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2024/09/24

 うちのカップルさん達に50~100の質問をしてみました。
 プリバリ編なので100まで回答する所存ですが、とりあえず一区切りで50まで。
 50まではプラトニックカップルさんでも答えられる問ばかりですが、100までの回答を前提としているため、些か不健全な内容が含まれるかも知れません。

提供元
BIANCA 南斗あきら様

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 うちのカップルさん達に50~100の質問をしてみました。
 百合編と言うことで、カップリングは金姫とアリスの二人です。清い関係なので前半の問50までお借りして回答しています。

提供元
BIANCA 南斗あきら様

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 戦士の血を引く兄妹達は国へ帰った。
 海賊と巫者の少女は船を得て島を去り、僧侶は一日の終わりを告げるような軽い挨拶とともに姿を消した。
 異国渡りの技師は、篭もる場所を世界寿の根本の迷宮から港の縁の工場へと変え、今もあの島にいる。
 国を追われた主従達は、まだほとぼりが冷めるまで、迷宮の謎を糧に暮らすらしい。「この島離れたくない理由も出来たしねぇ?」そう含んだ顔で笑って、気安い従者は真昼の真っ白な光の中に波打つ髪を曝し、宿を出ていった。
 彼らを監視しているという青年二人も、やはりそれを追うように宿を引き払っていった。物々しく加入した二人だったが、いざギルドを離れるにあたって、もっとも丁寧な対応をしていったのは彼らだった。公の任ではない故に礼状もしたためられぬ不義理をお許しいただきたく、と言って頭を下げた青年に、メリッサは随分と面食らったものだ。
 そうして一人減り二人減り、すっかり人の気配のしなくなった宿の一角の一部屋で、先に旅立っていった彼らと同じく荷物をまとめ、港の船着き場でシスターと技師の見送りを受けたのが、丁度一週間前のこと。
 長いようで短い船旅が終わり、この船が港へ着けば、そこで長いこと行動を共にした青髪の青年の任務も終わる。晴れて彼は海軍に戻れるというわけだ。
 そうしてギルドは、また二人きりになる。世界寿の麓へいこう、そう約束した日の、ファルファーラとメリッサのたった二人きりに。

