬礼の物まねをして、フォークとカップ、それから先ほどまでコンビーフの載っていた皿を重ねて隣のキッチンへと持っていく背中を見送って、バレルはなんだか急に疲れてしまって肩を落とした。

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 立埋

 神羅で平安妖怪ものパラレル。
 平安、とか言っても「平安っぽい感じ」の場所が舞台なだけで、平安時代・或いは陰陽師やらが活躍した時代の文化的考証はまったくと言っていいほど行われておりません。

 パラレルとかそういうの駄目って方は続きを読んではいけません。




 相変わらず師匠とゼクウ様とその息子達のお話。
 三人とも故人です(……)。

 ウンリュウさんの陵墓に咲く花精がフヨウさんで、ご兄弟と懇意の中であるとかなんとか。
 フガクさんは生前いろいろあった所為で身内に対して過保護気味とか。
 書ききれなくて悔しかったのでここで蛇足しておきます。

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「何やってるの」
 空に浮かぶ島の端も端、縁に面している所為で今にも下界に崩れてゆきそうな広間の真ん中へ向けてルキアは言った。
 話しかけられた当の本人は、巨大な金属の塊を座らせて、更に周りに得体の知れない工具をぶちまけている。その十数メートル先は既に崩れて床はなく、覗き込めば限りなく良い見晴らしが広がる。いつ崩れるかも解らない床の上での作業は、翼を持たない彼女には些か蛮勇に過ぎよう。
 その彼女は今持っていた工具をぞんざいに床に放り投げると、少し離れたところにあった奇妙な形をしたドライバーを手に取るついでに、ちらりとルキアに視線を寄越す。そのまま得体の知れない機械へと向き直った背中から、ただの整備だわさ、と声がした。
 それ以上は言う気がない、または構っている暇はないと言外に語る白衣の背中に、ルキアは不満げに鼻を鳴らしてもう一言問いかける。
「それが北の遺跡で見つけたヤツなわけ?」
 多少こちらの手の内をばらしてみたつもりだったのだが、ドロシーは相変わらずせわしなく手を動かしながら、大きな帽子の載った頭を少し傾けただけだった。
「……なんだ、知ってたの?」
「北に遺跡があるって教えたのは私なんだけど?」
 そう言えばそうだったわ、けらけらと笑って、初めてドロシーはまともにルキアを振り返った。その顔には、悪戯を見つかった、ではなく悪戯の共犯者を見つけた、というような表情が浮かんでいる。もしここにいるのがルキアではなくディルクルムだったら、あいつはもの凄く嫌そうな顔をしただろうなとルキアは思った。
「でも不正解。これは遺跡にあった記録の調査結果を基にして作った、ただのレプリカだわさ。本格的な発掘と本物の調査は、」
 一度勿体ぶるように言葉を切って、ドロシーは、にい、とトラブルメーカーの笑みを浮かべた。

「この子が完成した、今日これから」

 ルキアはそれを呆れた気分で見つめる。今は膝を付いているから解らないが、ドロシーの背後にある機械はドロシーの背丈よりも随分大きい。これだけのものが一日やそこらで作れるわけはないから、遺跡の調査とやらは随分前に行われていたのだろう。しかもおそらく、複数回にわたって。まったくこんな小娘が――と言っても見た目はさほどルキアと変わらない――どうやって他の羅震王達の目を欺いたのやら。
 けれど、これからは今までのようにはいくまい。王我血族でも屈指の戦闘力を誇ったオデオンの戦死、更にそれに次ぐ十二星卿の敗北。十二星卿については、元から羅震王の指示に従わぬ者達ということで、敗北による不安の声は小さかった(むしろ皇帝の守護を任せて大丈夫なのかという声が上がったくらいだ)が、オデオンの戦死は大きかった。王我血族を統率する柱が一つ欠けて、おかげで今この島の空気はピリピリと不安定に張り詰めている。たぶん、すぐに地上への攻撃が決断されるはずだ。
「どうせアタシは戦力にならないから関係ない。好き勝手やるんだわさ」
 ルキアの顔色を読んだようにドロシーが言い、ルキアが言い返す。
「やらせてもらえると思ってるわけ?」
「やらせてもらう、んじゃなくやるの。阻止できるものならすれば良いんだわさ」
 絶対の自信を滲ませて、ドロシーは言い切る。
「それに、アンタはアタシを止めるようなヤツじゃない」
「……ま、確かにそうだけどね」
 言い当てられて、ルキアは肩を竦める。自分だって好き勝手したいのだ。同じように思っている誰かを止める気などさらさら無い。
 耳に残る高い声でドロシーは笑って、だからアンタのことは気に入ってるんだわさ、と言った。