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2011/06/10

「お久しぶりです、お兄様」
 滑り込んだ部屋の中、来客用のソファに一人だけ腰掛けていた人物を認めて、ファルファーラは微笑む。ごきげんよう、とドレスをつまむ代わりに、ほんの少しだけ腰を曲げた。
「こんばんは、ファルファーラ。……こっちへ掛けなさい」
 ファルファーラが僅かに首を傾げてみせると、彼はつ、と向かいのソファを示した。それでやっと、ファルファーラは分厚い絨毯の上を進み、兄の向かいに座ると、そっと視線を落とした。兄の声は、怖い。間違えたら、もしファルファーラはどこも「おかしく」なんてないのだと露見してしまったら。彼と話すとき、ファルファーラはそれを一番に恐れている。
「明日出発するのだと聞いたよ」
 顎に張り付きそうになる舌を動かして応じる。決して不自然なところがないように。
「はい、明日、アーモロードへ出発するんです。とても楽しみ」
 同じ言葉を繰り返して応じる。大抵の人は、これで眉を顰めるものだ。
「迷宮へ挑むのだったか」
「ええ、迷宮の奥には未だ誰も入ったことのない場所があるのですって。私、そこを探すんです。ねえお兄様、迷宮の奥は海の底より深いのでしょう?人魚の国があったら、私、自分のことをなんて紹介したらいいかしら」
 今時少女でさえしないような妄想に、はたして兄は僅かに口元を歪めただけで、応えを返さなかった。
「……アーモロードには話を通してある。くれぐれも粗相の無いように」
「そそう?」
「失礼なことをしないように」
「わかりました、ちゃんとご挨拶します。ねえお兄様」
「何かな」
「アーモロードにも王家があるのでしょう? お姫様はいるかしら。仲良くなれたら素敵ね」
 ふ、と彼は溜息を吐く。それに混じったどこか呆れたような色には、決して気付いた素振りを見せてはいけない。
「ファーラはまるで子供のようなことを言う」
「子供なんて。私、もう18です、お兄様。大人です」
「なるほど、ファーラは一人前のレディというわけだ。だがレディなら、そろそろ結婚を考えなくてはならないな」
「結婚……ですの?」
 どきり鼓動が大きく打った。思わず鸚鵡返しに呟いて、慌ててファルファーラは口を噤む。違う、心が幼いままのファーラ姫は、結婚だなんて言葉に、そんな風に狼狽えたりしない。
「そうだ」
 次第に鼓動が早くなる。今そんな話を進められたら、アーモロードへ発てなくなってしまう。よしんばアーモロードへ発つことが出来ても、すぐに連れ戻されてしまうだろう。
「大人になったら、すぐ結婚しなければならないのですか?」
「そうだな、出来るだけ早いうちに」
 動揺する心とは裏腹に、そっと思考が囁く。そうでしょうね。私が嫁げば、王位は間違いなく貴方のものだから。
 するりと入ってきた思考は、即座に動揺する心を冷ました。
「でもお兄様、私、明日には出発してしまいます」
「だから、ファーラが帰る頃に合わせて準備をしておこう」
「準備って、どんなことですの?」
「細かなことだ。相手に話を通したり、場所の用意をしたり。こちらに任せておけば全てやっておく。なんなら花嫁衣装で帰ってきても良いように」
「素敵ですのね」
 何も解っていないような顔で、ファルファーラは微笑む。なんということはないのだ。ここに帰ってこなければ、そんなことは起こらない。兄の思惑通りに動かされたりもしない。
「そういえば、お兄様、お父様は?」
 最前から答えのわかりきった問いを今更のように発すると、兄は首を横に振る。
「ファーラの出立前最後の日だからとお呼びしたが、生憎お加減がよろしくない」
「そうですの……」
 憂うようにファルファーラは俯いたが、実際の所、父王の容体は予想の範囲だった。既に身を案ずるよりは諦めの方が強く、政務の殆どは父の手を離れて久しい。その程度には父王は長く病床に伏せっており、またそうでなければファルファーラが望んだように、この国を離れることなど出来はしなかっただろう。
 迷宮へ挑むなどという夢追うようなことは、きっと許されなかった。
「……では、お兄様、私はこれで」
「明日は早いのだったか」
「はい。父上によろしくお伝えください」
 言って、ファルファーラは席を立つ。返事も待たずにドレスの裾を翻して扉へ向かう彼女の背に、珍しく声が掛かった。
「おやすみファルファーラ。良い夢を」
 立ち止まって、ファルファーラはゆっくりと振り向く。それがただの慣例の言葉だったのか、或いは何某か含まれた意味があったのか。いずれにしろ、ファルファーラは何も解らないふりで微笑むだけだ。
「はい、素敵な夢を沢山見られると、いいのですけれど」

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2011/05/19

 白い石をくりぬき、或いは積み上げて作られた王城は、床ばかりでなく柱まで白い。すっと伸びた円筒に飾り彫りの施された柱の支える、その天井までもが淡い濃淡のある白で作られていて、薄く影の落ちる夕刻より後は眼を凝らさないと遠近感を見失う。
 今もこの先の部屋の主を気遣ってか、いくらか燭台の間引きされた回廊は仄暗く、薄い影と影とが溶け合わさって最奥の扉は遠くも近くも見える。
 しかし、端から覗き込んだ際には永遠に続くかと見えた回廊も、いつの間にか赤い絨毯の端は数歩先にまで迫っており、立ち止まった主人の二歩後ろで、メリッサもまた立ち止まった。
 薄い金色の産毛の生えた白い項のすぐ上辺りで、赤い耳飾りが揺れる。けれどそれはルビーでもスピネルでも、ましてやガーネットでもない。どこかの街で、ガーネットの色を真似て作られた新作のガラス――そういう触れ込みではあるけれど、所詮はただのガラス玉だ。彼女が身に纏う宝飾のうちで、本物の石が使われているのはティアラだけ。けれどそれですら本来ファルファーラの物ではない――否、ファルファーラの物ではなかった、と言うべきか。若くして亡くなった彼女の姉の形見であるそれは、もう何年もずっと彼女の頭部を飾っている。
 それを誰も咎め立てようとしない程度には、ファルファーラは城の中では顧みられない存在だった。憐れみや、ファルファーラの言動の気味の悪さが多分にそれを助長していたにしても、誰もがただ儀礼的に、形式的に接してゆくだけ。
 誰も――そこまで考えて、メリッサは無意識に、自分の水色のエプロンドレスを握りしめる。メリッサを除いて、他の誰も、その内実に触れようとはしない。
 だからこんな窮屈なお城なんて捨ててしまって、遠いところへ行こうと二人で誓ったのに。
「メリッサ」
 少しだけ硬い声で呼ばれて、はい、とメリッサは小さな声で返事をする。深く息を吸い込む仕草か、ファルファーラの肩がほんの少しだけ上がって、それから彼女は振り向いた。
 この先の部屋で待つ人のはからいであろう、本来扉の脇を固めるはずの警備兵の姿は今はない。
 だから今、ファルファーラは素のままの言葉でメリッサと話す。
「メリッサは、ここで待っていて。すぐ戻るわ」
「……でも、姫様」
 言いかけて、メリッサは言い淀む。確かに、これより先にメリッサが踏み込むのは非礼となる。
「ここはお父様のお部屋だもの、お兄様も何もできないわ、大丈夫よ。だから何かあっても、決して怖いことをしては駄目。ねえ、約束して、メリッサ」
 私、貴女が大切なの。そう目を合わせて言われては、メリッサは何も言わずに頷くしかない。
 ファルファーラの言葉は決して嘘ではないけれど、全てが真実でもない。その証拠に、覗き込んだ瞳には不安が宿っているし、ありがとう、という囁きは怯えたように掠れていた。大丈夫と言い聞かせながらも、ファルファーラはそれを信じ切れていない。
 そっと絡められた指がほどけて、細い背中が扉の隙間に滑り込んでゆくのを、メリッサは何故頷いてしまったのだろうと、酷く後悔しながら見送った。

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2011/05/17

 ねえメリッサ、かき消えそうなか細い声が囁いた。
「好きな人と一緒にいたい、と思うのはいけない事かしら」
 弦の震えるような声だと思う。張り詰めて、震えて、今にも切れてしまいそうな。それが痛々しくて、メリッサがそっと両掌で包んでいた柔らかな手を握ると、小さく息を呑む気配がした。他にどうしたらいいか解らなかった。夜の空気と同じ温度の肌に、胸の奥の方が締め付けられるような気分が押し寄せてくる。一日中歩いて疲れ果てた足よりも、魔物に負わされた治りきらない傷よりも、そちらの方がずっと苦しくて、リッサは見えないように少し俯いて眉を寄せた。
 一瞬緊張したように硬直した白い手は、それからゆっくりと繊細な指を折りたたんで、メリッサの手を握り返してくる。
「きっと、もう一度逢いたかっただけなの。それがいけないことだなんて、……いけない方法だったなんて」
 独白にも似た呟きに、メリッサは何も言うことが出来ず、ただ胸の内の思いを呑み込む。
 いけないことなんてない、あなたと一緒にいることを禁じられたら、そんなことは耐えられない。だからメリッサは何があってもファーラの側にいるし、それが出来なければきっとどこかが壊れてしまう。
 メリッサの願いも想いも、グートルーネのそれと、きっと本質は変わらない。
 けれど、それを言ってもどうにもならない。白亜の姫君のしたことは何も間違いではない、だから彼女の存在を容認する?
 それでは駄目なのだ。今深都の意向に真っ向から反するようなことをすれば、それこそこの地にファーラの居場所はなくなってしまう。
「私、ずっとここにいたかった。私をここに居させてくれるみんなを守りたかった。私の……国を、護りたかった。なのに……どうして、こんな事になってしまったのかしら」
 私達も、彼女も。
 そのあまりにもうち沈んだ響きに、メリッサは強く首を振る。
「ファーラ様、どうしてなんて仰らないで。ファーラ様が間違ったことをなさったわけではありません。だから、どうか……」
「でもメリッサ、彼女人だったの。貴女も会ったでしょう、彼女、今も人かも知れないの。……けれど私、私達」
「ファーラ様!」
 鋭く遮られて、驚いたようにファーラはぴくりと肩を竦める。
「お願いですファーラ様、言わないで……」
 メリッサの泣きそうな声音に、ファーラの方から項垂れるように力が抜ける。
「……ごめんなさい、私、貴女と一緒にいたい。彼女のことを、人事だなんて思えないの」
 ごめんなさい、もう一度小さく落ちてきた声に、メリッサは首を横に振った。
 だって、おかしい。ファーラもメリッサも、ただあの白い城から一緒に逃げてきたかっただけだ。それなのに、こんな事に巻き込まれてメリッサにとってこの上なく大切なファルファーラが傷ついている。そんなことはおかしい。ファルファーラはこれ以上傷ついたり、穢されたりしてはならない。
 メリッサはそっと息を吸い込む。例えこの願いが深都の怒りに触れようと、或いはフカビト達の思う壺だったとしても、それだけはさせられない。
「グートルーネ様がフカビトだというのなら、真祖を倒しましょう。グートルーネ様をフカビトにしたのが真祖ならば、真祖を殺せば彼女も元に戻れるかも知れません。そうしたらフカビトを恐れることもなくなるし、深都の意向にも反しません。もしそれで駄目なら、もっと深くへ下りて魔を倒しましょう。どれだけ大変でも構いません。グートルーネ様を討たなくていい方法を探しましょう。私、何だってします」
 メリッサはファーラの側にいたい。側にいて、叶う限りの全てから守りたい。彼女を穢す何ものからも遠ざけたい。彼女も、彼女の願いも、全て損なわれてはならない。だから。
「だからファーラ様は、人殺しなんてしないで」