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2009/08/03

「例えば、死体になりたてのアンタの心臓を取り出して、アタシにくっつけたとして」
 嫌な例え話に、ルキアはわずかに鼻に皺を寄せたが、お構いなしにドロシーは続ける。
「アンタの心臓はアタシの中では動かない。アンタとアタシは違う個体だから。アンタからもってきた心臓は、アタシに由来する組織じゃないから、アタシの一部にはならない……拒絶反応ってさ、知ってるでしょ」
「あんたの話で言うなら、あんたが私の心臓を攻撃するんでしょ?」
 握ったコーヒーカップの中で、白いミルクが渦を作って混ざり合ってゆくのを眺めながら、ルキアは答える。ドロシーの握るカップの中は、はなからカフェオレだ。
「詳しく言うなら、自分と違う『印』を持ってるものを攻撃するんだわさ。毒を出すわけでも癌になるわけでもないのに、印があれば攻撃して消そうとする。……で、そのまま放置しておいたらどうなると思う?」
「……心臓が溶ける」
「この話が面白いのは」
 どこが面白いのかと、嫌な想像にげんなりするルキアの正面で、ドロシーはカフェオレに口を付けた。
「心臓はあくまで本人であり続けようとするところだわさ。本体なんてとっくに死んでるのに、それでも宿主に同化しないで、呑み込まれるのに抵抗する」
 抵抗。それはつまり、
「つまり――宿主を攻撃する」
 後は泥沼だわさ。眼鏡の奥で、紫色の瞳が笑うように光った。

「宿主が死んだら、心臓も死ぬのにね」

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 行ってしまうの?


 記憶の中の姉の声は、いつも柔らかく、寂しいくらいに澄んでいる。

 穏やかな羽音と共に降り立った足音がそれ以上近づいてこないので、ルリエルは振り返った。表情を消す必要はなかった。既に決めたことだったから、何の感慨もわかなかった。

 リムリエルはいつもそうしているように、ごく微かな微笑みを浮かべて、そこに立っていた。対するルリエルは無表情で、端から姉に応える言葉は持っていない。
 無言のまま対峙した二人は、そのまましばし見つめ合った。
 やがて口を開いたのはリムリエルの方で、その唇から紡がれたのは、行ってしまうの、と先ほどと同じ、けれど確信の色合いを宿した声だった。
 ルリエルは答えない。けれど、それが何よりの肯定だった。

 そう、と呟いたリムリエルは、そこで初めて、少しだけ寂しそうな顔をした。

 みんな、遠くへ行ってしまうのね。

 記憶の中の姉は、寂しそうな声で言う。



(けれど姉さん、)

(あなたの言うみんなや、私の手の届かない高みに登ってしまったのは、)

(あなたなのに)

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2009/08/02

 ごめんなさい。
 呟くように落ちた言葉をなんと取ったのか、彼は少し疲れた顔色で笑って、メリルの所為じゃない、と言ってくれる。
 その言葉がとても優しくて、落ち着いた声音で、だからメリルは嬉しくて切なくて申し訳なくて、何も言えなくなってしまう。
 慰めるように肩に回された彼の掌の温度を感じながら、今ならこのまま彼の胸に顔を埋めても良いのかも知れない、とぼんやり思った。
 けれどとてもそんなことは出来ずに、メリルは代わりに控えめに彼の肩へと額を寄せる。
 出なかった言葉の代わりに、胸の中でもう一度ごめんなさい、と言う。

 ごめんなさい。
 ごめんなさい神様。
 あなたが戻ってきて良かった。
 まだ一緒にいられて良かった。
 神力を無くしたのがゼロさんで良かった。
 あなたが帰ってしまわなくて良かった。

 ごめんなさい神様。
 私は罪深い。

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2009/07/17

「ここに居たのか」
 伸び放題の草を踏み分ける足音が止まり、気付いていないわけはないだろうに、己より幾分か低い声を聞いてから、やっと彼は振り返る。
 陽光に暖められる前のひやりとした空気は、樹木の吹きだす水の気を濃く含んで少し重い。夏に向かう頃独特の空気をまとわりつかせて、ミロクは肩越しに義兄を見上げる。そのミロクの肩から向こうには、未だ睡りの中にあるつましいながらも整えられた町並みが見えた。
 その町並みを見やって、インドラはわずかに眼を細める。
「残ろう、なんて考えてはいないだろうな」
「まさか」
 軽く笑って前へと向き直りながら、同行いたしますよ、と言う。けれどインドラにはそれもどこか上の空の声に聞こえて、だから何も言わずに踏み出した。
 一歩、二歩、少し大股に踏み出せば、あっという間に義弟との距離は縮まって、ほとんど隣に並べてしまう。
「お前が来ないとナユタが悲しむ」
「…………」
「私もだ」
 だから、来い。
 インドラの視線の先、ミロクはしばらく黙っていたが、やがて町並みへ据えていた瞳をふと閉じた。その仕草に滲んだ哀惜は果たして義弟のものだったのか、義弟に映ったインドラ自身のものだったのか。
 囁くような肯定の返事を聞いてから、インドラはそっと義弟と町並みから視線を逸らした。

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2009/07/14
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