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 こっちにおいでよ、という他意のない言葉が素直に嬉しかったのはもう随分と昔の話、今は余計な感情ばかりが混じって、はい、と一つ頷くのにもとぎまぎしてしまう。
 微笑んで示された彼の傍らに腰を下ろすと、ちょうど頭上と二方からは影になる岩の窪みがぴったりと埋まった。子供が秘密基地に選ぶならこんな場所なのだろうかと(実際は外海深くのこんな場所には、子供どころか人が訪れることすら稀なのだが)思いながら、僅かに身を捩っただけで肩の触れあう距離に、我知らず身を固くする。離れようにも、あつらえたような岩の窪みから抜け出すのもおかしな気がして、ケンはざらついた岩に背中を押しつけるようにして小さくなった。
 こういう、いかにも気の置けないところを態度で示すカナトの振る舞いは、今でも決して苦痛ではない。踏み越えられない己の臆病さを、彼の好意で埋めるのは――卑怯だ、と思わないわけではないが――心地いいのだ。
 後、ほんの少しだけ。ケンは視線だけで、野営用の毛布にくるまれたカナトの肩辺り、もう奇麗とは決して言えない薄汚れた毛布から覗く、こちらはくすまない金色の髪、形のいい耳を見遣る。多分、カナトが好意を示してくれるように、ケンがほんの少しだけ手を伸ばせば、もっと近くなれる。それはほとんど確信として、ずっと感じている。
 ――ただ。
 風よけに纏った布の内側で、ゆるりと上げかけた手を、ケンは意識して地に押しつけた。
 これ以上近付いたら、彼に触れるだけでは決して済まなくなる。誤魔化しようのない位置まで近づいて、それでも抱えた物を誤魔化して隠し続けるような器用さは、ケンにはない。
 好き、というのが決して綺麗な感情だけではないと知った日の絶望。敬愛と親愛、そしてそれらを裏切る劣情を孕んだ思慕。搔き混ぜすぎたマーブル模様のように、ぐちゃぐちゃに混じり合って濁りかけた想い。
 ケンは未だ、これをカナトに見せることが出来ないでいる。

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2011/04/24

 正直どのカテゴリーに入れたものか大変悩むのですが、とりあえずここに。
 青年プリY兄上の方とその部下のウォリ雄Y氏。
 大変ぬるいですが15禁くらいでお願いします。腐女子向けです。

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「貴女がそう仰るのなら、貴女をギルドにお迎えすることは吝かではありませんが。……そうですね、一つ、守っていただきたいことがあります」
「いいよ、馬鹿みたいに無茶なことじゃなければね。言うことくらいは聞くさ」
「私、このギルドのどなたにも欠けて欲しくありませんの」
「だから、もう手は出さないよォ。出しても良いことなくなったし。……そんなに信用無いなら誓おうか?」
「そちらではありません」
「じゃあどちら?」
「貴女が、」

「貴女に殉教されてしまったら、私、とても困ります」
「……それは、なんでかな。国に咎めだてられるから?それともギルドの雰囲気?」
「いいえ。私の心の秩序のために」

「貴女に信仰があるように、私にも内なる律があるのです。このギルドは私のもの、ですから私には、ギルドの方々を庇護する義務があります。一人も取りこぼしたくはありません」
「――あんたら、めんどくさい生き物だね」
「とり方は人それぞれですわ。――お約束、守っていただけますか?」

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2011/04/18

 時々ね、お月様が怖いんだ。

 真円の月はぷかりと低い位置に浮かんで、一筋の雲の翳りもなくその姿をさらしている。
 いつになく明るい月光は、呟いた彼女の肌の滑らかさと整った輪郭を際だたせ、柔らかそうな金髪に薄い翳りを落とす。たおやかに体の線を隠す夜着から伸びた剥き出しの腕は、日焼けしているはずだったが、月の光の下では数段白かった。
 悔しいな、とメリッサは思う。曖昧で静かな月の光は、彼女の持つ雰囲気からはほど遠かったけれど、それでも彼女の美しさを充分に引き立てた。もしこの瞬間を絵画にしたら、きっと画家はその絵に彼女の名前は付けない。メリッサは神話には詳しくないけれど、セレーネだとか、ルナだとか、そんな女神の名前を題名をつけるはずだ。
 そんな風に月の恩恵を一身に受けながら、月が怖い、と彼女は言う。
 言ってから、彼女は少しだけ間をおいて、ううん、と少し首を傾げる。
「ちょっと違うかな。今怖いんじゃなく、怖かったことを思い出すんだ」
 怖い、とメリッサは口の中で呟く。それが聞こえたのか、エフィメラはごく簡単に頷いた。
「宮殿から逃げ出した日。月が出てたんだ。銀色のお月様がさ、ばかでかい城の屋根に掛かって、小さいくせに妙に明るいの。足下にうっすら影が出来るくらいでさ……」
 怖い、と言うくせに夢見るような滑らかさで、エフィメラは言葉を紡ぐ。緩やかな瞬きに応じて、青い瞳が一瞬だけ翳った。その一瞬にどんな感情が彼女の瞳に浮かんだのかは、メリッサには読み取れなかったけれど。
「取る物もとりあえずでさっさと逃げなきゃならないっていうのに、いざ建物から出ようとしたら、月が明るくてさ。足が竦んだの。見つかるんじゃないかって」
 そこで言葉を切ったエフィメラの視線を追って、メリッサは窓を見上げる。薄く黄色みがかった、大きな月。メリッサには、怖い、と言ったエフィメラの見た月を想像することは出来ない。出来はしないけれど。
「でも……それでも貴女は、ミュルメクス様を連れてお逃げになったのですね」
 その怖さだけは、少しだけ想像できるような気がした。
 そりゃあね、と屈託無くエフィメラは笑う。
「その場に残ったら、殿下捕まっちゃうもん。行くしかないじゃない。あと、どっちが連れてたかってのは、逆」
 引っ張ってったのは私だけどね。付け足された言に苦笑を返しながら、メリッサは思う。彼女の言った、今怖いわけではない、という言葉は本当なのだろう。そうでなければ怖い物を前に、こんな風に笑えはしないから。
(私は――……何かあったら、姫様の手を引いて、逃げられるかしら)
 それだけの勇気と才覚を、自分は持てるだろうか。
 小さく響いてきた歌声に、そっと目を閉じてメリッサは己の胸に問う。己はいざというとき、怖いものから目を逸らさないでいられるだろうか。立ち向かうことができるだろうか。
 やがて歌声に気付いたのか、綺麗な歌だね、と首を巡らせるエフィメラに小さく頷いて、メリッサは口を開く。
「エフィメラさん、……理由は違いますけど、私も月が怖いんです」
 無言のままこちらへ向けられた視線を感じながら、メリッサは落とした声で言葉を紡いだ。歌声は小さく、けれど未だはっきりと響いている。
「月が……満月が何かを変えてしまいそうで、それが少し、怖いんです」
 視線を上げてメリッサはエフィメラを見た。月の光を受けて、相変わらず彼女は美しい。けれど流れてくる歌声は、それを上回って美しかった。
 人の声とも思えぬ滑らかさで紡がれるメロディも声も、馴染んだもののはずなのに、とてもそうは思えない。今まで聞いてきた同じ歌が、まったく別の物に聞こえるほど澄んでいる。心を震わせるような感情の抑揚はなく、ただひたすら澄んで、抵抗無くどこまでも響くような――そういう歌。
 翌朝になれば、この声はまるで夢から覚めたように人らしい色を取り戻す。それは解っているのだけれど……
 喉まで出かかった不安を呑み込んで、メリッサは俯く。言って不安を撒き散らしてしまいたい。けれど、言葉にしたら本当にそうなってしまいそうで、言えなかった。
(姫様が、私の知っている姫様じゃなくなってしまったらって――……)

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2011/03/23
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